表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/101

閑話:紅魔の炎環

「何かの間違いじゃないんですか!」

とある教会。

子を抱えて絶望する母の横で、父親が叫ぶ。

「間違いなどではありません。」

短く返す神父は、それに続けてできる手立てがないことも告げる。

「俺たちがいたら……この子は………俺たちのために死ななければならないかもしれないんでしょう!?

そんなのどうしたら………」

拳を握りしめて、その父は地面を叩く。

「こんな意味のわからない呪いなんてもののせいで………なんで………!

神は……我が子を救ってはくれないのですか!」

だが、天を仰ぐその父を救う神も、その家族を救う神も現れない。



「クソッ!諦められるものか…!

絶対にお前は死なせねぇぞ……!

待ってろよ、セルジュ!」


来る日も来る日も、その父は魔法を試し続ける。

無茶苦茶で絶対に成功しないような魔法陣を書き出し、イメージして何度も作り変える。

たった一人、愛する息子を救うために。



その子が教会で呪いを告げられてから2年。

「クソッ…………駄目か……………!」

父が扱える魔法は、息子と同じ炎属性だった。

2年の試行錯誤によって魔法の大部分は完成した。

あとは息子にその魔法を渡し、本人がその魔法を使えるだけの技術と知識をつけるのみ。

だが、肝心の魔法を息子に渡す術というものがない。

「どうにかして魔法術式を息子に…………」

「落ち着いて。そんな魔法、この世に存在しません。

あれば一体どれだけの人が強い魔法を扱えるようになると思っていられるんですか。」

神父に言われ、父は冷静さを取り戻す。

しかし、冷静さを取り戻すことは同時に、絶対に不可能ということを突きつけられることでもある。


「もう、どうすることもできないのね………」

「俺たちのためにセルジュが死ぬくらいなら、俺は自分の命を捨てる。

だからもうちょっとくらい…………」

「そんなことしたらセルジュはどうなるの!?

一緒に暮らして、急に私たちが自殺して、実はそういう呪いがありましたって書き置きでも残すの!?

後は1人で生きていきなさいって!?そんなこと言えるわけないじゃない!」

「んなことわかってるよ!

けどな!人間誰も愛さずに生きて行くなんてことはできないんだよ!

セルジュに愛する人ができた時、その人を置いて自分だけ先に死ぬなんて恐怖以外の何者でもない!」

「いつその時が訪れるかもわからないのにそんな話しないで!

定められた刻がわかってて、その1日前に私たちがいなくなればセルジュを私たちの代わりに犠牲になることはないかもしれない!

それがわからなければ今この瞬間にこの子が死んじゃうかもしれないのよ!?」

「でもな!2年やってやっとここまでこぎつけたんだぞ!?

そしたらもっとどうしようもできない問題が出てきたんだ!

俺がどんな思いで2年間生きてきたと思ってんだ!」

「私だってこの子のためにできることはやってきた!

あなたが無理だって言うからできないならできないなりにできることを考えようって言ってるの!」

「結局セルジュの幸せを考えてないじゃないか!」

「それはそっちでしょ!?」

2年の積み重ねが爆発して、夫婦は言い争う。

互いを尊重してきたはずの関係は、あっという間に崩れ去っていく。

どうやっても息子が幸せになる道がないとわかり切っているからこそ、父の主張は夢物語が混ざり込む。だが、母はそれを許さない。

ならばどう解決するか。水掛け論は終わるところを知らずに加熱していく。

自分が愛した者の代わりに生を終える。

そんな呪いを、一部の人間は愛する人のためならば喜んで死ぬと言うかもしれない。

しかし、自分のために死んでしまう可能性があると思う側からしてみれば、それは全くの見当違いだ。

何も決まることなく言い合いが終わり、夜。自分の部屋に籠って父は涙を流す。

愛する息子と愛する妻に弱いところは見せられないと、ずっと堪えてきた悲しみと無力感が、彼を襲う。

「すまない………俺は父親失格だ…………」



次の日の早朝、夫婦は子を連れて森へと出て行った。

自分たちも息子も救ってくれないとわかっていても、神の加護があると言われるその場所まで3人は歩いていく。

「今日のお散歩はどこへいくの?」

無邪気な子供の声に、両親は上を向いて涙を抑える。

朝一番から始まった話し合いは両者とも妙に冷静で、父も母も息子を自分の犠牲にしたくないという結論だった。

この呪いがある限り、いつまで生きても息子は苦しむことになってしまう。

それを理解しているからこそ選んだ、両親の曲がった答え。

否、まっすぐ伸びている道など存在しない。

全員不幸になる道はあっても、全員が幸せになる道など存在しない。



━━━━━そして、父はその子供の額を優しく弾く。

「ごめんなぁ………セルジュ……………お前と一緒にずっと暮らしていきたい…………

でもな、俺たちのためにお前が犠牲になるのはどうやっても受け入れられないんだ…………」

気を失い倒れかけた子供を、そっと地面に横たわらせる。

図形として描くことなんてできないほど難解な魔法陣を細かく記した紙を、服の胸元に挟む。


制約。

自分が永久的に魔法が使えなくなることを引き換えに、魔法陣の形状と術式、詠唱を記しあげた。

「すまない……本当にすまない…………!」

堪えきれず、涙が父の目から溢れていく。

弱い自分が見せられる最大限の愛と反省を描いた紙が、淡く光る。



『大丈夫。この子は、大きく力強く育っていきますよ。』


声が、泣き崩れていた両親の頭に響く。

魔法陣が記された紙が光り輝き、確かな魔法として姿を現す。

それが、その少年の魂へと刻まれる。


『だから、いつか再び出会ったら………思いっきり抱きしめてあげてください。』



未完成の魔法は、熱き想いと共に未来にて完成する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