表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/102

決戦:陽光の巫女VS月詠 壱

音も衝撃もなく、ただ世界が傾く。

空に広がる満月が砕けた。そこから落ちてきたのは月の影。黒い、厚く重い闇の塊。触れた瞬間“飲まれる”のだと、直感的に感じる。

影の重量に、空気が悲鳴を上げた。

深呼吸し、目を開いて私は相手を再び視界に入れる。

焔纏(えんてん)白火(びゃっか)!!」

白い炎が全身を包み、背に光の翼が生えたように広がる。

影の落下と同時に、私は空を蹴った。

白光の軌跡で円弧を描くように、影の下を駆け抜ける。

「世界を映す月光は、逃げた先へ落ちるだけだ。」

月詠の声とともに影が曲がる。

重力など無視して、私を追うように影が折れる。

「ッ……!!」

肩の近くを僅かに掠めただけだった。だがその瞬間、白い炎が黒く焼けただれた。

痛みではない。冷たさが骨へ染みるような感覚。

触れるだけで生命力を持っていかれる。

影の塊が次々と形成され、落ちてくる。

逃げ場はどこにも無い。

だが、押されっぱなしではいられない。

白炎の弓を作り出し、砕けた満月の残骸に向けて矢を放つ。

その瞬間、落ちてきていた影が元に戻り、再び満月を形成する。

そして、月が放った闇の光によって矢が消え去る。

わざわざ月の欠片を守るために攻撃を止めた━━━?

あの月が弱点ということだろうか。

その仮説を組み立てるとほぼ同時、月詠が手を払う。

そして、夜の冷たい空気が霧へと変わった。

白く淡い、山で見られるような霧ではない。黒光りする霧。しかし、見た瞬間、霧に見えるこれは霧ではないとわかる。

一つ一つが細かな、闇の粒子。

これも……攻撃……!

白炎で周囲を囲み、闇を防ぐ。白い炎の膜が粒子を弾き、空気を明るく照らす。

だが霧はすぐに形を変えた。

細い糸のように。鋭い刃のように。

「━━━━━!」

柔軟に姿を変える闇によって、白火の膜が少しずつ切り裂かれていく。

光が散り、焔が削れる。

月詠の声が聞こえる。

「光は常に闇に追い抜かれる。速さでも、深さでも、量でも。」

「……それでも………!」

私は闇に覆われた光の中で目を開く。

白火が、より強く輝いた。

「私は……あなたの闇に負けない!!」

白火が爆ぜ、闇を押し返す。

それを見て、月詠の表情がほんの少しだけ動いた。

「……光の質が変わったな」

そう呟いた相手の背後に、白銀の半透明の輪が出現する。

回転するでもなく、ただ存在しているだけで、夜の色が吸われていく異様な輪。

その中心は“奥の見えない穴”のように黒い。

それと同じものが私を中心に現れ、少しずつ縮小していく。

「これは月の“欠け”だ。お前の力を、削ぐ。」

闇が白炎に触れた瞬間、一気に炎が小さくなる。

「ッ……なに……!?」

身体が重くなる。

「月は満ちれば欠ける。光を奪うのは道理だ。」

輪が一気に増え、私の周りを覆い始める。

ついに、輪だったものは隙間をなくし、球へと変わる。

後退しようが、逃れられない。

ならば━━━━

息を吸い、全力で白火を収束させる。

胸の奥に燃える芯だけを残し、力を一点に集中する。

白焔(びゃくえん)瞬閃(しゅんせん)!!」

白い閃光が爆ぜ、闇を払う。

危機一髪。

だが防ぎきれた。

一瞬、下に視界を移すと、森が死んでいるのがわかる。

私は荒い息を吐きながら、距離を取る。

……本当に……一瞬でも触れたら終わり……!

