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必殺の滅光

老人が没したことを嬉々として町民に報告し、史上最恐の魔法使いの名を呼ぶ人々を部屋の陰から見つめ、僕は息を吐く。

やっぱり、あの人が史上最恐の魔法使いであるわけがない。

あんなに優しい人がそうだとしたら、世の中のほとんどの魔法使いが最恐の魔法使いだ。

そんなことを思いながら村から出てルーベルナさんたちの元へと転移する。

「どうだった?」

「その顔を見るに………やはり勘違いが起きているみたいですね。」

そう言ったルーベルナさんに頷き、見てきたことを話す。


それと同時に、2度の寄り道したことで残った、500年までの残りを戻していく。

話し終えるとほぼ同時に、時空逆流(タイム・リーバル)を止める。


その時だった。

風が吹き、不気味な感覚が身体中を襲う。

なんだ━━━━━━━?



次の瞬間、隣にいたはずのルーベルナさんが、ふと息を呑んだ。

何が起きたのか分からなかった。

その胸部から、赤いものが静かに滲んでいく。


音はなかった。

風の音も、地面を踏む足音も、全部消えていた。

ただ、刃が抜ける鈍い音だけが耳に残る。


こちらを見て口が何かを言おうと動く。


しかし、それすら叶わずにルーべるなさんの身体は光に変わって姿を消した。

その瞬間、胸の奥で何かが崩れた。


目元から込み上げるのが涙だと理解するまでに、途方もないほどの時間がかかる。


嘘………だよな?

これは………現実じゃない。

現実であるはずがない。

だって…………ルーベルナさんとの神程術式はまだ━━━━━━


とてつもない脱力感が、身体に重くのしかかってくる。

どれだけ探しても、見つからない。

魂の奥底まで見ても、存在しない。

なんでだ?

そうだ。ルーベルナさんが神程術式を消したんだ。

一体なんの冗談なんだか………

それとも、お父さんが術式を作り直したことでルーベルナさんはお父さんたちのところに戻っちゃったとか?

そっちの方があり得そうだ。

とにかく、今見たのは違う。

吹き出した赤い血も、何かの演出に決まってる。


鬱陶しいくらい、自分に言い聞かせる。

震える口を動かしながら、笑顔を作ろうとする。

身体が、動かない。

その実感を持った刹那、顔に鋭い痛みが走って吹き飛ばされる。

背中の痛みから、木にぶつかったことが遅れて理解される。

ゆっくりと目を開くと、そこには今にも崩れそうな防御魔法を展開して迫り来る剣を防いでいるセルフィスさんの姿が映る。


「何……やってんのよ!

