正体不明・能力不明
「この神力を利用して何かできないものか………」
月詠騒動が終わり1ヶ月。ようやく隠離世が元の形を取り戻しつつあった朝食後、僕は1人悩んでいた。
「またすぐにそうやって新しいことをしようとするんだから……秋菜姫とかいう神様に境界の修行をつけてもらったんならそれでいいじゃない。」
1人と言ったが、悩んでいるのが僕1人なだけで人は大勢いる。
陽凪さん、凪翔さん、クシナダさん、花祈翁にセルフィスさん。そしてロック。大集合だ。
「もっとなんか色々できそうじゃないですか。
そりゃぁ魔法みたいな使い方と言われればそれはそれでできることがたくさんなんですけど……もっとすごそうなものを使えるようになりたいんですよ!」
おそらく目を輝かせながら力説した僕に、セルフィスさんはため息を吐く。
「それこそ前に戦ったっていう……なんだっけ?
ヤウチノマテマテだっけ?」
………………は?
この場にいる全員がそれぞれそんな顔をする。
「えぇっと、八岐大蛇のことですか?」
言い出しそうにしながらもクシナダさんが問いかけ、セルフィスさんがそれよそれと言って頷く。
「そいつみたいなやつと神力だけで戦ってみればいいんじゃない?隠離世にそんなやつがいるのかどうか知らないけど。」
完璧な見切り発車をしたため何も考えていないという風な言葉に、翁さんが何か考え始める。
「なるほど……いやしかし………うぅむ………」
「まぁ…一切聞かないということはないですね。」
同じものに心当たりがあるのか、陽凪さんも頷く。
「なにかいるんですか?」
興味を持って尋ねた僕に、翁さんが座り直して口を開く。
「姫様が境界を扱う時、花鳥の式神を呼び出すことができるようになります。
それと同じように、およそ1000年と少し前、式神使いと呼ばれる人間がおりました。
その者は、印、舞、言霊、札といった様々な方法で式神を生み出し使役していましたが、ある時に自然を用いて式神を誕生させようとしました。
式神が暴走しないかを確かめるため祠の出入り口に札を撒き、その中で式神を顕現させたところまでは良かったのですが、なんせこの隠離世の自然たちは神力で満ちており、結果その式神を制御できずに彼は命を落とした………という話が一般的で、この町から山をいくつも超えていった先に祠があり、そこに式神がいるという話が残っています。
ただ、危険も危険であるため、その山自体立ち入り禁止となっていますが。」
「私も、そこだけは近づくなと言われ続けてきました。」
陽凪さんの言葉に同意するように、凪翔さんも何度も頷く。
「八岐大蛇がそうであったように、化け物というのは基本的に厄介な力を持っているものですからなぁ。」
ほっほっほと笑う翁さんに、陽凪さんが笑い事じゃないですよと呆れる。
式神使いでも制御できない式神……まぁよくわからないが、行ってみるしかないだろう。
ということで、いざ!
立ち上がって一歩を踏み出した僕を、セルフィスさんが止める。
「あんたねぇ、何行こうとしてるのよ。
陽光の巫女様たちですら危険って言ってるところに行くなんて死にに行くようなもんじゃない。」
それは確かにそうか……でも、行きたい。
「じゃあ、ちょっと見るだけ!一瞬!ほんの一瞬見るだけならどうですか!」
「一瞬でもダメでしょ。
第一、そんなの放置しておけばいいじゃない。」
「というわけにもいかないのです……」
「え?」
「月詠によって、祠が壊れている可能性も0ではありません。
もしも山の向こうで力を蓄えているなんてことがあれば、大問題なのです。」
翁さんが、困り果てたように言う。いや、これはチャンスだ!
「ほら、セルフィスさん。
僕たちが帰った後に暴走し始めたらまずいですよ。
今なら僕たちが助けられます。行きましょう!」
陽凪さんはいかにも行きたくなさそうというか怖そうな顔をしているが、結局翁さんとクシナダさんを残して僕たちはその祠へ行くことになった。
「ここからが、立ち入り禁止となっている場所になります。」
「一つ、いいですか?もしもその式神と戦うことになった場合、皆さんは少し離れていて欲しいんです。」
「はいはい。何言っても聞かないんだからいいわよ。ただ、やばそうになったら速攻で連れ戻すから。」
「了解です!」
そうして、僕が山に足を踏み入れた次の瞬間、通ろうとしていた場所の岩壁が、音もなく削り取られた。
見えない衝撃が、空間ごと抉った結果だけがそこにある。
「姿すら見えないのに、きた……」
そう呟いた瞬間、僕はすでに次の一手へ移っていた。
まず例の祠を探す!
