極厳魔法
門を抜けた瞬間だった。
天空から、光の塊が飛来する。
即座に瞳に魔力を込め、魔法で相殺する。
「この力………」
「えぇ、神……しかも、おそらく上位神が2体。それ以外にも潜んでいそうね。」
「セルフィスさん、気をつけてください。」
「それはお互い様でしょ。」
再び空から放たれた光弾を、左右に飛んで僕たちは回避する。
先ほどの魔法よりも威力が低い。
上位神ではない相手の攻撃だろうか。
………それにしても、なぜ僕たちを?
僕を囲むように、5人ほどの神が現れる。ただ、どれも上位神じゃない。
セルフィスさんの方に行った………?
となると早く援軍に向かいたいが、ここで焦ったら負ける。
慎重に、確実にいこう。
「それで、10対1なんてなかなかに卑怯じゃない?」
周りを囲む神たちに、私は言う。
「ここで、そなたには消え去ってもらおう。」
「いや、消え去れなんて急に言われても、あなたたちまず誰よってなるに決まってんでしょ?
自分たちのことすら名乗れないアホたち相手に何をしろと?」
そうは言うものの、相手が大体どんなやつなのかはわかっている。
おそらくは、私とルーベルナのようなもの。
片方は魔力量が大きく、その相方は魔力量が極端に少ない。
魔力がなくて神力が多いというならわかるが、そんな気配もない。
さっきの威力で魔法を扱える神はそうそういないというのも、証明になるだろう。
魔法陣も、メルぺディアが強くなったから感覚がバグってきているけど、だいぶ高精度。
ロックを自己収納空間に押し込んで、私は前を見る。
「お前は歴史を乱す者と共謀している。それは神として許されることではない!」
……と言ってはいるものの、どうだか。
本気で許さないと言うのであれば、もっと大人数の上位神が来おるだろうし、時空神が出てこないわけがない。
つまり、他の神たちが承認しているのかどうかはわからないけど、少なくとも今回のことはこいつらによって起こされた行動。
いつまでも難しい話をダラダラされるのは面倒ね………
「それで?私たちが元の世界に戻ったらその地位が脅かされるのが怖いあんたたちが私に喧嘩売りにきたってのはわかったわ。
ただ、私は上位神なんてものに興味はないし地位を奪おうなんて考えてない。今さっさと引き返して、ついでに時空神にでも口利きしてくれるって言うのなら手を出さないで帰してあげる。」
「ふざけるな!お前の妄言に付き合ってはいられぬ!」
まぁ、そうなるか。
めんどくさいから断ったのに、もっとめんどくさいことになるとは……神ってのも随分終わってるものね、ルーベルナ。
彼女の顔を思い浮かべながら、私は一歩踏み出す。
次の瞬間、目の前にはメルぺディアの姿。
「え!?セルフィスさん!?」
周りの神たちがわざわざ引き離した自分たちを合流させるわけないと言いたげなその子に、私は笑みを浮かべる。
「天界に興味あったわよね?」
「え?そりゃまぁ……」
「行かせてあげるわ。向こうに行ったら思いっきり魔力を放出しなさい。じゃないと死ぬわよ。」
「ちょ、ちょっとまっ━━━━━━━━━━」
手を叩くと、メルぺディアの姿が目の前から消える。
うん、うまく行ったみたい。
時空神のところに飛ばせば、酷い扱いを受けることもないでしょう。
そして、私は相手の神たちに向き直る。
「メルぺディアは心配性なの。さっさと終わらせましょう?」
「上位神4体とその他13を相手に勝てるとでも?」
1人が言うと同時に、光の中から2人の上位神が追加される。
まーた人数が増えた。
鬱陶しいことこの上ないわね。
そう思った束の間、私たちの周りが青い世界で満たされていく。
おそらくは、私を逃さないための牢獄だろう。
しかし、この状況に思わず笑みがこぼれてしまう。
世界への負担を考えなくていいなんてありがたいことこの上ない。
そして、私は魔法を発動させる。
「制限解放。極厳魔法。」
極厳魔法━━━━━それは、無窮神セルフィスと、虚無の権威、エール・ルミーシアのみが扱える魔法の一種。
玄奥級、幽邃級、そして、劫穢玄廻級に分類される、魔法の常識を根底から崩壊させた魔法。
本来、魔法というものは緻密な計算によって発動される。
魔法を極めることは、四則演算を極めることであり、足し算によって魔法術式を書き加え、引き算によって詠唱や条件を破棄し、掛け算によって足し算では不可能な領域、威力の超強化を行い、割り算によって魔法術式、魔法陣の分割や割り振りを行う。
それを幾度となく繰り返した結果が魔法であり、四則演算なしでは魔法は成立しない。
だが、極厳魔法は、それらの式を一切必要としない。
否、式の鱗片すら残してはいけない。
1+1と見たときに、たった少しの作為性なく即座に田と答えるような感覚。
2と答えるのが本来の魔法であるのなら、頭が悪いと言われる解答。
それを魔法に投影し、自分の好きなように、完全な感覚で、成せばなるの精神で発動されるのが、極厳魔法。
0を100に、一気かつ自由に昇華できるそれは、イメージが重宝される魔法において圧倒的なメリットと化す。
「玄奥級極厳魔法、蒼焔交錯連理斬界。」
防御魔法の展開が遅れた4体の神が、一瞬にして吹き飛んでいく。
