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目指すべき世界の幻影

毎朝音が奏でられる街に来て三日。

「おう、今日も助かるぜ!」

そう言って僕の肩を叩くのは、ゴツい体つきのメイターさん。生まれも育ちもこの街らしく、そろそろ40代後半とかなんとか。

この辺りの地理などにも詳しく、建築や農業などなんでもござれなオールラウンダーだ。

出会ったのは一昨日。夜に店でご飯を食べていたら声をかけられ、せっかくなので色々教えてもらおうと仕事を手伝うことになり、今は街からすぐの山で果物や野菜を収穫していた。

「聞いたぞ?セルフィスさんだっけか。あの人たった二日で街中の人気者らしいじゃないか。」

ほら、いいのが採れたから食べな。とリンゴをくれる。

「紙芝居のお手伝いをしたら小さい子たちに大盛況だったって聞きまひた。」

リンゴを齧ると、中がめちゃくちゃ甘い。長いことやってれば美味いものがどれかくらい見ればわかると言っていたが、さすがだ。

「あぁ。この街もいつ戦火に巻き込まれるかわからないからな。みんなピリピリしてたんだ。

街の奴らの楽しみと言ったら、朝の音楽と睡眠と飯と風呂くらいだったからな。」

苦笑したメイターさんにこの世界の戦争について問おうとした時だった。

「メイターさん!街の方に来てくれませんか!」

若い男の人が、走ってくる。

「どうした?」

荒い呼吸を繰り返すその人が質問に答えている間、僕はメイターさんの指示通り山に来ていた人たちを集める。

「どうやら、戦争から生き延びた兵士たちが帰ってきたらしい。だが…いや、話は後だ。

とにかく街に降りるぞ。」

小走りで駆け出したメイターさんの後を追って、僕たちも動き出す。


「あ、メイターさん!こっちです!」

案内を受け、メイターさんはそっちに向けて数人と話しながら歩いていく。

「なかなか美味しそうなリンゴ持ってるじゃない。」

そんな声に反応して振り向くと、手を振っているセルフィスさんとセルフィスさんの頭の上に乗っかっているロックを見つける。

「何があったんですか?」

「なんか、この街が属してる国の兵士たちが戦い終わって近かったここに逃げてきた。

でも、相手の国の負傷兵も連れてきたらしくて、受け入れるかどうかっていう問題らしいわ。」

僕たちもメイターさんたちが集まっている方に向けて歩いていく。

合流すると、僕たちが通ってきた道の近くで、街の人たちが剣や斧などを構えて兵士たちを囲み込んでいる。

囲まれている人たちの肩口を見ると、見覚えのある赤の紋章。だが、それ以上に見覚えのあるものを見つける。

それは、兵士のうち数人の顔だった。紛れもなく、僕が治癒した人たちだ。

「それで、なんでこいつらを殺さなかったんだ?」

街を代表して、青色の紋章をつけた若い兵士にメイターさんは尋ねる。

「俺たちはもう戦う気力も逃げ延びる気力もなかった…だが、この人たちはそんな俺たちにも残った少ない飯をわけ、これ以上殺し合いをするのはやめようと言ってくれた!

俺もこいつらももう死にかけなんだ!

どうか…助けてはくれないだろうか!」

その声を聞き、メイターさんは数人を集めて話し始める。

味方の兵士たちは当然助ける。しかし、敵の兵士たちを助ければこの街は味方からも敵だと思われかねない。俺たちはどうするか。

聞こえる限り、そういう話し合いだ。

「すまないが、今すぐに答えを出すことはできない。

夕刻までには街の全員の意見を聞いて答えを出すため、待っていてくれ。」

そう言って、メイターさんはすぐ横にいた人に頼んで防御結界を作らせ、敵の兵士を入れる。簡易的な牢屋ということだろう。

「すぐに街の全員を集めろ。

木を切りに行っている者や畑に行っているものも全員だ。」


そして、3時になるかならないかという時間には会議が始まった。

受けいれた時に家が足りないこと、食料もギリギリになって予備食料の保存が不可になること、自国から攻められる可能性があること、反乱が起きるかもしれないこと。そんな話が繰り返し議論されていく。

ちなみに、こんな話を一旅人たちに聞かせるわけもないため、僕たちは会議をしている集会所からは離れた宿に戻ってその話を聞いていた。悪い言い方をすると盗聴ということだ。

「なんか作戦会議みたいで楽しいですね。」

「話し合ってる張本人からしてみたら超大問題なのに悠長ね。

まぁ、前に教会で話し合いしてた時もその時代の人たちに任せていたわけだし私たちが入ることでもないからいいけど。」

そう言ったのは、僕よりも遥かに悠長にお茶を飲んで座っているセルフィスさんだ。

隠離世で学んだ茶を淹れる技術が早速活躍しているということだ。

結局、その話し合いは2時間に及んだ。

沈みかける太陽の光が街に差し込んできた時、捕えられていた兵士たちに向かってメイターさんは結論を伝える。

「正直言って、この街の住民による意見はちょうど半々といったところだ。全員が全員お前たちのことを認めているわけじゃないということをよく知った上で、この街に留まることを許そう。」

その言葉に、相手の兵士たちは驚いて聞き返す。

「なんで俺たちを助けようとする?自分たちで言うのもなんだが、俺たちが裏切ってこの街を内側から攻撃するかもしれないんだぞ?」

「もちろんそんなことは承知済みだ。

だが、お前たちの助けが無ければ今ここには辿り着いていない命があるのもまた事実。そちらが手を取ってくれるのであれば、俺たちは二つの国を超えて平和な街を作り、平和を護るために戦おう。」

そう言って手を伸ばしたメイターさんに、防御魔法による拘束を解かれた敵の兵士もしっかりと握手で答える。

街の人たちが兵士たちを立ち上がらせ、各々握手を交わす。

その瞬間は、僕が目指したい世界を思わせると共に、過去のあの絶望を脳裏に浮かばせるものだった。

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