淡々と偲ぶ死
ふぅ……
大きく息を吐いて、僕は目を開く。
「大丈夫よ。さぁ、行きましょう。」
僕を見るセルフィスさんに頷いて、別れを言うこともなく魔法を発動させる。
少しずつ加速して逆流する時の中。500年の時まであと200年くらいになった時、森の生き生きしていた木が少しずつ背を低くしていく。
そして、500年に到達した瞬間、遠方より光が襲いくる。
魔法で作り出した結界でそれを防ぎ、すぐにセルフィスさんとロックの安否を確認する。
「いっちばん最初の時と同じね…」
そう呟きながら、セルフィスさんは結果内でロックを抱き上げ、周りを見回す。
「ここで待っていてください。すぐに戻ってきますから。」
自分だけ結界の外へと出て、空に浮き上がる。
方々から立ち昇る煙。
視界に無数に光る魔法陣と、そこから放たれる魔法の応酬。
人が埃のように吹き飛び、体が燃え、傷ついた者から剣の餌食になって倒れていく。
木の焦げる匂いとその惨状から、何が起きているのかを理解する。
確かにセルフィスさんの言った通り、僕たちが初めて時間を巻き戻した時に巻き込まれたあれ……戦争と同じだ。
その時、こちらに向けていくつか魔法が放たれる。
先ほどのは流れ弾のようだったが、これは違う。
僕を殺すための魔法。
纏った風の力で掻き消して、魔法の発信源へと空を蹴る。
「僕は敵じゃありません!」
目の前に立ち尽くす兵士に言うも、その人は話を聞けるような顔じゃないとわかる。
「……あれは何だ」「味方じゃない…」
近くの兵士たちが、すぐに行動を開始する。彼らの答えは、示し合わせていたように一致している。
「撃て。」
最初の一撃は、火球だった。
風にぶつかって爆ぜ、そこから広がった煙の中をいくつもの光が襲いくる。
「防御魔法を展開しろ!」「全火力を回せ!」
爆音の中でも聞こえるほど大声で張り上げられた声が、聞こえてくる。
「待ってください!僕は━━━━!」
負けじと放った言葉は、第二波の攻撃で叩き潰される。
雷が降り、氷槍が突き刺さり、土魔法が防御ごと地面へ押し潰そうとする。左右から、上から、逃げ場という概念を否定するかの如く攻撃。衝撃が連続し、視界が白く弾ける。
防御が悲鳴を上げる。一枚目が砕かれ、二枚目が軋み、三枚目が削られていく。
……っ、まだ終わらないのか………
次は風。次は光。そして再び炎。
どれだけ防御を積もうとも、物量で押し切ろうとしてくる。
「止めるな!」「魔力が落ちていない!」「化け物か!」
化け物。その言葉が、戦場に広がっていく感覚がする。
攻撃はもはや弾幕だった。防御障壁の表面を無数の魔法が滑り、弾かれ、砕け、また叩きつけられる。
「……こっちの声は届いてない……!」
倒れないからこそ、さらに攻撃が増える。
だが、ここで倒れてやるなんてことはどうあってもできない!
「まだ立っている!」「なら潰すまでだ!」
まるで、戦場そのものを相手にしているかのように、ただ耐える。
おそらく、この場にいる全員の攻撃を受け続けたとしてもこっちの魔力切れは起こらない。
それならば、相手が魔力切れで倒れ戦闘の継続が不可能になるまで待てばいい。
セルフィスさんも、僕の狙いに気づいてか遠方に離れて行っている。あそこまで離れていればここから追っ手が追いつくこともありえない。
常に三重の防御。そして10数分耐え続けた現在、ついに飛んでくる魔法がまばらになり始める。
周囲を見まわし、今なら防御無しで攻勢に出れることを確認する。
攻撃して殺すのではなく、気絶させればいい。昔、ログレン王の軍と戦った時と同じことをするだけだ。
防御を解くと同時に駆け出し、近くにいる敵から順に風を乗せた物理攻撃で攻めていく。
1人、また1人。取り囲んできていた10人と少しを気絶させた瞬間だった。
今まで感じることなんてできなかった……!
