第11話 管理する側
「……後悔するぞ」
男の言葉は低かった。
脅しとしては、分かりやすい。
「しないな」
俺は答える。
短く。
それで十分だった。
空気が変わる。
さっきまで“様子見”だった周囲が、一歩引く。
線が引かれた。
こっちと、あっち。
「お前、状況が分かってるのか」
男が言う。
「分かってる」
「ならなぜ従わない」
「必要ないからだ」
即答だった。
男の眉がわずかに動く。
「ここはギルドの管理区域だ」
「そうらしいな」
「許可なく活動することは認められていない」
「知ってる」
「なら――」
「だから関係ない」
遮る。
男の表情が固まる。
こういうタイプは、途中で遮られるのを嫌う。
だが、関係ない。
「管理してるんだろ」
俺は言う。
「なら、見てるはずだ」
周囲を指す。
動き出した店。
集まり始めた人。
「止める理由は?」
男が黙る。
一瞬だけ。
だが、その一瞬で十分だ。
答えは出ている。
「……秩序のためだ」
出てきたのは、正解じゃない答えだった。
「曖昧だな」
「曖昧じゃない」
男が一歩前に出る。
「この区域は、危険だから切り捨てられた」
「違うな」
俺は言う。
「使い道がないからだ」
沈黙。
周囲の空気が少しだけ重くなる。
男の目が細くなる。
「……言葉を選べ」
「選んでる」
俺は肩をすくめる。
「事実だ」
セレナが横で、少しだけ笑う。
楽しんでいる。
相変わらずだ。
「価値がないと判断した」
俺は続ける。
「だから切り捨てた」
「それがどうした」
「価値はある」
言い切る。
「今、動いてる」
店を指す。
人を指す。
「それが証明だ」
男が歯を食いしばる。
「……一時的なものだ」
「違うな」
「なぜ言い切れる」
「構造だからだ」
男が一瞬だけ言葉に詰まる。
理解できない。
だが、否定もできない。
その顔だ。
「お前は何者だ」
低い声で言う。
いい質問だ。
「ただの鑑定士だ」
「嘘だな」
「本当だ」
それ以上でも、それ以下でもない。
男がしばらく黙る。
それから、静かに言った。
「……名前は」
「アレン」
「覚えておく」
その言い方で、分かる。
これで終わりじゃない。
むしろ、ここからだ。
「今日は引く」
男はそう言った。
意外だった。
「だが」
一歩、近づく。
「次はない」
視線がぶつかる。
完全に、敵だ。
「いいな」
俺は答える。
それでいい。
中途半端なほうが面倒だ。
男が踵を返す。
部下らしい二人を連れて、去っていく。
静寂。
しばらく、誰も動かなかった。
それから。
「……やばくないですか」
リナが小さく言う。
「やばいな」
俺はあっさり答える。
「え、軽くないですか!?」
「軽くはない」
事実だ。
ただ。
「想定内だ」
それだけだ。
アルドが苦笑する。
「……最初から分かってたって顔だな」
「だいたいな」
セレナが口を開く。
「どうします?」
「どうもしない」
俺は答える。
「やることは同じだ」
「止められますよ」
「止まる理由がない」
それだけだ。
セレナが静かにうなずく。
「やっぱり、そう言いますよね」
「当然だ」
俺は周囲を見る。
人が、まだいる。
店も、動いている。
完全には止まっていない。
それで十分だ。
「続けるぞ」
俺は言った。
誰に向けたわけでもない。
だが。
リナがうなずく。
「はい」
アルドも肩をすくめる。
「まあ、やるしかねえな」
セレナは、ただ笑っていた。
いい。
これでいい。
流れは止まらない。
そして――。
止めに来るやつも、もう決まった。
それだけだ。
「……で」
アルドが聞く。
「次は何壊す」
少しだけ笑った。
「街じゃない」
「じゃあ何だ」
「仕組みだ」
その言葉に。
セレナの目が、ほんの少しだけ細くなった。
ついに「対立」がはっきりしてきました。
ここからは、ただ価値を見つけるだけじゃなく、
それを“守るかどうか”の話になります。
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次は、もう少し大きく動きます。




