言葉足らずの夜の誘い
夜、僕は空を見上げていた。
煌めく星々は、明日も明後日も輝き続けるのだろうか。
未来は明るいのだろうか。
意味もわからず、そんなことばかりを考えていた。
「………隣、いいかな。」
薄手の服で、サレナが姿を見せる。
「こんな時間に出歩かない方がいいんじゃ?」
「あ………そう…………だよね。メルぺディアが出て行くのを見つけたから後をつけてきちゃった。
やっぱり戻ったほうがいいよね………」
僕が寮を出たのは1時間以上前だと思うのだが………気まずくて出て来れなかったのだろうか。
理由はなんであれ、夜中の11時に一人で寮に戻れなんて言うのは酷いか。
「どうせ戻るなら、一緒に戻ろうか。
そろそろ僕も寝ようとしてたところだし。」
「うん!」
途端に笑顔になった彼女に、僕も笑みを溢す。
なぜか、サレナと共にいると思わず笑顔になっていることが多い。
そんなことを思っていると、
「少しだけ話をしたいんだけど……いいかな?」とサレナが言う。
話の内容にもよるが、ここから寮に戻ったら数分しかかからない。
変なタイミングで部屋に行くよりは、座ったまま話した方がいいだろう。
隣を空けると、サレナはそこに座る。
「最近さ、セルジュとクレムってすごくいい感じだと思わない?」
そんな言葉に、僕は呆気に取られる。
いや、こういう明るい話が嫌と言うわけではなく、話がしたいと言ってくるほどなのだからもっと深刻な話だと思ったからだ。
明るい話はいつ聞いても楽しいため、断ることもなく僕たちは最近の二人について話を始める。
「この前、クレムが先にお風呂に入ってた時に鍵をし忘れたらしくて、普通に入ってきたセルジュとバッタリ出会ったって話をしててさ、ばっかみたいとか言ってたけど、なんか嬉しそうというか恥ずかしそうというかって感じの顔してたんだよ。」
「セルジュが逃げるときに部屋とお風呂の扉壊した日か………フロウさんが修理費が〜とか言って頭抱えてたけど、セルジュの顔真っ赤になってて何があったのか聞けなかったんだよね。」
「発展途上の恋愛だね。
メルぺディアがここにいる間に付き合ったりするかな〜」
「あと1、2年くらいかかっちゃいそうな気がするけどね。」
「二人とも照れ隠ししてるからねぇ。」
静かな夜に、小さな笑い声が響く。
嬉しそうに前に視線を向けているサレナの横顔を見て、何かを感じる。
絶望とかそういう類のものではなく、また何か別の感情。
そして僕は、ハッとする。
「あ、あのさ━━━━」
サレナが口を開くとほぼ同時。厳密には少し早く、着ていたコートを彼女に羽織らせる。
「寒いでしょ。気づけなくてごめん。」
「あ、ありがとう………」
なぜか、ぎこちない空気が流れる。
違ったか?
でも、サレナの目は先ほどよりも嬉しそうだ。
もう10ヶ月も毎日過ごしているのに、未だわからないことが多い。
人間って不思議だ。
……………なんて考えれるくらい平和でいいなぁ。
そう思った時、思い出す。
「そういえば、さっき何か言いかけたよね。」
タイミング悪く被ってしまったことを、再度尋ねてみる。
「い、いや。やっぱりなんでもない。」
「本当に?」
「大丈夫大丈夫。今思い出したから。」
忙しなく手を動かしながら否定する彼女に、そこまで言うならと僕は引き下がる。
「…………もう、後2ヶ月しかないね。」
再び訪れていた静寂の中、サレナは呟く。
「後2ヶ月で、未来を変えることができるかどうか……か………」
今日も、サレナは眠るときに夢を見るのだろうか。
未来に訪れる絶望を見て、明日の朝目覚めるのだろうか。
ほんの少しも和らぐことのない現実を、突きつけられるのだろうか。
「今夜は一緒に寝ようか。」
………………………………「「え?」」
い、今僕はなんて言った!?
一緒に寝ようかとかいう意味わからんことを口走った!
恐る恐る横目でサレナを見ようとして、脳がそれを止める。
きっと、いや100%で引きつった顔をしているはずだ。
こうなってしまっては、嫌われてしまうことも覚悟しなければならない。
だが、何も言わないままでは本当にただの気持ち悪いやつで終わりだ!
「い、いや、今のはあれだよ………?
一人で寝るのが怖いならって思って………
ほ、ほら、怖い夢を見ることがわかってるのに寝るのって苦しいでしょ!?
少しでもその苦しみを和らげることができるならいいのにって思って…………ごめんなさい。」
…………いつしか聞いた、変態でスケベでえっちという言葉が蘇ってくる。
後日ルーベルナさんに聞き出そうとしたら拒否され、セルフィスさんから聞き出そうとしても拒否され、2人が話していたことをロックに盗み聞きさせて教えてもらった。
それと合致している気しかしない………
どうやって謝罪しようか思考を加速させている時、小さな笑い声が聞こえてくる。
顔を上げると、顔を赤くしながらもサレナは微笑みを見せている。
「じゃあ帰ろ。明日も朝早いんだから。」
差し伸べられた手を、困惑しながら握る。
「久しぶりに今夜はいい夢が見られそうだな〜」
駆け足で僕の手を引いていく彼女の嬉しそうな顔を見て、いつの間にか確かな胸の温もりを感じるのだった。
「えぇ。もう終わります。」
一人。真黒に染まる夜の中で城の上に立っていたその人物は、短くそう答えた。
その眼には、少ない灯りが残っている街が映る。
その影が、手を翳す。
巨大な魔法陣が描かれ、夜の世界よりも深い黒が街を包み込んでいく。
虚な瞳に光はない。
たった少しの笑みもない。
ただ、淡々とその力を振るう。
「黒淵殲滅奏宴」
呟かれたその言葉と共に、一つの街が、世界から姿を消した。




