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陽光の巫女

「こほん、えー改めてですが初めまして。

隠離世の主人にして陽光の巫女とも言われる、天雲(あまくも)陽凪です。

一応申し上げておくと、今年で20になります。」

今まで聞いたことがない名前の形に驚きつつも、僕たちも自己紹介する。

それを聞き終わり、陽凪さんは質問を投げかけてくる。

「エール・メルぺディア………あなたのお父様とお母様にもエールの名が入っていますよね?」

「父の名前はエール・ペグレティアスで、母はエール・ルミーシアです。」

「やはり、聞いたことのある名です………

それにしても、まさか私が7000年以上前の救世主のご子息に会えるとは…………感慨深いですね。

あなたのご両親はどんな方だったのかお聞かせ願いませんか?」

低い机を挟んだ向こう側。

綺麗な座り方でその場に着いた陽凪さんを真似して座ってみたものの、足が痺れて苦しくなってきている。

「あ、あまり無理をなさらない方がいいですよ?

座り方に指定なんてありませんから。」

そう言われて、痺れを耐えつつ僕は俗に言う体操座りに座り方を変える。

「外界ではやはり正座をする習慣はないんですね………」

「さっきの座り方は正座と言うんですか?」

「隠離世ではこの畳という材質が使われることが多いので、椅子などを用いないことも多いんです。

なので、机も低く造られています。」

なるほど………この世界の生活について少し理解が深まった感覚を持ちつつ、僕は質問されていたことを思い出す。

「あ、ごめんなさい!

質問の答えを言ってませんでした。」

「そんなこと謝らなくていいですよ。

私がここへ招いた側なのですから、十分にくつろいでいってください。」

そう言って陽凪さんが見せる笑顔は、どこかルーベルナさんに重なって見える。

今ルーベルナさんのことについて考え出すとキリがないため、小さく頭を振って質問の答えを言う。

「実は、僕は両親のことを覚えていないんです。

生まれて1時間くらいで未来に飛んできてしまって………」

「未来に………飛んできた?」

「時間系魔法に制限(リミテッド・)時空超越跳躍(パラドキシカルタイム)と言うものがあって、僕が生まれた時代から1万年後まで行ってしまったんです。

それから二千年と少しを遡り、この時代にたどり着いた状況です。」

「つ、つまり、あなたは1万年の時を旅していると…?」

「そういうことになりますね。」

目を開いて驚く陽凪さんを見て、僕は苦笑する。

こんな不思議な世界に住んでいる人から見ても流石に異質なのかと自分がやっていることを思い返していたそこへ、

「姉上、ただいま戻りました。」と声が聞こえる。

襖と言われるそれを開き、向こう側から身軽そうな服を着た男の人が姿を見せる。

前にセルフィスさんがルーベルナさんの姉だと言った時、後からその言葉の意味を聞くと、姉妹や兄弟という概念について教えてもらった。

つまり、陽凪さんの弟ということだろう。

「お話中にすみませんでした。」

一礼して襖を閉めようとしたその人を、陽凪さんは引き止める。

「“外伝秘典“を持ってきてください。」

「……………姉上が仰るのなら、外界の方だろうと安全でしょう。」

そう言うと、その人は襖を閉めていなくなる。

「あれは弟の凪翔です。弟と言っても双子ですので年の差はないのですけど。」

凪翔さんの後を追うように視線を動かしながら、陽凪さんは続ける。

「私が言うのもなんですが、すごく良く出来た弟です。

時間的に、子供たちに剣術を教えてきた帰りでしょうね。」

視線を戻して、彼女は机に置かれたお茶を飲む。

剣術に関しては、少なくとも僕は習ってきていない。お茶一つとっても、緑が強く出ていて匂いまで違う。

知らないことだらけだ。

「剣術と言っても、おそらく皆さんが知っているものとは違います。

剣が剣じゃないのです。」

……………?

「剣ってこういうやつじゃないんですか?」

その形を氷で作り出すと、陽凪さんが何度か頷く。

「やはり外界ではその形なのですね。」

そう言うと、立ち上がって隣の部屋に続く襖を開ける。

「キャウン?」

自分の方に近づいてきて興味が湧いたのか、ロックが陽凪さんの体を駆け上がって頭の上からぴょっこりと顔を出すような状況になる。

微笑ましい。

……………………じゃないでしょ!?

