第13話 評価する者
「排除対象だ」
その言葉が落ちた瞬間、空気が変わった。
さっきまでの圧とは違う。
明確な“線引き”。
こっちと、あっち。
「遅いな」
俺はそう言った。
ギルドの男の眉が動く。
「……何だと」
「もっと早く来ると思ってた」
事実だ。
ここまで動いて、まだ様子見だったほうがおかしい。
男の後ろにいる連中が一歩前に出る。
さっきとは違う。
動きが無駄に洗練されている。
「下がれ」
低い声がした。
その一言で、空気が静まる。
後ろの連中が止まる。
通りの奥から、一人の男が歩いてきた。
音がしない。
いや、しているはずなのに、気にならない。
視線が、そっちに引っ張られる。
「……誰だ」
アルドが小さく言う。
「上だな」
俺は答えた。
間違いない。
さっきの連中とは格が違う。
男はゆっくりとこちらに歩いてくる。
装備はシンプルだ。
だが、無駄がない。
目が、冷たい。
「報告通りだな」
男はそう言った。
視線は、俺に固定されている。
「勝手に流れを変えている」
「そうだな」
俺は答える。
否定する理由がない。
「名は」
「アレン」
「……覚えた」
短いやり取り。
だが、それで十分だった。
「私はルクス」
男は名乗った。
「本部直轄、監査官だ」
周囲がざわつく。
リナが息を呑む。
アルドが舌打ちする。
セレナだけが、ほんの少しだけ笑った。
「なるほど」
俺は小さく言った。
やっと来た。
“本体”が。
「ここは切り捨てられた区域だ」
ルクスが言う。
「再稼働の許可は出ていない」
「知ってる」
「ならなぜ動かす」
「価値があるからだ」
即答だった。
ルクスの目が、わずかに細くなる。
「価値は我々が決める」
「違うな」
俺は言う。
「価値はあるかないかだ」
沈黙。
周囲の空気が張り詰める。
「……主観だな」
「違う」
俺は首を振る。
「構造だ」
ルクスが一瞬だけ黙る。
その一瞬。
それで分かる。
こいつは、分かる側だ。
だが――。
「だからこそ、危険だ」
ルクスが言った。
「……何?」
リナが小さく呟く。
アルドも眉をひそめる。
「理解しているな」
ルクスは俺を見たまま言う。
「流れを変えるということは、管理を崩すということだ」
「そうだな」
「つまり、秩序を壊す」
「違う」
俺は言う。
「止まってるものを動かすだけだ」
「それを秩序という」
ルクスの声は変わらない。
静かだが、揺れない。
「……なるほどな」
俺は少しだけ笑った。
分かりやすい。
「止まってる状態が、正しいってことか」
「正しい」
即答だった。
迷いがない。
だからこそ、面倒だ。
「なら」
俺は一歩前に出る。
「間違ってるな」
空気が凍る。
リナが息を止める。
アルドが身構える。
ルクスは動かない。
「排除対象、確定だ」
ルクスが言った。
さっきの男とは違う。
これは決定だ。
撤回されない。
「そうか」
俺は答える。
それだけだ。
「抵抗するか」
「する理由がない」
ルクスの目が、わずかに変わる。
「……ほう」
「排除ってのは、どうやる」
俺は聞いた。
「力か?」
「場合による」
「なら見せてみろ」
少しだけ、空気が歪む。
ルクスの周囲。
何かが変わる。
だが――。
「今日はやらない」
ルクスはそう言った。
意外だった。
「なぜだ」
「観察が終わっていない」
静かな答え。
だが、それで十分だ。
「次に来る」
「そうか」
「その時は、排除する」
断言だった。
ルクスが踵を返す。
来たときと同じように、音もなく去っていく。
誰も動けない。
数秒。
いや、もっとか。
時間の感覚が曖昧になる。
「……なんだあれ」
アルドが呟く。
「強い、ってやつか」
「違うな」
俺は答える。
「正しい側だ」
「は?」
「自分が正しいと信じてるやつが、一番強い」
それだけだ。
リナが震えている。
「大丈夫ですか……?」
「大丈夫だ」
問題ない。
むしろ、はっきりした。
「どうします?」
セレナが聞く。
いつも通りの声だ。
「決まってる」
俺は言う。
「やることは同じだ」
止めない。
動かす。
それだけだ。
だが。
今回は違う。
「ただし」
俺は少しだけ笑った。
「少しだけ、早く動く」
アルドがにやりとする。
「いいねえ」
リナが小さく頷く。
セレナが、楽しそうに目を細めた。
いい。
これでいい。
相手が決まった。
やることも決まった。
あとは。
動かすだけだ。
ついに“本体”が出てきました。
ここからは、ただの問題解決ではなく「正しさのぶつかり合い」です。
どちらが勝つのか、少しずつ見えてくると思います。
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次は、さらに一歩踏み込みます。




