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無能と追放された鑑定士、実は“価値を変える力”で街ごと最強になる 〜評価されないもの全部、俺が使いこなします〜  作者: 影山クロウ


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第4話 使えない者

「それは楽しみだな」


 そう言ったのは俺だが、正直に言えば、半分は強がりだった。


 “完全に使えない”と判断された人間。

 その時点で、ほとんどの可能性は潰されている。


 ただ――。


「どこにいる」


 俺はセレナに聞いた。


「ここです」

 彼女は軽く顎で示した。


 同じギルドの、さらに奥。

 物置のような小部屋だった。


 扉は半開き。

 中からは、何の音もしない。


 セレナが扉を押す。


 軋む音。


 中は、狭かった。


 机と椅子が一つずつ。

 壁際に積まれた木箱。

 その隙間に、男が座っていた。


 背を丸め、床を見ている。


 年は二十前後か。

 装備は……ほぼない。

 革鎧も着ていない。ただのシャツとズボン。


「……まだいたんだな」


 思わず口に出た。


 ここは、冒険者が来る場所だ。

 この状態で残っているのは、ある意味で珍しい。


 男が顔を上げる。


 目が合った。


 すぐに逸らされた。


「アルド」

 セレナが声をかける。

「少しだけいい?」


「……またですか」


 低い声だった。

 リナと似ているが、少し違う。


 諦めているというより、最初から拒否している声。


「今日は違う人を連れてきたの」

「どうせ同じだ」


 アルドは俺を見ない。


「戦えないやつは、いらないって言われる」


「そうか」


 俺は一歩、近づいた。


 近づいても、アルドは顔を上げなかった。


「何ができない」


「……全部だよ」


 即答だった。


「剣も駄目。槍も駄目。弓も無理。魔法も使えない」

 淡々と並べる。

「体力もないし、足も遅い。役に立たない」


 言い慣れている。


 誰かに言われてきた言葉を、そのまま並べている。


「なるほど」


 俺は周囲を見る。


 部屋。

 机。

 箱。


 そして、アルド。


 違和感があった。


「手、出せ」


「……は?」


「いいから」


 少し間があってから、アルドはしぶしぶ手を差し出した。


 細い。

 力はない。


 だが――。


 俺はその手を見て、少しだけ眉をひそめた。


「お前、物触るなって言われたことあるか」


 アルドの肩がびくりと動いた。


「……ある」


「壊すから、って言われたか」


「……そうだよ」


 セレナが横で静かにこちらを見ている。


 俺はアルドの手を離した。


「机、触れ」


「は?」


「いいから触れ」


 アルドが怪訝そうな顔で、机に手を置く。


 次の瞬間。


 小さく、音がした。


 “ピシッ”


 机の角に、細いひびが入る。


 沈黙。


 アルドが手を離す。


「……だから言っただろ」


 自嘲するように笑う。


「触ると壊れるんだよ」


 セレナが小さく息を呑む。


 俺は、机を見たまま言った。


「壊してるんじゃない」


「は?」


「外してる」


 アルドが顔を上げる。


「何を……」


「力のかかる場所を、無意識に外してる」

 俺は机のひびを指でなぞる。

「普通は均等に力をかける。だから壊れない」


「……それで?」


「お前は、弱い場所にだけ力を通してる」


 アルドが黙る。


 理解していない顔だ。


 だが、完全に否定もしていない。


「つまり?」

 セレナが聞く。


「一点だけを壊すのは、逆に難しい」


 俺はアルドを見る。


「お前、武器は持つな」


「……は?」


「代わりに、触れ」


「意味分かんねえよ」


「敵じゃなくていい。装備でも、足場でもいい」

 俺は続ける。

「“壊す場所”を選べ」


 アルドの目が、少しだけ揺れた。


「……そんなの、戦いで使えるわけ」


「使える」


 俺は短く言う。


「ただし、使い方を間違えると全部壊す」


「……それは今と同じだろ」


「違うな」


 俺は一歩下がる。


「今は、勝手に壊してる」


「……」


「これからは、選んで壊す」


 沈黙。


 アルドが、ゆっくりと手を見る。


 さっきまで、嫌そうにしていた手だ。


「……そんなこと、できるのか」


「できる」


 俺は答える。


 根拠はない。

 だが、間違ってもいない。


 セレナが横で笑った。


「どうします?」


 アルドはしばらく黙っていた。


 それから、小さく言う。


「……やる」


 声は低いままだった。

 だが、さっきとは違う。


 完全な拒否ではない。


「ただし」

 アルドが続ける。

「できなかったら、終わりでいい」


「いいだろう」


 俺はあっさり言った。


 条件としては軽い。

 最初から終わっている人間には、これ以上失うものがない。


「じゃあ、まず一つだ」


 俺は部屋の木箱を指さす。


「そこ、壊せ」


「……全部?」


「一つだけだ」


 アルドがゆっくりと立ち上がる。


 箱に近づく。


 手を伸ばす。


 止まる。


 迷っている。


「……分からねえ」


「考えるな」


 俺は言った。


「感じろ」


「そんなの――」


「さっきは勝手にやっただろ」


 アルドが黙る。


 手を、箱に触れる。


 しばらく、何も起きない。


 次の瞬間。


 “バキッ”


 箱の角だけが、崩れた。


 他は無事だ。


 沈黙。


 アルドが手を引く。


「……なんで」


 呟く。


「今の」


「分からない」


 俺は正直に言った。


「だが、できた」


 それで十分だ。


 アルドの呼吸が変わる。


 リナと同じだ。


 最初の“できた”。


 それがすべてを変える。


「……もう一回」


 アルドが言う。


「いいぞ」


 俺はうなずく。


 セレナが横で、小さく息を吐いた。


「面白くなってきましたね」


「ああ」


 俺は答える。


 確かに、面白い。


 リナとは違う。

 だが、同じだ。


 価値がある。

 ただ、置き場所が違った。


「あと何人だ」

 俺はセレナに聞く。


「とりあえず三人です」


「多いな」


「ええ」

 セレナは笑う。

「まだ序の口ですけど」


 その言葉に、少しだけ引っかかった。


「……お前、どこまで見てる」


 セレナは、少しだけ間を置いた。


 それから、いつものように笑う。


「さあ、どうでしょう」


 その答えは、答えになっていなかった。


 だが――。


 完全にごまかしているわけでもない。


 俺はアルドとリナを見る。


 二人とも、まだ不安定だ。

 だが、確実に変わり始めている。


 これが一人、二人で終わるとは思えない。


「……なるほどな」


 俺は小さく呟いた。


 どうやらこれは、“仕事”じゃない。


 もっと大きい。


 そう思った瞬間。


 ギルドの外から、慌ただしい足音が聞こえた。


 誰かが走り込んでくる。


「大変だ!」


 扉が開く。


 受付の女性だった。


「中層で事故が――蒼狼の牙が!」


 空気が止まる。


 その名前に、リナが反応した。


 アルドも顔を上げる。


 俺は、何も言わなかった。


 ただ、一つだけ確信する。


 ああ。


 やっぱり、もう始まっている。

「できない」が少しずつ崩れていくときが、一番面白いところかもしれません。


そして、外では別の何かも動き始めています。

次は、追放された側と、残った側の話が交差します。


続きを楽しみにしていただけたら嬉しいです。

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