一気に跳躍し、風を纏って一気に山を飛び上がる。
直後、着地予定だった地面が沈み込み、巨大な窪地へと変わった。
攻撃は正確だ。
動き回りながら行かなければ、足元を掬われる。
木々の間を縫うように移動しながら、祠を探していく。
だが、祠を見つけるより前に、下方部から何かが接近してくる気配を感じる。
その瞬間、地面がぶち破られ、泥だらけのなにかが現れる。
これがその式神…!?
右腕に掴まれた剣が僕を斬る刹那、剣の刀身を蹴って攻撃を避ける。
しかし、その風圧だけで何本もの大樹が断ち切られた。
見えぬ刃が通った跡。
倒れる木を足場にし、空中で体勢を反転。木が地面に触れる前に、さらに高所へ跳ぶ。
空中。最も無防備ではあるが、風と重力を使えば移動は容易い。
放たれる風の刃を、結界で護る。
だが、2発目。それは、僕の防御を一瞬にして粉砕する。
畳み掛けるように、次の刃が肩元を掠める。
一回の剣の振りで、2発分の斬撃…?
傷は浅いが、相手の力がわからなければ次第に不利になっていく。
次の攻撃。それを氷魔法で防ぐと、その次の攻撃が脇腹を掠める。
氷魔法発動と同時にその場を離れようとしたから掠めただけで済んだものの、今のをモロ受けていたら危なかった。
わかるようなわからないような……そう思った瞬間、その敵は後ろにいた。
はやっ……!
振り向きざまに剣を炎掌で掴み、粉砕する。
これで剣は使えない……
しかし、蹴りを喰らい僕は吹き飛ばされる。
姿自体は人間の体を大きくしたようなもの……いや、尾がついている分攻撃のバリエーションは多め。
自我の有無はわからず、能力もイマイチ。
なんもわからんな。
地面に激突したことで巻き上がった砂と土を吹き飛ばしながら、空を見上げる。
落ちてきつつもこちらを睨み返す姿に、驚く。
ついさっき粉砕した剣が再び刀身を取り戻している。
だが、ルーベルナさんを殺したあいつとは違い、剣の形は変わっていない。
純粋に、元通りになっただけだ。
それを確認した瞬間、再び剣が振るわれる。
即座に神術で満月の盾を作り出す。
しかし、その盾はいとも容易く砕け散る。
防御をしつつ回避する。
この組み合わせをしていれば致命傷は避けられる。だが、それは相手に自我がなかった場合の話。
自我があればその組み合わせを見抜いて攻撃をしてくるようになるだろう。
そして、能力がわからない。
同時に斬撃を飛ばす能力。
攻撃以外に目を向けるなら、速度を上げるものや物質の貫通など、今の時点ではその数は無数。なんなら能力の複数所持だってありえる。
剣の能力だけならば最初山を歩いていた時に仕掛けてきたあの攻撃が謎なのだ。
そう思考を巡らせた瞬間だった。
腹部に重い拳を受ける感覚が迸り、吹き飛ばされる。
山の斜面を滑るように飛びつつ、痛みを抑えながら思考を続ける。
式神がいたのは上。だが、僕の腹部への攻撃はおそらく下から。
もしや、式神は複数体?それによって能力が異なる?
そう思った瞬間。
世界が変わる。
この感覚を、僕は知っている。知ってはいるが、少し違う。
それと同時に、式神の背には4つの歯車が浮かび上がり、空いた右手には天秤が握られる。
世界が変わるようなこの感覚……これは、境界………
だが、明那姫さんと考えた、僕ならではの境界の対抗策がある。
魔力を放出し、境界内の神力に穴を開けることによって境界の効力を無効化する。
凪翔さんの境界よりも遥かに多い神力から繰り出されているこの境界内では魔力の消費量が半端ないが、とにかく防ぐしかない。
魔力と神力がぶつかり合う領域が、耳を裂くような音を放つ。
魔法陣を描き、魔法を発動する。
上級魔法、雷哭天轟嶽陣によって稲妻が落ちる。
だが、それは相手にぶつかる前に塵と化す。
今の一瞬、式神の背の歯車が確かに回転した。
………そうわかっていても、あの能力がなんであるかをわからなければ対策のしようがない。とはいえ………やってみるだけの価値はある。
というか、そろそろ勝たないと陽凪さんたちが邪魔……ゴホン!助けにくる!
一気に魔力を放出し、山の中を魔力で満たす。
完全に、境界を押し返す。
そして、新たなる魔法を発動させる。
「名を持つ前の水よ、天と地の境も、光と闇の差もなかった頃の静寂よ。
広がり、満ち、流れるという理を今ここに棄てよ。無限であることを赦されたその身を、ただ一つの点へと還元せよ。
我は命ずる。この存在のみを選び、始まりの重みをもって沈めよ!
始原大海一極圧縮葬送!」
超高圧の水が式神の周りを囲み、少しずつ押し潰していく。
だが、相手も粘り続けてくる。
一気魔力を上げ、決着をつける………!
数秒後、巨大な水球が破裂して隠離世に雨が降った。