白火が揺れながら、私の身体を照らし続ける。


そして、月詠は静かに言う。

「次で終わりだ。光よ━━月に喰われて消えろ」


月光が濃くなる。

空気が震える。

大地が、夜に沈む。


私は拳を握りしめ、前を睨む。

「……終わらないし、終わらせない…………!私は……絶対にここで倒れない!」

白火が再び強く燃える。

月詠が手をかざす。

次の技が来る。


━━━━━闇の海と化した空間の中心で、月詠の白い髪がゆらりと揺れた。立ち込める月光は淡く冷たく、その中心には、まるで生者の鼓動を拒むような静寂が沈んでいる。

「光は、夜明けを迎える前に最も脆くなる。……その瞬間を、私は幾度も見てきた。さあ、砕け散れ。月牙・虚影。」

月詠の足元から月の紋章が浮かび、そこから黒と銀の刃が八方へと奔った。光でも闇でもない、月光の死線とも呼べる力の塊が、一直線に迫り来る。

私は手をかざし、息を吸い込んだ。

「……返すね」

光がその手のひらに集まり、形をとる。

煌盾(こうじゅん)赫環(かくかん)!」

円形の光盾が展開し、刃を受け止める。死線が触れた瞬間、空気が爆ぜ、光が散る。

耐えきれるはずのない威力。それでも私は叫び、踏みしめた。

「私は━━━絶対折れない!」

盾が砕け散る直前、光を編み直し、身体ごとひねって刃の軌道を逸らす。白銀の刃が頬をかすめ、髪が数束、宙へ舞って灰のように消えていった。

「……軽いな」

月詠の冷淡な声。

「光はいつでも軽い。扱う者の心もまた、そうなのだろう?」

「違う!軽くなんかない……!

私がこの世界を護りたいっていう思いも、凪翔を取り戻したいっていう思いも、軽いの一言で払われるものじゃない!」

私は両手を広げ、胸元で光を爆発させた。

「……見せるよ。全部!」

光線が無数に走り、月詠を包囲する。それは攻撃ではなく、領域。

光が場を染めることで闇の支配を削り、月詠の能力発動速度を遅らせる。

メルぺディアくんに教えてもらった、『光界展環』を私なりに変えたものだ。

「……面白い。では、こちらも。」

月詠が月の囁きを口の端で笑いに変えた。

月落(げつらく)黒欄(こくらん)。」 

闇の月が倒立し、その内部で無数の月片が生まれ、光を削っていく。作り出した領域がバリバリと音を立てて削れ始める。

「……っく……!」

腕が痺れる。肺が苦しい。視界がゆれる。

それでも、私はかすかに笑った。

ここで苦しい顔をしては、みんなを不安にさせてしまうから。

そして、自分が負ける可能性を考えてしまうから。

「あなたの力……ほんとに、ほんとに怖い。

でもね……」

足元の光が強くなる。

「私があなたに負けたら、誰もこの世界を護れないの!」言い放ち、宙に浮く敵を睨みつける。

「心だけで、永遠の夜に抗う気か?」

闇の力が、強くなる。

「心だけじゃない━━━━

心も、体も、世界も。私が持てる全てをあなたにぶつける!」

光を一気に解き放つ。

陽命(ようめい)暁翔閃(ぎょうしょうせん)!」奔る光の刃が天を薙ぎ、闇の月を裂き、黒瀾を押し返す。月詠の冷徹な瞳が、わずかに揺れた。

「……なるほど。では――さらに深い夜を見せてやろう。」

月詠の背後に、無数の月影が浮かび上がる。淡い闇色の輪郭を持つ、八つの月。

八相(はっそう)冥月連禍(めいげつれんか)。」

「……!」


背筋が凍りつく。

八つの月影が一斉に輝き、闇の奔流を吐き出した。それぞれが違う速度、違う角度、違う質の殺意を孕み、降り注ぐ。

光では対処しきれない。一撃でも受ければ、身体は消え去る。

でも、逃げれない。

ならばどうするか。

「……ぜんぶ、斬る!」

足が地を蹴り、光が爆ぜる。

闇の雨の中を駆け抜け、八つの月を次々と切り払う。

光翔(こうしょう)━━烈耀(れつよう)瞬華刃(しゅんかじん)!」

凪翔が使っている風の刃のように、なまくらの刀に光を集めて薙ぎ払う。

輝きが尾を引き、闇の柱を斬り裂いていく。一つ、二つ、三つ……斬り払うたび、体が熱くなっていく。闇の圧が体内に残り、皮膚が焼けるように痛い。

「まだ……!」

四つ、五つ……六つ目を断ち切ったとき、呼吸が止まるほどの痛みが襲った。

「……ぐ、あああああ!!」

月影を破るために力を割いた分、周囲を取り巻く闇が私を飲み込み始める。今この瞬間を生きていることさえ奇跡だと思える。

けれど………!

「終わらせる……ここで、あなたを……!」

残り二つに向けて飛び込む。

月詠の瞳が細められる。

「確かに、汝の輝きは美しい。だが、その輝きも今宵で散る。

この世界は、終わりがあるからこそ美しい。」

八つ目の月が、私の全身を呑み込むように輝いた。

しかしその中心で、私は叫ぶ。

「散らない……わたしの光は!!」

最後の光が天へ伸び、二つの月を貫き、闇を裂いた。激しい破裂音。衝撃で月詠の髪が後ろへ流れ、空間に揺さぶりが走る。

八つの闇月は━━完全に霧散した。

「━━━━━!」

月詠の瞳がわずかに見開かれた。今のは………動揺?


息を整え、荒い呼吸の間で私は言い切る。

「……これが……わたしの……夜明けだよ……月詠さん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