第16話 止める力
流れが、ぶつかった。
それは、目に見えない。
だが、確かにそこにあった。
「行け」
ルクスの一言で、後ろの連中が動く。
速い。
ただの突撃じゃない。
配置が整っている。
無駄がない。
「……来るぞ!」
アルドが叫ぶ。
リナが息を呑む。
「そのまま続けろ」
俺は言った。
声は変えない。
焦る必要はない。
流れは、こっちにある。
――はずだった。
最初の一人が通りに踏み込む。
その瞬間。
“止まった”。
「……は?」
アルドが声を漏らす。
動きが鈍い。
いや、違う。
動いているのに、進まない。
見えない何かに引っかかっているような。
「……そういうことか」
俺は小さく呟いた。
ルクスがこちらを見る。
「理解が早いな」
「止めてるな」
「管理だ」
短い返答。
それで十分だった。
流れはある。
だが――。
止める力がある。
それもまた、流れだ。
「リナ」
「は、はい!」
「止まるな。売り続けろ」
「でも……!」
「いいからやれ」
リナが歯を食いしばる。
それでも、動く。
「これ、使えます!」
声を出す。
だが。
人が近づかない。
さっきまでの流れが、鈍い。
「……止まってる」
リナの声が震える。
「アルド」
「分かってる!」
アルドが前に出る。
瓦礫を壊す。
通りを広げる。
だが――。
「……通らねえ」
人の動きが、変わらない。
物理的には通れる。
だが、進まない。
「心理だな」
俺は言った。
ルクスがわずかに頷く。
「そうだ」
淡々とした声。
「流れは、物だけではない」
「知ってる」
だから厄介だ。
ルクスは、止め方を知っている。
しかも、的確に。
「……どうする」
アルドが聞く。
少しだけ焦っている。
いい。
それでいい。
簡単に勝てるなら、面白くない。
俺は一歩前に出る。
ルクスを見る。
あいつは、止めている。
だが。
完全じゃない。
「……穴があるな」
「ほう」
ルクスの目がわずかに細くなる。
やっぱりだ。
完全な管理はない。
必ず、ズレがある。
「リナ」
「はい!」
「声を変えろ」
「……え?」
「売るな」
リナが固まる。
「じゃあ、何を……」
「聞け」
短く言う。
リナが一瞬戸惑う。
だが。
動く。
「……何か、困ってませんか?」
声が変わる。
売る声じゃない。
問いかける声だ。
一人が足を止める。
さっきまで動かなかったのに。
「……水、足りなくてな」
「あります!」
リナがすぐに動く。
水を渡す。
受け取る。
飲む。
「……助かる」
小さな変化。
だが。
「……動いたな」
アルドが呟く。
「当たり前だ」
俺は答える。
「流れは一つじゃない」
ルクスの目が、わずかに揺れる。
ほんの少しだが。
「……切り替えたか」
「そうだ」
売る流れが止められるなら。
別の流れを作る。
それだけだ。
だが。
「……甘いな」
ルクスが言う。
次の瞬間。
後ろの連中が動く。
今度は、別の位置。
リナの動線を遮る。
人が離れる。
また止まる。
「……くそ」
アルドが舌打ちする。
押されている。
完全に。
流れはある。
だが、主導権は向こうだ。
「……どうする」
アルドがもう一度聞く。
今度は、はっきり焦っている。
リナも不安そうにこちらを見る。
セレナは――。
静かに見ている。
試している。
いいだろう。
なら。
「変えるか」
俺は小さく言った。
「……何を」
「前提をだ」
それだけだ。
今のやり方は、見抜かれている。
なら。
別の場所から動かす。
俺は通りの奥を見る。
まだ手を付けていない場所。
動いていない領域。
「……なるほどな」
小さく笑った。
見えた。
次の一手が。
「リナ、アルド」
「はい!」
「おう!」
「場所を変える」
それだけ言った。
ルクスがこちらを見る。
目が、わずかに細くなる。
気づいたな。
いい。
それでいい。
この勝負。
まだ終わっていない。
一度、押されました。
でもここで終わるなら、この話はここまでです。
ここからどうひっくり返すかが本番になります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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次は逆転の一手です。
ぜひ楽しみにしていてください。