高出力の魔法の出所を特定すると同時、魔法が放たれる。
現れたのは炎の光弾。
上級魔法クラスの魔力を圧縮しまくったであろうその攻撃は、こちらに向けて一直線で放たれる。
魔法陣から離れて飛んできているため解体も不可…しかし、この程度でさっきと同じ強度の防御を崩せると思ってるのか…?
疑問が頭をよぎるが、時間がない。
手を前に伸ばし、自身を円形に囲い込む防御魔法を展開する。
防御魔法に炎がぶち当たった瞬間にそれが爆ぜ、考える時間もなく目の前が炎に覆われる。
だが、やはり防御魔法は消えていない。
大丈夫だ。
地面を蹴って跳躍し、状況を確認する。
そして、息を呑む。
防御と炎がぶつかり合った点を中心に、何重にも円を描いて地面が抉られている。
あの魔法は…僕を倒すためじゃなく、僕との戦いで魔力と体力を使い果たした兵士たちにとどめを刺すための魔法だった…?
その思考にたどり着いた時、声が響く。
「敵は滅ぼした!撤退だ!」
少し遠方で人影が一斉に移動を開始するが、戦場となっていた僕の近くからそちらへ向かう人は1人もいない。
自然も人も死に、音がなくなった場所にたった1人、僕は立っていた。
周りを見渡せば、倒れている人の鎧には2種類があるとわかる。
肩の部分に青色の紋章がある者と赤の紋章がある者。
腰を落として紋章の汚れを払おうとすると、小さく呻き声が聞こえる。
「まだ…生きてる?」
すぐに魔法陣を描き、額に手を当てて魔法を発動させる。
「癒灯」
淡い光と共に、兵士の体中についた傷が癒えていく。
「うぅ………」
落ち着いた声を聞いて立ち上がり、すぐに近くで倒れている人の元へ向かって同じように治癒を始める。
数人を治癒し、次の人の額に手を当てた時だった。今までなかった違和感を覚える。
その違和感がなんなのか理解するためにそこまでの時間は必要じゃない。
体が、この人相手に癒灯を使っても意味がないと訴えている。
『亡くなった命は回帰しない。』
魔法を用いたところで、それは通常成立しない。
セルジュのように莫大な対価を懸ければその限りではないが、魔力と魔法の永久破棄、それに加えて彼の父親が大きな対価を支払うと共に作った魔法であることを考えれば人がそんじょそこらの魔法を発動させただけで生き返らせるようなことはできないと簡単にわかる。
それは、“魂“という概念のせいによるもの。
感覚の領域でしかないが、魔法が刻まれるのもこの魂であり、魂の完全な死が起きてしまえばそれは人間ではどうしようもないらしい。
そして、基本的に魂の死は従来の人の死と同じように定義される。ルーベルナさんも絶対にその限りではないと言っていたため全てがそういうわけじゃない可能性も考えられるが、毎回毎回都合よく話は進まない。
いくつも魂に刻まれている治癒系魔法の中に、死者をそのまま蘇らせるなんていうものも存在していないのだ。
何より、そんな都合のいい魔法が存在しているならばお父さんがすでに作って僕に継承させているはずだ。
だが、時間を巻き戻せば、死んだ人を生き返らせることもできる。世界丸ごとの時を戻してしまえばいいだけ。
……しかし、僕はあの神に睨まれているせいで好き勝手に行動することはできない。
腰を落として手を組み、その戦士の冥福を祈って次へと歩き出す。
目の前で命が途絶えたというのに、なぜか僕の心には衝撃も何も残らない。
その理由を考えるのが恐ろしくなり、小さく頭を振って思考をずらす。
ただ怪我人を癒し続ける。そんな繰り返しをしているうちに、夜は更けていった。
こんばんは。羽鳥雪です。
前々から言っていたように、基本的に2日に一本投稿となります(時々1日1本投稿するかもしれませんが…)。
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