楽観的な旅
いつも聞こえていたあの曲が、僕の耳を優しく撫でる。
曲が終わり、いつもと同じようにその人たちは一礼する。
まばらな拍手が起きて、慌ただしく人が捌けていくのを見ながら、いつもと違って僕は僕よりも大きい少年少女たちの元へ歩いていく。
「あの、少しお時間いいですか?」
「メルペディア君だよね!僕らも話したいと思っていたからちょうどよかった!」
遠慮気味に声をかけた僕の手をヒョイっと両手で包み込んで、男の子が目を輝かせる。何だか恥ずかしくなってきそうだ。
「いつも僕たちの音楽を聴きに来てくれてありがとう!いやぁすごいよ!僕たちは音楽くらいしかできることがないのに、大人たちに混ざってどんどんいろんなことをやってくれるんだもん!
すぐ街の人とも仲良くなっちゃうし、ほんとすごい!」
ブンブンと腕を振る男の子の横から、1人の女の子が割り込んでくる。
「話したこともない子に急にそんな態度取ったら引かれるわよ…ごめんなさいね。
悪気があるわけじゃないの。これが通常なの。」
苦笑しながら言ったその人に大丈夫ですよと答えつつ、少し前の情景を思い浮かべる。クレムとセルジュによく似たようなコンビだ。
ただ、そんなことを話していても誰も理解できないため、僕は本題に入る。
「メイターさんから、音楽をあなたたちの先生に教えた旅人さんについて知っていると聞いたんですが、知ってますか?」
僕の疑問に、みんなは合わせるように首を縦に振る。
「僕たちが直接会ったわけじゃないけど、先生から話は詳しく聞いてるよ。
名前はインデスさんって言って、世界中を旅しているんだって。音楽を広めて、子供達に楽しみを教えてあげるのが目的みたい。」
ふむふむ、インデスさんっていうのか。
「じゃあ、そのインデスさんって人を探そうと思います。」
そう答えた僕を見て、さっきの男の人が口を開く。
「あのさ、僕たちでオリジナルの音楽を作ろうと思ってるんだ。どんな音楽がいいとかあるかな?」
「それ、僕なんかに聞いていいんですか?」
「もちろん。だって、先生だってそれまで見ず知らずの旅人さんに教わったんだ。音楽を好いてくれてる人なら大歓迎さ。」
いつも聴きにきてくれてありがとうと付け加えて、その人は笑う。
「じゃあ…夜に合う音楽がいいです。この街は朝の目覚めは気持ちいいですけど、この世界の夜はやっぱりちょっとだけ怖いと思うので。」
僕の意見を聞いてか、その場にいる人たちは顔を見合わせる。
「よしわかった!疲れた心にそっと寄り添うような音楽を作れるようにするよ!」
大きく自信を持って宣言した彼らに頷いて、僕はこの街の唯一の出入り口に向かって歩いていく。そこでセルフィスさんが待っているはずだ。
そう思って来てみると、そこにはセルフィスさん以外の人々もたくさんいた。
「おう、メルペディア。これ持ってけ。」
進み出てきたメイターさんが地図を渡してくれる。
「もっと色々渡そうと思ってたんだがな、フォイゾとかがそんな大荷物で旅に出してどうするって反対してきてよ。」
「あったりまえじゃないですか!鎧をとか言い始めて、そんな重いもん持ってけないでしょ!」
「あぁ?メルペディアなら持ってけるだろ!木浮かして運んでんだぞ?」
「鎧は持ち歩くもんじゃなくて着ていくもんでしょ…」
そんなやりとりを見ていると、後ろから頭を撫でられる。
「ほら、後ろを見て。」
いつの間にかすぐそこにいたセルフィスさんに言われるがままに振り返る。
「元気でな!」「困ったら帰ってこいよ!」「待ってるぞ〜!」
街の人たちが、口々に別れの言葉を言ってくれる。でも、もう会えない別れじゃない。また会おうという言葉だ。
「皆さんもお元気でーー!」
力いっぱい叫んで、僕は前を向く。
「絶対帰ってこいよ。」
差し出されたメイターさんの手を強く握り、僕たちは握手を交わす。
「じゃあ、行ってきます。」
「キャウン!」
いつの間にか僕の頭の上に乗っていたロックが吠え、みんなが笑う。
「それじゃあね、メルペディア。」
「ちゃんと待っててくださいよ、セルフィスさん!」
そう言った僕に頷いたことを確認し、平原に視線を移して歩き出す。
そして、僕の大きな旅の中の小さな旅が始まった。




