恐ろしい?式神
「えーっと何々?中指と人差し指をくっつけて、親指で第二関節を軽く押さえ、残り二本は曲げる……こうかな?
それで次は……ゴホン!
因果の巡り、ここに顕現せん。」
目を瞑って、唱える。
うーん?出てこない?
目を開いても、先ほどの式神は姿を現していない。
陽凪さんの使う式神は一度消えてもまた復活できると言っていたけど……この式神は不可ってこと?
もう少し調査しなければ。
薄暗い洞窟にあった祠の中、振り返ると何か大きな影。その形を見上げると、鈍い黄色の光を放つ目を見つける。
「ひえっ!」
一瞬背筋が凍りつくが、僕は対話を試みる。
「あ、あなたの名前はなんですか?」
「…………………………」
「好きな食べ物は…?」
「…………………………」
「お話……できますか?」
「…………………………」
な、なるほど……会話はできないのか。
「手を挙げてみて。」
そう言った瞬間、爆音が鈍く脳に響く。洞窟の中で巨体が手を上げたのだから洞窟が崩れたのだ。
ごほっ!ごほっ!
この狭い空間で手を上げさせたらそうなるに決まってるじゃんか。
自分に馬鹿だと言いながら、僕は目を開く。
え?空?
僕を覆っている太い腕から見るに、どうやらこの式神さんが助け出してくれたらしい。
そこへ、陽凪さんたちが合流してくる。
「これが……その超危険な式神なんですか?やけにメルぺディアくんと仲良さげなんですけど。」
興味深そうに触れた陽凪さんに対し、式神さんがほぼ反射的に腕を上げて斬りかかろうとする。
「ちょ、ストップです!この人は敵じゃありません!」
大声を張り上げると、間一髪で剣が止まる。
『あ、危ねぇ……』その場にいる全員がそんな顔をする。
そんなこんなで、人生初の式神と友達になったのだった。
「で、あの式神の能力はなんなのよ。」
「わからないです。」
「名前はなんというんですか?」
「わからない…です。」
「なぜ言うことを聞くようになったんだ?」
「わからない……です……」
質疑応答が終わり、セルフィスさんたちが大きくため息をつく。
「一度はめっちゃ攻撃してきたんですよ。だから倒したらなんか消えちゃって。
なので祠に色々書いてあった資料を元に印と言霊?を使ったんです。
そうしたらまた顕れて、なぜか言うことを聞くようになったっていう感じです。」
「資料ですか?」
「あ、はい。どっかに……」
自己収納空間を作り出し、その中から先ほどパクって…ゴホン!頂いてきた資料を取り出す。
「どっからどう見ても表紙に自立因果上位存在って書いてあるわよ?これが名前でしょ。」
「えっ。ほんとだ。」
「でも、こんな呼び方じゃ少しかわいそうですよ。
いい感じの名前をつけてあげたらどうですか。」
「じゃあ、隠離世最強?の式神ということで、隠離世から名前をもらって神久李とかどうですかね。」
パッと思いついたため、とりあえず口にしてみるとなかなかな好印象。呼びやすいし、これでいいんじゃないかな。
そして、話は次の問題へと移っていく。
「それで、神久李さんはどうやって連れて動くんですか?」
現在は庭の縁側で丁寧に正座をして座っているが、家まで連れてくる道中、町の少年少女たちがバチくそに怖がっていたのを見た。
まぁ、巨体に尻尾、黄色の目。怖いものは怖い。
………もう一回印を結んでみればいいのでは?
印を結んだ瞬間、神久李の気配が消える。
なるほど、消すときは言霊は不要なのか。
…………いや、どこいった???
自己収納空間に入ったわけでもなく、ただただ気配が消えた!?
考え込む僕を見て、陽凪さんが苦笑する。
「もう一度呼んでみればいいじゃないですか。」
そ、そうか!
「あ、姉上!?」
「?」
2人のやりとりをスルーし、僕は言葉を放つ。
「因果の巡り、ここに顕現せん!」
………そして、巨体によって家の一部が吹き飛び屋根に大穴が開く。
「いやーセルフィスさんが建築の知識を持っていて助かりました。
これくらいなら自分たちで直せそうですね。」
埃と木とその他諸々まみれになった部屋の中を箒で掃きながら、陽凪さんが笑う。
「まぁ、何度もやれば多少は慣れるものよ。
それに、めんどくさい木材のサイズの計算とかはメルペディアがやってくれるわけだし。」
折れた木材の破片を慎重に咥えて運んでくるロックを撫でながら、セルフィスさんが答える。
「全く…姉上が言い出したことなのになんでこうなるんだか。」
そう言ってため息をつくのは、僕と同じで天井に登って屋根を修理している凪翔さんだった。
木を風で浮かし、必要な労力を減らしつつ凄まじい効率で修理を進めていく。
そして僕はと言うと、必要な木の大きさを計算し、それを翁さん所からもらってきて、そして家の修理をするというフル作業だ。
まぁ神久李を出したのは僕だけどその方法を提示したのは陽凪さんでは?という思いがいつまでも消えない。
ちなみに、家を破壊した張本人である神久李は、子供達が陽凪さんと遊びに来た時、遊び相手をしてあげてほしいと言ってみたら無言ではあったが行ってくれた。
子供達はめっちゃ怖がっていたけど、今家の上から見ている限りでは、腕にぶら下がったりしがみついたりして遊んでいるようだ。
こう見ると、あの巨体にも少し可愛げが出てくる……うん、多分。
そんなことを思いながら、家の修理に没頭していくのだった。




