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新たな技術

境界とは、力の大小で競うものではない。この場所に来てから、僕はそれを何度も思い知らされていた。隔絶された世界の、名もなき隔絶の地━━━世界と世界の縫い目のような場所だった。

空は淡く白く、地面は水面のように揺れている。歩くたびに波紋が広がり、やがて消えていく。

そんなここに来ることになったのは、昨日のこと━━━━━


「なるほど……魔力を用いて境界を作れるようになりたい、と。」

「境界について教えてもらえませんか。」

僕は、陽凪さんに聞いていた。

その結果、自分よりも適任者がいるということで、陽凪さんが幼い頃に境界を教わった人物のいる、継宮と言われるこの場所に送り出してもらったのだ。


「ここでは、神術ですら主張しすぎると弾かれます。」

陽凪さんのお知り合い、秋菜姫さんは静かに言った。

「境界に対抗するには、力を出す前に“在り方”を定めなければなりません。」

僕は頷き、無意識に魔力を周囲へ広げる。

リュシアさんとの修行によって、完璧にマスターしたものだ。

だが━━━━

一歩踏み出した瞬間、足元の感覚が消えた。

「っ……!?」

落ちる、というより、立っているという前提そのものが剥がされる感覚。

「今のが、境界に拒まれた状態です。」

秋菜姫さんは僕を支えることもせず、ただ見ている。

「陽凪ちゃんから、魔力と魔法については大方聞きました。それは、変幻自在でどこにでも届こうとする力………と言えば良いでしょうか。」

確かにそうだ。魔法は、広く、速く、柔軟に形を変えることができる。普通ではない新たな形を作ることができればできるほどいいと思っていたけど、どうやらその限りではないらしい。

「境界の中では、散りすぎるのです。」

彼女の指先から、細い糸のような光が伸びた。

「境界はただ単に“閉じるもの”ではありません。“守る理由“だったり“自分の意思“だったりが、自然と形に成るものです。」

糸が、僕の周囲をなぞる。円でも壁でもない、不定形な線。

「あなたは、なぜここに来たのですか?」

問いは、静かだった。

「……今の自分を、越えるためです。」

静かな空間に気圧された小さな声で、そう答える。

その瞬間、糸が光を増し、僕の足元に、淡い境界が生まれる。ただ、僕がそこに居続けることを許すだけの領域。

秋菜姫さんが手伝ってくれているのだ。

「さすが……陽凪ちゃんが天才かもしれないと言っていた意味がよくわかります。」

秋菜姫さんは初めて、わずかに表情を和らげた。

「どうですか?感覚はつかめましたか?」

「は、はい!」

今まで魔法を使う上で課題となってきて、パトリスさんにも色々と指導してもらった空間魔法とは、根本から異なっている。

ただ、空間魔法のイメージを持っているため境界のようなものを作ることができるとも言えるかもしれない。

「現在の状況では、境界の基となる器を作った状態でしかありません。

境界にはそれぞれ効力があり、その効力を境界に付与することで初めて実用的に………に…………

な、何してるんですか?」

「え?あ、ごめんなさい!

魔法を境界に使ったらどうなるのかと思って………」

慌てて止めようとしたら、

「そのまま続けてみてください。」と言われる。

「というか…できました。」

「え?これで終わりですか?」

「そう、ですね。」

正直、考えはしたもののどうにも使えないと思っていた魔法を、境界に組み込むことによって利用可能にした。

まぁ、境界として使っているものはもとはと言えば魔力なんだから魔法術式の追加とほぼ同じような感覚だ。

「感覚的に多少変わったとは思うのですが………どんな魔法を付与したんですか?」

興味深そうに僕の境界を見つめている秋菜姫さんに、やってみてからのお楽しみです。と返す。

ということで━━━━━━


「手合わせしましょう!陽凪さん!」

「えぇ!?何がどうなったらそうなるんですか!」とは言いつつも、どうやら手合わせをしてくれるらしい。

「メルぺディア、一応言っておくけど、姉さんは僕よりも剣術できるぞ?」

心配顔の凪翔さんが、教えてくれる。

だが、そちらの方がありがたい。

転移魔法によってサクッと道場に移動し、僕たちはそれぞれ刀を持つ。

メインは僕の境界がうまくできているのかの確認であるため木刀での戦いだ。

「それでは、いきますよ!」

あらかじめ伝えてあったため、僕だけが境界を作り出す。

何もない暗い空間に、陽凪さんと凪翔さん、秋菜姫さんの姿だけが残る。


合図は、もう意味を成していなかった。

踏み込んだ瞬間、陽凪さんの木刀が視界を埋める。上から。右から。間を置かず、下から。

三段が、ひと息で来る。

━━━━速すぎる。

けれど、僕の腕はもう動いていた。

上を受け、右を弾き、下を叩き落とす。

カン、ガン、カッ!

