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愛するものを護るために

「すごい料理ですね………」

教室の机の上に並んだ豪華な料理を見て、僕は声を漏らす。

「美味しいものをかき集めてきたからぜひ食べていってくれ!」

大きなローストビーフや海鮮系の食事を食べながら、一年を振り返る。

誰かがやらかした時の話、セルジュが消えかけてしまった時の話でさえ、思い出話としてみんなの口から出る。

あの時に嘘吐きと言ったことをクレムから再度謝られながら、僕もセルジュを護れなかったことを改めて謝る。

「ぜひまたいらしてください!最高級のおもてなしをさせていただきますので!」

「だからそれナンパ!ていうか学校の校長が2人同時にナンパしようとすんな!」

ルーベルナさんに加え、セルフィスさんにも何やら訴えかけているフロウさんに、

クレムが声を荒げる。

でも、その光景を見てみんな笑っている。

この一瞬だけでも、未来のことを忘れて笑い合えたのだから、それは幸せなことなのだろう。

そして、あっという間にタイムリミットが近づいてくるのだった。




「もう、行っちゃうんだね………」

いつものあの場所に戻ってきて、僕たちはそれぞれの顔を見合わせる。

「そうだ、みんなにも称号をあげようと思っていたんだ。

称号というか異名というか通り名なのかわからないけど。

僕の師匠が僕にもつけてくれて、みんなにもあった方がいいかなって。」

そして、考える時間がなかったため即席ではあるけどそれぞれに合った名を考える。

「まず、セルジュは“紅魔の炎環“。

クレムは“碧流の奏者”。

エートは“砂塵の使徒”

サレナは“風哭の詠者”とかどう?」

「却下。」

「えぇ!?」

速攻でクレムに却下され、僕はムッとする。

「俺はそれでもいいけどな。」

「僕も。」

「私もよ。」

「「「「「え?」」」」」

なぜか却下と言ったクレム本人が自分はそれで良いと言い始める。

「じゃあ却下っていうのは……?」

「あなたにはわからんでしょうねぇ!」

急に大きな声を出したクレムに、その場にいる全員がビクッと反応する。

「確かに、あなたはサレナに風の魔法を教え込んだ。

いや、サレナだけじゃない。

私たち全員が自分の得意な魔法を極められるように修行をつけてくれた。

実際、それだけでも私たちは手いっぱいだったのに、サレナはそれだけじゃなくあらゆる属性の魔法を勉強して練習してたのよ!」

なん………て?

一切知らなかった事実に、僕は目を見開く。

いや、普通に考えて自分の練習に充てることができる時間は夜くらいしかないはず。

毎日夜に外出していたら流石に気づく。

というか、最近は結構な頻度というか毎日一緒に眠りについていたはずなのだが?

それまでの時間……夜の11時まで毎日魔法の練習をしていたというのだろうか。

なのに気づけなかった………?

「あの、魔法……見てくれませんか………?」

「私からもお願いします、先生。」

サレナとクレムの2人に言われ、僕はもちろん承諾する。

タイムリミットまで後30分を切っている。

しかし、教え子であり彼女の成長を見ないわけにはいかない。



……………リュシアさんも、こんな気持ちだったんだな。

急いで来た森の中、そんなことを思いながら、僕はサレナの手をとって宙に飛ぶ。

黒い壁を作り出し、とりあえず周囲への配慮をする。

「じゃあ……」

「うん。」

頷いて、彼女は僕の手を離す。

巨大な球状に作られた壁の中、上の方にいくつもの魔法陣が描かれていく。

そして、僕は目を見張る。

確かに風だけでなく、火も水も土も雷もあらゆる属性が入り混じっている。

この魔法を使うために必要な魔力は多分とてつもない量だろう。

小さく深呼吸して、サレナは目を開く。


「……幻煌(ルミナス・)天照花輪(オルフェリア)!」サレナの声が空に響き、世界が一瞬だけ呼吸を止める。

足元から七色の光が螺旋状に立ち上がり、空へ駆け上がる。赤い炎は牡丹のように燃え上がり、熱を伴って周囲の空気を震わせる。蒼の水は炎を包み込むように柔らかく流れ、夜の闇を透き通らせる。翠の風は渦を巻き、光の粒を舞い上げ、金の土が螺旋に沿って舞い踊る。紫の雷は空に刺さるように閃き、轟音が心臓を揺さぶる。白の光は穢れなき清浄の輝きを放ち、漆黒の闇は深淵の静けさで全体を引き締めていく。

七色の光が絡み合い、巨大な花輪の形を成す。中心で、すべての色が一瞬にして融合し、眩い光の核が生まれた。その光はまるで、宇宙のすべての時間と空間を一瞬にして映し出すかのように輝く。

