お母さんというもの
「こ、こ、こここここここコケ?」
「鳥にでもなった?」
やばいものを見るような目でセルフィスさんに言われるが、僕は目の前に置かれているものに驚きまくっている。
なんというか………豪華。それ以外に言葉が出てこない。
誕生日に2人が作ってくれたものもすごいと思ったが、周りの雰囲気も相まってか、より豪華な感じが出ている。
「これ、メルペディアが食べれないものとか入っていないわよね?」
「大丈夫です。ペティアさんが見た時にそういったものは見つかっていません。
体質的に食べられないものはないと思いますよ。」
「そ、それほんと?結構怖いんですけど……」
「2度目ですが、大丈夫です。
本当にメルペディアくんのことになると心配性ですね。
私とペティアさんのことすら信用できなくなるなんて。」
「いや別にそういうわけじゃないけど……」
「あ、あの!これってもう食べちゃっていいんでしょうか!?」
僕が感動している間ずっと言い合っていた2人に聞くと、表情は違えど同じタイミングで頷きが返ってくる。
「そ、それじゃあ……いただきます。」
僕が知っているものと少し形は違うけど、小刻みに震えるフォークを手にして肉らしきものに刺す。
それを口に放り込んでゆっくりと噛み締める。
お、美味しい。………………けど、何か違う………………?
気のせいかな?
今まで作ってもらったり一緒に作って食べてきたものとは、何か全く違うところがあるような気がする。
ちらっと顔を上げると、ルーベルナさんとセルフィスさんがこちらをじっと見ている。
その目から、『どうだった?』と言われているのがわかる。
「美味しいです!」
色々食べてから僕が言うと、2人は顔を見合わせて微笑む。
多分、これでいいんだろうけど………さっきから感じてる違いってなんだろうか。
そう思いながら、僕は食事を続けた。
「今日は疲れたでしょうし、早めに寝ましょうか。」
グラスに残っていた水を飲み切って、ルーベルナさんが言う。
「はい………」
ずっと考えていたことが頭から離れない僕のことを見抜いてか、お風呂に行こうとしていたセルフィスさんが足を止める。
「どうしたの、何か悩み事?」
「え!?な、なんでですか?」
「だっていつもより元気なかったから。」
それくらい簡単にわかると言うように、彼女は笑う。
「なんていうのかわからないんですけど………今日の夕食がちょっと変で………
いや、美味しくなかったとかではないんですけど………」
うまく言えなくて俯いていた僕を、2人はそっと抱きしめる。
「え………?」
どういうことかわからなかった僕に、ルーベルナさんが教えてくれる。
「きっと、ここの料理の方が美味しくつくられていると思います。
この時代の素材に合う調味料も、美味しく食べれる料理も私たちは知りません。
もしも今日のご飯より私たちの方が勝っているものがあるとしたら、それは………
あなたへの愛かもしれないですね。」
2つの温かい感触が、頭に触れる。
ぎゅっと、体が温かくなっていく気がする。
「2人は━━━━━━━僕のお母さんみたいです。」
言うか言わないかの悩む手順を飛ばしたそんな言葉に、2人は黙り込む。
体を離して、ルーベルナさんが僕の目をまっすぐに見て言う。
「それは、絶対に違います。
あなたのお母さんは、今もずっと、ずっとあなたに会いたくて待っています。
そんな人と私たちを同じにしてはいけません。」
……………思っていた答えと、全く違う返事。
お母さんみたいと言ったら、喜んでくれると思っていた。
だけど、違った。
僕に向けられているのは、初めて見る厳しい視線。
「━━━━━━━ごめんなさい。」
なんと言えばいいかわからず、僕の口から出たのはその言葉だった。
目が熱くなって、前のセルフィスさんと同じように目から水がこぼれ落ちる。
これは涙と言うのだと、前にルーベルナさんに教えてもらった。
悲しかったり寂しかったり、怖かったり苦しかったり、嬉しい時や怒っている時にも出るらしい。
でも、きっと今僕が流しているのはそういうのとは少し違うんだと思う。
いつも優しいルーベルナさんに強い言葉を使わせてしまったことへの、謝りたい気持ち。
体が、震えているのに気づく。
2人がどんな顔をしているのか見た方がいいはずなのに、顔を上げられない。
これ以上、何を言えばいいのかもわからない。
だから……………
「ごめんなさ━━━━━━」
もう一度言おうとした僕を、ルーベルナさんはぎゅっと抱きしめる。
さっきよりも、少し温かさが強くなっている。
「謝らなくていいんです。
あなたはまだ3歳の可愛い子供なんですから。
今言ったことを覚えておいてさえくれれば、それで十分ですよ。」
いつもと同じ声で、ルーベルナさんが言う。
「まぁ、ちょっと立派すぎるところもあるけどね。」とセルフィスさんが頭を撫でてくれる。
涙で前が見えなくなって、鼻で息ができなくなって苦しい。
「うわぁぁぁぁぁ━━━━━━━!」
ルーベルナさんの身体を強く抱きしめて、僕は泣いてしまった。