こんな状況で現実逃避なんてしてる暇ないわよ!」

歯を食いしばりながら、セルフィスさんが怒鳴る。

その声も、脳内に残ることなく通り過ぎていく。

手にも足にも、力が入らない。

立とうという気力すら起きない。



いつも笑っていたルーベルナさん。

ずっと一緒にいてくれたルーベルナさん。

たまに厳しくて、それでも優しさを絶やさないでいてくれたルーベルナさん。

今まで当然にあった暮らしが、蘇っては消えていく。

頭がごちゃごちゃになっていく。

いつの間にか、涙が流れる。

訪れるとわかっていたのに、わかっていたはずなのに、現実を受け止められない。

呪いの存在を知ってから、なんのために生きて来たのか。

頭の片隅に、何があったのか。

なんのための努力なのか。

また、そんな疑問が頭をよぎる。

ルーベルナさんとセルフィスさんを護れるようになるために、そして2人の願いであった両親との再会を果たすためにずっと行ってきた旅のうちの、一つの終点。

ついに訪れたそれを、僕は受け入れられない。

こんな僕の姿を見たら、怒るだろうか。悲しむだろうか。それとも、慰めてくれるだろうか。

こんなにも無力な僕のために、ずっと、ずっと一緒にいてくれた。

困ったら助けてくれて、すぐ側で支えてくれて。

心配をかけないようにって何度も思ったのに、結局すぐに助けられて。

今、僕はルーベルナさんの期待に応えられているだろうか。

答えのわかりきっている問いかけを、自分の中で繰り返す。

そんな自分がみすぼらしくなってくる。

何を見て、何を聞いて、何を教わってきたのか。

握りしめた拳に、熱が生まれる。



音をあげて軋む結界に、視線を当てる。


こんなこと、してる場合じゃないだろ。

僕が魔法学科に入っていた間、ルーベルナさんたちはずっと天界にいると言っていた。

でも、それも違う。

遠くはあったけど、僕がいたこの世界で、いつでも僕のところに来れるようにしてくれていた。

天界に行くから一緒にいられないと言って、僕が独り立ちできるように考えてくれていた。

いつまでも助けられてばかりじゃいけないという僕の想いに、応えるために。

いつでも、僕のことを考えていてくれた。

だから、それに応えなければいけない。

クレムが、セルジュがエートが、サレナが。みんなが僕に成長を見せてくれたように、今度は僕がルーベルナさんに教わって学んだ成果を見せる時だ。


立ち上がって、一歩を踏み出す。

「ごめんなさい。遅くなりました。」

セルフィスさんの横に立ち、新たな防御魔法を発動させる。

「まったく……待たせすぎよ。」

笑みを見せて、彼女は前を向く。


「人間のくせに、神に協力するのか…………だとしたら、お前も俺が殺すべき相手だ。」

低い声で、その金髪の男は呟く。

「気をつけて。あいつの剣、普通じゃない。」

「わかりました。」

次の瞬間、その男は一度飛び退き、地を蹴ってすぐ目の前まで迫る。

防御魔法を、体と剣がするりと抜けてくる。

だが、その原理を考えている時間はない。

減速結界(ディレイ・フィールド)。」

対象に選択するのは、もちろん男のみ。

跳躍して結界から抜け出し、空に魔法陣を描く。

彗光(アストラル・)断章(ヴィンセント)!」

セルフィスさんの魔力が乗った星が、落ちる。

抉られた地面の中から、人影が飛び出す。

振り下ろされたその剣を炎掌(カルド・イグニス)で受け止め、刃を砕く。

地面に降り立ち、男を視界に入れる。

今のを直撃して無傷か…

「セルフィスさんはロックを連れてここから離れてください。

相手の狙いはセルフィスさんです。」

「駄目。私にだってルーベルナの仇を討つ権利があるのよ?」

こちらを見ることもなく、セルフィスさんは即答する。

きっとこの人は頑なにここに残ろうとするだろう。

だが、そんなことはさせられない。

「僕から、セルフィスさんまで失わせないでください。」

その言葉に、彼女は唇を噛み締める。

「本当に………大丈夫なんでしょうね?」

「絶対大丈夫です。この戦いが終わったらすぐに呼びますから。」

「…………………死ぬんじゃないわよ。」

「死にませんよ。」

今できる最大限の笑顔を見せ、僕は前に向き直る。

離れたところで縮こまっているロックを風魔法で拾い上げ、セルフィスさんの姿が消える。

「天界に逃げたか……………お前は逃げなくていいのか?」

虚無を映し出していそうなほど冷たい銀の目に気押されることなく、僕は答える。

いや、こんな相手に敬語を使ったり礼儀正しくなんて必要ないだろう。

「逃げるわけがないだろ。お前を殺す。

絶対に許さない。」

「はっ。どうせ神の恩恵を受けられるだけ受けて生きてきただけだろう?

神がいなくなったお前に俺が殺せるのか?」

冷笑を受け止めながら、無制限に溢れてくる怒りを解き放っていく。

「やってみろよ。」

杖を取り出し、それを構える。

そういえば、まだ魔力を込めたことがなかったな………

杖に魔力を込めると、クリスタルが真っ白に光り輝く。

それと共に、確かな感触を覚える。

この力は……………!

