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音を奏でる街

「あの場で倒れた人、全員助けようとしたでしょ?」

転移した瞬間、セルフィスさんは言った。相も変わらずなぜかそういうことにばかり気づく鋭さに苦笑しつつも、何があったのかを歩きながら話す。

そして、話終わった後、セルフィスさんは珍しく厳しい口調で言い放った。

「そんな甘い考えはもう捨てなさい。」と。

真っ直ぐに僕を見つめるその瞳は、どこか何かを恐れているようにも見える。今までのセルフィスさんからは考えられないそんな目を不思議に思いながらも、僕は答える。

「僕は…できることなら人を殺したくはありません。

でも、セルフィスさんとロックを護るためならどんな犠牲を払ってでも戦います。だから……」

「それが甘いって言ってるのよ。

誰も殺さないと言うのなら、今ここでそれを誓いなさい。」

「なんでそんなこと…」

「自分の目の前で人が死んでいく姿を目の当たりにすればするほど、命に対する価値観は大きく変わっていく。

あなたはお父さんとお母さんに似て優しい子だから、その覚悟に迷いが生まれてしまうかもしれない。

人を殺してでも私を護れなんて言ってるわけじゃないの。

…………どれだけ見知らぬ人だとしても、人を殺すっていうのは心に大きな傷を残す。でしょ?

できることならなんて曖昧な選択肢を残すくらいなら、誰も殺さずに勝って生き残れるように努力しなさい。

あなたが人を殺してでも護る相手は、1人で十分よ。」

そう言い切って、セルフィスさんは歩き始める。

ルーベルナさんも、気づいていたのだろうか。

…いや、気づいてないわけがなかったのだ。だから今、こうして僕がやったことを許してくれようとしている。

小さく息を吐いて駆け出し、僕はセルフィスさんの横に並んで言う。

「一緒に生き抜きましょう。」と。





その街に辿り着いたのは、夜が完全に明けきる少し前だった。空の色はまだ薄く、朝と夜の境目が、どこにあるのかわからない時間帯で、僕は街道の先に見える灯りを頼りに、ゆっくりと歩いていた。

遠くから、音が聞こえた。最初は、風の音かと思った。次に鳥の声かもしれないと思い、それでも違うと気づくまでに、少し時間がかかった。

「いい音楽ね。まるで夜明けを出迎えているみたい。」

それは、旋律だった。

整いすぎていなくて、どこか素朴で、それなのに不思議と耳に残る音。夜の冷えた空気の中を、やわらかく揺れながら流れてきて、僕は足を止めた。

山の道を抜け、木の柵で覆われた街の外周を回り、平原の方から伸びている道から街へと入る。

音のする方へ向かうと、広場があった。石畳の中央で、五人の子どもたちが、輪になるように立っている。

少年が三人、少女が二人。年は、僕より少し上くらいだろうか。誰かが指揮をしているわけでもなく、合図を出しているわけでもないのに、音は自然と重なり合っていた。

「聞いて行きますか?」

「えぇ。まだお店も開いてなさそうだし。」

セルフィスさんの答えを聞き、僕たちは少し離れた場所に腰を下ろす。

いつまで眠っているのやらなロックを撫でながら、セルフィスさんもウトウトし始める。

この街に辿り着いて10分ほどだろうか。人の姿が見えるようになってきた。

農具を担いでどこかへ歩いていく人、店を開ける準備を始める人、馬車の手入れを始める人、そして音楽を聞きに広場に訪れる人。

人の動きが始まって10分、音楽が終わった。

僕含め20数人ほどの拍手に一礼し、少年少女たちは楽器の片付けに入る。

音楽を聞きにきていた人たちもすぐに散会して先に動き始めていた人たちに合流していく。

曲が終わった後、黙々と進んでいく片付けを見ながら僕も眠たくなってくる。よくよく考えると、今日は寝ていない。

目を瞑り、息を吐いた時だった。

「旅の人?」

すぐ近くから聞こえた声に顔を上げると、5人のうちの1人である少年がいた。

「えっと…まぁ、そんな感じです。」

「そっか。毎朝ここで演奏してるから、よかったらまた聞きにきて。

お母さんにも教えてあげてよ。」

そう言って、少年は片付けに戻っていく。

お母さん…昔そう言って怒られたことがあったっけ。苦笑しながら、僕はセルフィスさんの肩をゆすって起こす。

結局、街の宿屋で僕たちは夜まで寝るのだった。

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