「ごめんなさい!うちのロックが申し訳ないことを━━━━━!」

今まで気にしていなかったが、整えられている黒い髪からぴょんと一本立っている毛が陽凪さんにはある。

それは別になんでもないのだが、それを現在進行形で噛んでいるロックの方が問題だ。

その頭から離れまいとしがみつくロックをなんとか離そうとすると、

「このままで構いません。私も小さくて可愛い動物は好きなので。」なんていう言葉と笑みが返ってくる。

鉄の檻を噛んでも欠けないほど強固な歯を持っているため危険だと伝えた方がいいとも思ったが、もうすでにセルフィスさんと同じくらい仲良く戯れている。

リュシアさんといいセルフィスさんといい、いつの間にか仲良くなってることが多いんだよな………

そんなことを思っていると、

「えっと……何をしようとしていたんでしたっけ。」と陽凪さんは首を傾げ、あ、そうでした!と言ってその部屋にある棚を漁り始める。

「なんというか………天然みたいね。」

僕の横に座っているセルフィスさんが、ぼそっと耳打ちしてくる。

「ルーベルナさんも時々あんな感じでしたよ。」

「それはメルぺディア大好き神様だったからあなたの前でバグってただけでしょ。

陽凪ちゃんだっけ?あの子の方がきっと断然天然よ。」

「クレムといい勝負ですかね?」

「ワンチャンもう一段上なんじゃ…?」

「聞こえてますよ。」

いつの間にか向かいに座っていた陽凪さんが、少し頬を膨らませている。

「い、いや、笑ってるわけじゃないわよ?ほら、天然要素があった方が可愛いじゃない?」

慌てて弁明するセルフィスさんに、

「こう見えても、この世界では頼れるお姉さんのような立場なんですから。」と陽凪さんはさらに頬を膨らませる。

僕から見たらお姉さんみたいでも、セルフィスさんと比べるとどちらかというとセルフィスさんの方がお姉さんっぽい気が………

やっぱり身長かな?

ちらっと陽凪さんを見ると、目元がウルウルし始めている。

な、なんで!?と思ったがすぐにその理由が明らかになる。

「わ、私だってもう少しくらい身長が欲しいと思ってるのに…………

それがコンプレックスなのに…………」

心を見抜かれているかの如く反応にビビいながらも、やはりこれは頼れるお姉さんじゃないような気が増えてくる………!

めちゃくちゃ申し訳ないけどどちらかというとクレムとかと同じイメージが………

なんて言うことはできないのでどうするべきか焦っていると、ロックが陽凪さんの頭を撫でる。

それと共に、再び襖が開かれて凪翔さんが姿を見せる。

先ほどまでの軽装とは違い着物を着込んだその人は、手の中に一冊の厚い本を持っている。

「ありがとうございます。」

ころっと泣き止んで本を受け取った陽凪さんの少し後ろに、凪翔さんは座る。

「この“外伝秘典“には、あなたのお父様が行なった偉業が書かれています。

どうぞ、お持ちください。」

そう言って、彼女は机の上にそれを置く。

「大切なものなんじゃ?貰っていいんですか?」

「最後まで読んでいただくとわかると思いますが、この書は外界の者が訪れた時に譲渡するように書かれています。」

そこまで言うのならと受け取り、興味ありそうに覗いていたセルフィスさんに渡す。

「隠離世は皆さんがここに来る際に通った“外絶門“が開く時のみ外界と繋がり、門が開かれるのは完全に不規則なのです。」

今まで一度も感じなかった力が突如として現れた理由はわかったが………聞いておかなければならないことがある。

「なぜ、新たな世界を作って外界から隔離された生活を送っているのですか?」

その問いに、陽凪さんは頷く。

「今から五千と数百年余り前、“白叢の大主“と呼ばれる人物が創り出した、外界との全てを断たれた場所がこの隠離世です。

当時、いやそれよりも前から、外界は戦争が起きては終わり、また起きていました。その力の中心となっていたのは皆さんも良く知っているでしょう、魔法でした。

魔法が使われる中で、白叢の大主は神との力に活路を見出します。

“戦争に力を貸さない神の存在は必要ない”という考え方が人々の間で広まり、世界が神を眼中に置かなくなっていた当時、その中で白叢の大主は真に平和を求める人々を集め、神の力によってこの場所を世界から断絶しました。

