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無能と追放された鑑定士、実は“価値を変える力”で街ごと最強になる 〜評価されないもの全部、俺が使いこなします〜  作者: 影山クロウ


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第3話 ズレた場所

「じゃあ、やってみろ」


 そう言った瞬間、リナの顔が強張った。


 無理もない。

 今まで何度も「やってみろ」と言われて、失敗してきた顔だ。


 俺は部屋の中央に立ち、簡単に状況を作る。


「セレナ、適当に動いてくれ」

「適当に、ですか?」

「本気じゃなくていい。流れだけ作れ」


 セレナは少し考えてから、軽くうなずいた。


「分かりました」


 彼女は一歩前に出る。

 無駄のない動きだった。戦い慣れている人間のそれだ。


 リナが息を呑む。


「いいか」

 俺は言う。

「敵を見るな。セレナを見ろ」


「……はい」


 リナの視線が、セレナに固定される。


 次の瞬間、セレナが踏み込んだ。


 速い。


 だが、わざと隙を残している。

 リナでも追える程度の速度だ。


 リナは反応が遅れた。

 一歩引く。


「下がるな」


 俺が言う。


 リナが止まる。


 その一瞬、セレナの軌道が変わる。


 空いた。


「そこだ」


 リナが反射的に動いた。


 踏み込むでも、避けるでもない。

 “入る”。


 セレナの横。

 ほんの半歩分の隙間。


 リナの短剣が、セレナの外套に触れる。


 止まる。


 沈黙。


 リナが、自分の手を見た。


「……え?」


 セレナも動きを止めていた。

 そのまま、ゆっくりと後ろに下がる。


「今の、見えました?」

 彼女が聞く。


 リナは首を横に振る。

「い、いえ……ただ、気づいたら……」


「そうだな」

 俺は言った。

「それでいい」


 リナが顔を上げる。


 信じられないものを見るような目だった。


「もう一回だ」


 同じことを繰り返す。


 セレナが動く。

 リナが見る。

 空間が空く。


 入る。


 今度は、少しだけ早かった。


 短剣が、さっきより深く入る。


「……できてる」


 リナが呟く。


 自分に言い聞かせるような声だった。


「できてるな」


 俺は肯定する。


 それだけで、リナの呼吸が変わった。


 さっきまで浅かったものが、少し深くなる。


 三回目。


 四回目。


 回数を重ねるごとに、動きが安定していく。


 派手さはない。

 だが、確実に“噛み合っている”。


 セレナが動きを止めた。


「十分ですね」


 リナがその場に立ち尽くす。


 短剣を握ったまま、しばらく動かなかった。


「……なんで」


 ぽつりと、言った。


「なんで、今までできなかったんですか」


 いい質問だ。


 俺は少し考えてから答える。


「位置が悪かった」


「位置……」


「前に出るには遅い。後ろに下がるには中途半端。だから、全部ずれてた」


 リナは言葉を失う。


 たぶん、思い当たることがあるんだろう。


「でも……」

 リナは続ける。

「そんな場所、教えてもらったことないです」


「だろうな」


 俺はあっさり言った。


「大抵は、前か後ろかで教えるからな」


 リナが黙る。


 セレナが横で静かに笑っている。


「つまり」

 セレナが言う。

「間違っていたのは、リナさんじゃない」


 リナが顔を上げる。


「見方のほう、ですね」


 その言葉に、リナの目が揺れた。


 今まで否定されてきたものが、少しだけ形を変える。


 完全じゃない。

 でも、ゼロでもない。


「……もう一回」

 リナが言った。


 今度は、声が違った。


 自分からやる人間の声だ。


「いいぞ」


 俺はうなずいた。


 セレナが構える。


 リナが見る。


 動く。


 入る。


 今度は、迷いがなかった。


 短剣が、はっきりと“当たる”。


 そこで、セレナが一歩下がった。


「はい、そこまで」


 リナが息を切らしながら立ち止まる。


 顔が赤い。

 だが、さっきとは違う。


 疲労じゃない。


 興奮だ。


「……できた」


 小さく、そう言った。


 俺はその様子を見ながら、少しだけ肩の力を抜いた。


 やっぱり、間違っていなかった。


 価値はある。


 ただ、置き場所が違っただけだ。


「どうです?」

 セレナが聞く。


「使える」

 俺は答えた。


 短く。

 だが、それで十分だった。


 リナの肩が震える。


 泣くほどじゃない。

 でも、こらえている。


「……本当に?」


「嘘は言わない」


 リナはしばらく俯いていた。


 それから、ゆっくりと顔を上げる。


 さっきまでとは違う目をしていた。


「……やります」


「何をだ」


「それ」

 リナは短剣を握り直す。

「その位置、ちゃんとやれるようになります」


 宣言だった。


 誰に言われたわけでもない。


 自分で決めた言葉だ。


「いいな」

 俺は言った。


 それで十分だった。


 セレナが一歩前に出る。


「では、正式に依頼してもいいですか?」


「依頼?」


「ええ」

 セレナは微笑む。

「この子を、使えるようにしてください」


 俺は少し考えた。


 面倒かどうかで言えば、面倒だ。

 だが、悪くない。


「報酬次第だな」


「もちろん」


 セレナは迷わなかった。


「ただし」

 彼女は続ける。

「一人ではありません」


「……どういう意味だ」


「同じように“評価されていない人”が、あと数人います」


 リナが驚いた顔でセレナを見る。


 俺は少しだけ、目を細めた。


「まとめて面倒を見るつもりか」


「ええ」

 セレナはうなずく。

「そのほうが効率がいいので」


 効率。


 その言葉に、少しだけ違和感があった。


 だが、嫌な違和感じゃない。


「……なるほどな」


 俺は小さく息を吐いた。


 どうやら、思っていたより話は大きいらしい。


「いいだろう」

 俺は言った。

「引き受ける」


 セレナが笑う。


 その笑みは、最初に見たときよりもはっきりしていた。


「ありがとうございます」


 リナが横で呆然としている。


 たぶん、まだ理解が追いついていない。


 それでもいい。


 理解は後からついてくる。


 重要なのは、動き出すことだ。


 俺は部屋を見回す。


 狭い。

 古い。

 人も少ない。


 だが、ここにはまだ、拾われていないものがある。


 それだけで十分だった。


「じゃあ、次だな」


 俺がそう言うと、セレナが軽くうなずいた。


「ええ。次は、少し面倒ですよ」


「面倒なのは嫌いじゃない」


「そうですか」


 セレナの目が、少しだけ細くなる。


「今度は、“完全に使えない”と判断された人です」


 リナが息を呑む。


 俺は、わずかに口元を上げた。


「それは楽しみだな」

「できた」が一度でも出ると、人は少しだけ変わります。


次は、“もっと無理だと思われている人”の話です。

このやり方がどこまで通用するのか、少しずつ見えてくると思います。

続きを楽しみにしていただけたら嬉しいです。

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