花弁のひとつひとつが、世界の記憶を映す鏡のようだった。

手を少し振ると、光の花弁が散らされる。

散った花弁は柔らかく降り注ぎ、触れるものに温もりを伝える。


風が吹き、花弁は舞い上がり、熱も冷気も雷も、すべてが調和して空間を満たす。世界がひとつの巨大な舞台になり、空気が歌っているように感じられた。

ただ、空に咲いた光の花と、それを見上げる僕たちだけが存在する。



『炎ならば、ただ焼き払うだけでなく、夜を彩る灯火であってほしい。


氷ならば、命を奪う刃でなく、冬の湖に咲く結晶であってほしい。


雷ならば、大地を砕く轟音でなく、空を飾る光の舞であってほしい。』



不意に、あの人の声が頭に響く。

そして、思う。


“この魔法は美しい“と。


輝かしい光の中、サレナはくるりと振り返ってこちらを見る。

「また、あの花火の下で、たくさんの話をしようね。」

微笑んだ彼女に、僕も笑顔を返し、答える。

「絶対、また話せるよ。」




「ということで……発表します。」

全員が息をのみ、僕とクレムを視線が行ったり来たりしている。

当事者であるサレナが最も困惑しているが、言わないわけにはいなかいので僕は発表を始める。

「『華繚彩の紡ぎ手』なんてのはどうでしょう!」

……………………

わずかな時間静寂が過ぎ、

「いい!すごくいい!」と声が響く。

胸を撫で下ろす僕の背中を叩きながら、やればできるじゃないとクレムが笑顔になる。

「どう……かな?」

サレナの方を見て聞くと、彼女も笑顔でありがとうと応えてくれる。

よかった………

そう思って息を吐くと、ルーベルナさんとセルフィスさんが近づいてくる。

その意図を読み取って、僕は呟く。

「もう行かなきゃですね。」

みんなから数歩分離れて、僕は魔法の準備を始める。

「元気でやれよ!」

それだけ残して、フロウさんは背を向けて歩いていく。

「あの人は、生徒を送り出すときはいつもあんな感じなんですよ。

別れが辛いと、もしも2度と会えなかった時にもっと寂しくなってしまうからと言っていましたけどね。」

そう言いながら、モイトン先生もその背を追って離れていく。

「応援していますよ!いつかまたみんなで聖楽隊の音楽を聴きましょう!」

響いた声に、僕はしっかり頷いた。


「ほら、早くしないと時間なくなるわよ?」

「でも………」

「でもも何もないでしょ。今じゃなかったらいつ言うのよ。」

「うっ………」

顔を赤くしながら、サレナが進み出てくる。

言葉を言い出せず縮こまってしまう彼女をそっと抱き寄せる。

慰めるためとか反射的とかじゃない、ただただ好きだということを伝えるための行動。

そして、生きて会うことができるかすらわからない彼女への別れの挨拶。

魂に、何かが刻まれる感覚を覚える。

喜びなのか寂しさなのか、それとも未来への決意なのかはわからない。

だが、確かにその瞬間は僕の胸に刻まれた。



「絶対、また会おうね………」

「大丈夫。絶対また会える。」


「いってらっしゃい………!」

「うん。いってきます。」


これ以上の言葉は不要。

僕たちは魂と魂で繋がっている。

なぜだか、そんな気がする。


最期の時間が、過ぎ去っていく。

「じゃあ、みんなも元気で!」

「お前もな。」

「元気で!」

「頑張れ!」

言葉が飛び交い、僕は魔法陣に魔力を込めていく。

「それじゃあ、また未来で!」

魔法陣が光り、セルフィスさんの魔力が追加される。

もう慣れてきた五百年を超える魔法を発動させる。

時が戻り始めた時、ハウリングのように脳内に声が響く。


『汝の選んだ道は理解した。

哀れな汝に、あの少女が見ている夢を見せてやろう。』


その言葉と同時に、突如として目の前に炎が映る。


まるで空そのものが怒りに満ちたように、街が炎のうねりの中に沈んでいる。

空気が火花を散らし、焦げた風が肌を焼く。

立ち上る煙が空を覆う星を飲み込んでいく。

炎の中で、1人の男が膝をついて天を見上げている。


その顔は━━━━━━━


振り払うように目を開き、声を上げる。

「どんな未来が待っていようと、僕は絶対に逃げない。

たとえ神が相手だとしても………!」


『汝がいかなる道を進もうとも、世界は変わらぬ。

しかし、それでも護りたいものがあるというのであれば━━━━━━━


頑張るといい。』


最後の言葉に、僕はハッとする。

無機質だった声の中にほんの少しだけ、この神の本音が聞こえたような気がした。

こんばんは。羽鳥雪です。次回から2話続けて閑話が続きます。そこまで長くない話になる予定ですが、過去編と合わせたときにストーリー上大切になってくるところもあったりなかったりするのでぜひお読みください!

閑話が短くなるのでできれば3話投稿したいなーとも考えております!

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