平和のために、自分たちで新たな世界を作ることを考えたのです。」

原理的には、超高技術によって発動された『断絶虚環封』のようなものだろうか。

とはいえ、世界を別けたと言ってもそれがいつまでも持つとは限らない。

「その白叢の大主という方は生きていらっしゃるのですか?」

僕の問いに、陽凪さんは首を横に振る。

「白叢の大主は隠離世を創り出すと同時に命を失いました。いえ、命を失うというよりも隠離世を創り出すための代価として自らの命を捧げたと言った方が正しいでしょうか。」

自分の命と引き換えにしてでも大切なものを護りたい………そういう思いは、どんな時代も確かに存在するものであると、改めて感じる。

「隠離世には、多くの神や御霊が存在しています。

白叢の大主から代々受け継がれている神の力に、天照と須佐男というものがあり、それを受け継ぐ者が隠離世を治めるのです。」

「隠離世を治める者………つまりそれが…………」

「私と凪翔の二人ということです。

この力は白叢の大主が隠離世を創ってから自分が最も信頼する人々に力を与え、それから今に至るまで代々伝承されている力なのです。」

「五千年以上途絶えたことがないってこと?」

貰った本を読み終わったのか、セルフィスさんが会話に入ってくる。

「天照と須佐男の存在は、隠離世そのものと結び付けられているのです。

私と凪翔はそれぞれの力を持つ実の両親から継承されていますが、例えば私たちがそれぞれ縁組をしたとして、私の家にも凪翔の家にも子供が生まれなければ、私たちが没すると同時に、次に隠離世に生まれる新たな命にその力が与えられます。

ですので、ほんの短い期間だけ途絶えるということは今までの長い歴史の中であったかもしれません。」

その説明を聞いて、なるほどぉ……上手いことできてるのねとセルフィスさんは感心する。

そして、僕は疑問に思ったことを聞いてみる。

「天照や須佐男というのは、実際に存在する神様なんですか?」

………………………………………

え?何この時間。

聞いたらやばいこと聞いた?

「実を言うと………わかってないんです。」

ぼそっと、陽凪さんは言葉を漏らす。

「隠離世にいる人々は、天照も須佐男も実在しているということで理解をしていますが、実際はわからないというのが現実です。

あ、このことは他言しないでください。

いるという確証もなければ、いないという確証もないのです。

事実、天照や須佐男以外で存在している神様は隠離世にはたくさんいらっしゃいますから。」

な、なるほど。

姿を炎皇神が一時そうだったように、姿を見せていないだけという可能性もなきにしもあらずなのか。

理解して、僕は頷く。

「そういえば聞きそびれていましたが、皆さんはいつまでこの時代に?」

その質問に、僕は悩む。

というか、結構よく悩んでいたのだ。

今の魔力があれば、千年くらいなら一気に戻ることができる。

セルジュの少年時代に行ったりリュシアさんの過去を見に行ったりしたために今回は5百年の時戻しに止めたが、実際はもっと戻ることができる…………と思ったが、それは無理か。

ルーベルナさんがいなくなってしまった今、時空逆流(タイム・リーバル)がどこまで効力を発動できるのかはちゃんと調べて見ないとわからない。

ルーベルナさんのことを考えないようにしていたのも相まって、完全にそのことを忘れていた………

「とりあえず、一年はこの時代にいるつもりです。その間に次の時代へ移動する準備を整えようかと。」

「ふむ……なるほど。

では、隠離世に滞在するというのはどうですか?」

急な申し出に、僕は遠慮気味な答えを返そうとする。

この旅の中、どこへいってもお世話になってばかりで、申し訳なくなってきているのだ。

ただ、そんな僕の思いとは裏腹に、

「いいじゃない。

向こうから言ってくれているんだからお言葉に甘えましょう。

魔法の存在だってここの人たちからしたら何かのアイデアに繋がるかもしれないし。」

悩みながらも陽凪さんを見ると彼女は笑顔を浮かべ、その後ろで凪翔さんは姉上がそう言うなら同意しますというオーラを醸し出している。

「で、ではお言葉に甘えて………」

「えぇ、是非是非!

泊まるところは………時々子供たちが遊びに来て忙しなくなりますが、うちでいいでしょうか?」

「そこまでしてもらわなくても全然!その辺りで野宿でもなんでもしますから!」

「それはもうここに滞在する意味の一つが失われているのでは………

気を遣って頂かなくて大丈夫ですよ。旅の疲れを癒すと思って過ごしてください。

隠離世は自然も豊かで療養にはこれ以上ないほどゆっくりできますし。」

“自然“という言葉を聞いて、僕の胸には矢が突き刺さる。

森を吹き飛ばし、燃やし、吹き飛ばしては消し飛ばした。

自然からしたらこれ以上ないほど敵対されそうだ。

また行ったら森も全部元通りに戻しておかなきゃ………

「それじゃあ、よろしくね!」

僕が過去に思い悩んでいる間に、セルフィスさんは陽凪さんと手を取って楽しげにしている。

もう話はまとまってしまったらしい。

「それでは、この屋敷の説明をさせてもらいますね。」

立ち上がりかけた陽凪さんを、凪翔さんが止める。

「ときに姉上。この刀はなんのために?」と言われ、陽凪さんは首を傾げる。

「えっと……私が出してきましたね………

えぇっと………なんのためでしたっけ?

あ、そうでした!

外界の剣との違いを説明しようとしていたんでした!」

手をポン!と叩いて、彼女は思い出す。

やっぱりこの人天然気質強いでしょ…………

そんなことを思いながら、僕たちは陽凪さんに言われるがままついていくのだった。

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