やっていることはただの水の刃を飛ばしているだけだが、相手は所詮下級神。かすりでもすればそこから肉体が崩れ去っていくのは当たり前だ。
あ、でも私も下級神だったわ。
ただ、今の一発で、ついさっきまでオラオラきていた上位神たち全員が防御に徹してしまった。
面倒だけど、世界への負担を考えながらもう1段階なら上げてもいいかしら。
そう勝手に判断し、力を制限しながら魔法を放つ。
「幽邃級極厳魔法、虚星幽没存在削離葬。」
前の方にちらついていた防御魔法ごと引き摺り込んだ漆黒に染まった空間の中心に、さらに深い深淵の闇が顕れる。
周囲の黒が、中心の虚星に向けて飲み込まれていく。
爆発でも破壊でもなく、ただただ訪れる崩壊と虚無、そして滅亡。
今まで周囲を張り巡らされていた牢獄のような空間も飲み込まれ、魔法が消えると同時に空からは太陽の光が。
うーん、眩しいなぁ。
周囲を見渡すと、そこには木々が残っている。
力を調整したとはいえ、あの牢獄の外に被害が一切出ていないことを考えると、上位神のうちの一体は境界神なんたらかんたらみたいなやつね。
そんなことを考えていると、神力の反応を捉える。
「へぇ、今ので生きてたんだ。生きてたって言うか、逃げただけって感じだけど。」
天から降り立ってくる3人の神を見上げつつ、言葉を投げかける。
「もう降参したら?万が一逃げられるようにって撤退用の神を準備した用意周到さは認めてあげるから。」
だが、当然の如くその神たちは去って行かない。
周りの牢獄が無くなった今、私は世界への負担も考えなければならない。
さて、どうすればいいだろうか。
「いつまでも調子に乗れると思うなよ!」
2人の神によって魔法陣が描かれ、それが牙を剥く。
「「黒淵殲滅奏宴!」」
その魔法は、私が何度も見てきた魔法だ。
現れた漆黒の炎を見て、怒りが迸る。
「っ………!あんたらごときがメルぺディアの魔法を勝手に使ってんじゃないわよ……!」
ただ、今の怒りをそのままに極厳魔法をぶっ放せば、世界に甚大な影響を与えてしまう。
これが、私の全力がこの世界では使えない最大の理由でありルーベルナの制御が必要である理由。
できるかどうかはわからないが、極厳魔法を使うために思いつく方法は一つ。
………目を閉じて、昔を思い返す。
あの時、世界の魔力を掴んだ時の感覚。
ルーベルナが使った、領域を確定させる魔法。
対象とする領域が広ければ広いほど技術が必要になってくるが、今はそこまで必要じゃない。
世界を掴む感覚、そして、掴んだあの領域を投影する。
ほんと、ルーベルナの補助ってのはありがたいものだったと改めて思う。
でも、その彼女は今はいない。
だったら、私だってやれるってことを見せてあげる!
その時、唐突に一つのアイデアが閃く。
これを極厳魔法に落とし込めれば………
よし………いける!
周りを囲む炎を軽く払い除け、魔法を発動させる。
「………歪界隔絶位相乖離領域!」
そう呟くと同時に、私と神を巻き込んで領域が形成される。
やっていることはメルぺディアの断絶虚環封とさほど変わらないような感覚で、相手と自分を作り出した異空間内に閉じ込める。
次の瞬間、前方で光が輝く。
「終焉光輝世界断絶裁定輪廻大典!!!」
マジッ!?
これをまともに受けたら流石にまずい!
こちらも対抗せざるをえない。
世界への負担とかどうこうなど言ってられず、出力を最大にして一気に魔法を確定する。
「幽邃級極厳魔法、万有引界重圧崩壊律!」
領域が、ひしゃげる。
果てのない重力が、私含むこの空間内の全てに絶え間なく浴びせられる。
しかしそれと同時、相手の魔法も襲ってくる。
今まで感じたことがない大きさの耳鳴りが、脳に響き渡る。
やばっ……意識なくなる……!
その瞬間、やっと相手の魔法陣が重力によってひしゃげて潰れる。
即座に魔法を止めて、息をする。
「ゴホッ!し、死んだかと思った……」
大きな咳を繰り返しながら顔を上げると、そこに先ほどまでの神の姿はない。
いや、厳密にはあるのだけど、全員白目を剥いて立ったまま気絶している。もはや生きているのか死んでいるのかも不明だ。
目の前がチカチカして、こちらも限界が来そうだ。
「だ、誰かくらいはこの戦いを見てる神がいるでしょ…?
さっさとこいつらを連れて天界に帰りなさい……!」
ふらつく脚を押さえ、どうにか立ち続ける。
もしもこれ以上敵がいたら、敗北は必至だ。
「ま、まぁ……とりあえず今回は私の勝ちね………」
最後に出たその言葉と共に、私の体は膝から崩れ落ちた。
こんばんは。羽鳥雪です。
最近私生活の方が忙しくて投稿時間にばらつきが出てきてしまい申し訳ありません。基本20〜21時過ぎくらいまで目標にしています。
魔法名の長さのインフレを感じたりしながら今日も書いていますが、次回の1話を投稿したところで二日に一回の投稿に変えていこうと思います。理由は4月ごろの忙しい時期に投稿ペースを落とさないよう書溜めを作っておきたいこととシンプルに次の章に入ることでストーリーの見直し等に時間が割かれていることです。
投稿ペースは下がりますが、物語はどんどん深く面白くしていけるよう精進してまいりますので、是非是非応援してくださるとありがたいです!