衝撃が連続して手首を叩く。受け止めた感触が残る前に、次の打ち込み。

横薙ぎ。逆袈裟。踏み込みからの突き。

木刀が交差するたび、音が重なり、空気が震える。

間合いが詰まる。詰まったまま、離れない。

陽凪さんは引かない。いや、有利に攻めているように見えて、引く暇がない。

僕が一歩出るたび、彼女も一歩踏み込む。木刀と木刀の距離は、常に紙一枚分。

打ち下ろしを流す。流した瞬間、返しが来る。返しを受ける前に、僕はもう次を振っている。

「━━━っ!」

陽凪さんの息が乱れる音が、初めて聞こえた。

その瞬間、剣筋が変わる。鋭角。無駄を削ぎ落とした最短。

それでも、遅い。

僕の木刀が、その軌道の先に入る。

弾く。叩く。押し返す。

ガンッ!

木刀同士が強くぶつかり、互いの腕が跳ねる。その反動を使い、即座に剣線が振り直される。

速い。本当に、速い。

しかし、僕は常に一歩先にいた。

彼女の肩が動く前に、重心が移る前に、次の打ち込みが来る位置に、剣を置く。

カン!カン!カン!

短く、鋭い音が連続する。もはや「受けている」のではなく、潰しにいくかのようだ。

「……っ、く……!」

陽凪さんが歯を食いしばる。

構えが崩れた瞬間を、僕は逃さない。踏み込み、連打。

右。左。中央。

だが、それらは全て紙一重で防がれる。

しかし、攻撃の手は緩めない。弾き、ついに追いつく。

戦いが始まった時とは、攻守が逆転していた。

陽凪さんの動きが、ほんの一瞬遅れる。

「━━━そんな……!」

声が上ずる。

それでも、陽凪さんは諦めない。強引に踏み込み、全身で振り下ろしてくる。

完全に、防御を捨てている。

がしかし、無理に攻め込めばこちらも食らう。

一呼吸すら許されない読み合いの中で、一歩下がって防御に転ずる。

重い一打。

腕に痺れが走る。だが、その衝撃を利用して、再び僕は前に出る。

返し。返しの返し。さらに返す。

木刀が視界の中で線になる。音が、もはや途切れない。

カカカカカカカンッ!!

速度が限界を超えている。考える余地はない。あるのは、打ち続ける感覚だけ。

陽凪さんの目が、完全に見開かれる。

「……見えない……!」

その言葉と同時に、防御が一瞬だけ遅れた。

ほんの一瞬。

僕は、そこに打ち込んだ。


コン━━━━。

肩口で、木刀が止まる。

静止がおとずれて、今までの出来事が嘘だったかのように静まり返る。

荒い呼吸の中、陽凪さんはしばらく動けずにいた。やがて、ゆっくりと木刀を下ろす。

「姉さんが……打ち負けた………」

凪翔さんも、呆然と呟く。

「本当に陽凪ちゃんに勝っちゃうなんて………

それで……答え合わせをお願いしても?」

「名前とかは決めてないんですけど……

隠離世風の名前にするのなら、『超越の間』とかですかね?」

「超越の間…なかなか興味深いですね。」

秋菜姫さんがそう言って、説明を求めてくる。

放心状態の陽凪さんと、いつまで落ち込んでるんだと言って肩を揺する凪翔さんを気にしつつ、僕は解説する。

「僕が考えていた魔法……自分が相手よりも強くなるというものがあったんです。

ですが、強くなる対象を選択するのが難しくて、手詰まりだと思っていたんですけど……

境界というのは、自分と選択する相手一対一を対象にすると聞いてピンときたんです。

あとは大体わかると思いますけど……

超越する対象を陽凪さんの剣術にして魔法を確定させたんです。まぁ、まだ完璧じゃないので“剣術“という一点においてしか超えられないんですけどね。」

頭をかきながら言った僕に、陽凪さんが大声を上げる。

「わ、私が長年努力してきたものを一瞬で越えられちゃった…………!

うぇ━━━━━━ん!」

そう言いながら凪翔さんに抱えられるその姿を見て、僕は心の奥を痛める。

そして、思うのだった。

敵と戦う時以外はこの魔法を使うのをやめておこう。と。

こんばんは。羽鳥雪です。

だいぶ前から作品を読んでいただいている方ならわかっていらっしゃるかもしれませんが、また予約投稿のミスです。本当にすみません。

70話を超えながらもいまだに初歩的なミスをしてる自分に飽き飽きしてきますが、今回で隠離世編も半分くらいまできた(はず!)ですので、これからも気張っていきたいと思います!応援よろしくお願いします!

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