思わず、笑みが溢れる。

やっぱり、こんな時でも僕を支えてくれるんですね……………

しっかりとその杖を握り、呼吸して目を開く。



空気が裂ける。剣が走る音は、雷鳴にも似ていた。形は変わっているが刀身を取り戻した刃が振り落とされ、視界に入った瞬間にはもう目の前にある。

「……速いっ!」

杖の先を叩きつけるように掲げ、瞬時に防御魔法を展開する。衝撃が全身を貫く。

作り上げた結界が破砕音を上げ、刃が半ばまで突き抜ける。あと一瞬でも遅ければ、首が落ちていた。

風を作り、風圧で後ろに飛び退き距離をとる。

敵が追ってくる。金属の煌めきが、一瞬、太陽をも切り裂いた。その刹那、さらに魔法を発動させる。

氷華散(フロスペタル)!」

杖先から放たれた氷片が花弁のように散り、空気の流れを凍らせた。氷が、男の踏み込みを妨害したその一瞬。

「……今だ」

雷を呼ぶ。

「上級魔法、雷哭(ヴォルテクス・)天轟嶽(サンダリア・)(ドゥーム)!」

天が咆え、視界が白く弾ける。

真昼の空に、太陽の光を越える輝きを放つ閃光が落ちる。

地が悲鳴をあげ、崩れ去っていく。

しかし、剣が光り輝いた瞬間に雷が断ち切られる。

「その程度か?」

声と同時、剣が背後から迫る。反射的に『重力転移』によって自分の体を剣の間合の外へと引っ張る。


深淵(アビス・)重力禍殃(グレイヴマレディクト)殿(カテドラル)!」

男を地面に叩きつけるが、再び剣が煌めくと同時に重力が吹き飛ぶ。

だが、今までの相手の動きで理解できた。

ルーベルナさんを殺した時の剣と先ほどまででは剣の形が違う。

そして今、再び剣の形が変化した。

一度変化した剣ををもう一度利用することができるのかは疑問だが、剣の形状によってその効力が変わる可能性は十分に高い。

「今さら気づいたか。」

いつの間にか、前方から剣が突き出される。

剣の能力か、身体強化魔法か、それともこいつ本来の肉体レベルが高すぎるだけなのか。とにかく早く1発が重い。

「っ━━━━━━━」

断絶虚環封(ディアトルム)。強引に、創り出した闇の空間に男を閉じ込める。

空を蹴って距離を取り切った時、

「断界剣:セヴァランス」

低い声が響き、一瞬にして『断絶虚環封』が切り刻まれる。

また、剣が変わった。

「…………デタラメな力だ……………」

視界に捉えている相手は只者じゃない。

リュシアさんと戦った時以来の死の可能性が、頭をよぎる。

男の影が動き、疾風が走る。

次の瞬間、刃が目の前に光る。

意味わからん速度しやがって…………

魔装・風烈凱で殴り合っていたら、とっくに命はなかっただろう。



結局、この魔法に頼ることになるのか……………


敵が迫ってくる中、限界まで距離を取る。


そして、その刹那、瞳から魔力が溢れる。


天穹星羅(セレスティアル・)幻燈(アスト・)(レクイエム)!」



力を制限する必要はない。

今できる最大火力を、叩き込む。

漆黒の闇の中で、光が爆ぜる。


「確かに高い威力だが…………

あとひと押し足りなかったみたいだな。」



魔法が軋み、粉々に砕け散る。

崩れかけの握られた剣が、再び姿を変えている。

「『崩象魔剣:ネゲント・オブリヴィオン』。

魔法そのものの象を崩し、崩壊させる剣だ。」

こちらを見上げるその目は、同じ冷徹さを示している。

「これで終わりだ。」

「あぁ、お前がな。」

目を開き、そう呟く。


砕け散っていた天穹星羅幻燈葬の残滓が、漆黒に光り輝く。


━━━本来なら、元となる魔法によって魔法の粒子を飛ばし、それを用いることで発動させる魔法。

しかし、たった今、代替えとなる魔法によって条件は満たされている。

この魔法によって効力を得ることができるのは、僕の魂に刻まれている魔法術式全て。

元になる魔法自体の力によって必要になる魔力量は異なるが、この杖に与えられているルーベルナさんの力によって魔力効率は跳ね上がっている。

だからこそ発動できる。


そして、その魔法の名を呟く。


螺光・零界(ノウス=ゼロ)


世界が破裂するかの如く閃光が爆ぜる。


入り混じる漆黒と黎白が、世界を染め上げる。


万物を滅ぼす力の塊が、この戦いの終焉を告げた。

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