行くことのない仮装大会
あの出来事から時間が経ち、今までと同じような日常が戻ってきて今日はお休みの日。
部屋でゆっくりしているところに、猫が入り込んできた。
「それで……………これはどういう状況?」
僕の前には、俗に言うメイド服を着て頭に猫耳をつけた人……サレナが立っている。
ただ、その顔を見るにやりたくてやっているわけじゃなく、無理やりやらされている感がすごい。
怒りからか恥ずかしさからか顔を赤くしている横で、ウキウキな顔をしているクレム。
「本日はハロウィンよハロウィン。
なんか仮装しようって話になって、結論がこれよ。」
街中がお祭り騒ぎのような理由はこれか………
それにしても、仮装って言ってもこれは可愛過ぎないか?街ではゾンビだの魔物だの御伽話だったりホラーものばかりだったんだけど。
「てことで、今日一日この猫ちゃんの面倒をよろしくね。
ほら、なんか言いなさいよ。」
ポンポンと肩を叩かれ、サレナは上目遣いで
「よ、よろしくお願いします……にゃん………?」と言う。
あ、可愛い。お持ち帰り〜したい。
い、いかんいかん!つい抱きしめそうになったが、そんなことをしたら問題だ。
「面白そうなことやってんじゃん!」
戸惑っていたところに、声が響く。
「セルジュも仮装したのね。」
「ま、たまにははしゃぎたいだろ?」
廊下を見ると、不死鳥の仮装をしているセルジュが頭の部分を外して顔を見せる。
「クレムも猫耳メイドやってくれよ。」
「はぁ!?無理よ無理。こんな恥ずかしい格好できるわけないじゃない。
スカート短い上になんでかしら胸元がちょっと見えるようになってるメイド服着て、しまいには語尾にニャンをつけるのよ?
いくら好きな人に可愛いところ見せれるって言われたってこんなの恥ずかし過ぎて私だったら死んじゃうわよ。」
グサグサと言葉の矢が突き刺さってきているのか、サレナは涙目になり始める。
流石に心が痛み、その場から逃すように彼女を部屋に入れてそっと扉を閉める。
その扉の向こうでじゃんけんが始まり、クレムの絶叫が部屋の中まで聞こえてくる中、僕は泣きながら飛びついてきたサレナを優しく抱き止めるのだった。
「それにしても、サレナって何着ても似合うよね。」
「ほぇ?」
口をつけていた紅茶のカップを離しながら、サレナは目をぱちぱちさせる。
「制服も着物も私服も、メイド服も似合うって羨ましいよ……
私服はルーベルナさんが似合いそうなもの買ってくれたり作ってくれたりするけど、いまだに自分が似合う服のタイプとかわかんないし。」
そう苦笑する僕の横で、
「他の服も着てみようかな……」とサレナが言葉を漏らす。
「あ、ごめん。
気を遣わなくていいよ。どんな服でも可愛いから。」
反射的に答えた僕から少し視線を逸らし、
「クレムがなんでかいろんな服持ってるから………」と返す虚無を見つめているその目から、底知れぬ疲れが見え隠れしている。
どうやらよっぽど実験台にされているみたいだ。
「良さげな服があったら買ってくるよ。
あんまり期待はしないで欲しいけど。」
そう付け加えた僕に笑みを向けて、彼女は思い出したように口を開く。
「今日の夕方から外で仮装大会があるらしいんだけど……行ってみる?」
仮装大会!?
つまり、街で売られていたあの数々の仮装をした人たちが集まるってことか……不気味だけど面白そうかも。
あ、でも………
「サレナはその服装で行くの?」
「た、多分。クレムも何か着て行くだろうけど。」
恥ずかしそうに俯く彼女を見て、僕は奇妙な感覚に襲われる。
なんか、嫌だなぁ………
もちろん仮装大会がどんなものか見に行きたい思いはあるが、その場所にサレナがこの服装で行くのが、なぜだか嫌に思えてくる。
でも、そんなこと言ったらきっとおかしなやつだと思われるだろう。
「じゃあ、行こうか。」
そう言って立ち上がった僕の服を、サレナは後ろから引っ張ってくる。
勢いそのままソファーに押し倒され、目の前にきた彼女の綺麗な瞳に、心を奪われる。
「今日は……一日全部あげるから………一緒にいよう?」
顔を真っ赤にして、それでも僕の目を見てサレナは呟く。
な、なんかやけに積極的というか……近くないか?なんて思いながらも、内心は安堵する。
心臓の鼓動が早くなっていくのを感じながら、僕も真っ直ぐにその目を見つめる。
小さく繰り返されるサレナの熱い吐息を感じて、僕の身体も熱くなっていく。
その時━━━━━━
「トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞー!」
大声と共に、乱暴に扉が叩かれる。
僕たちは慌てて飛び上がり、心を落ち着かせながら扉のところまで駆ける。
「せ、セルフィスさんとルーベルナさん………どうしたんですか?」
リュシアさんが着ていたようないかにも魔女らしい服装をしたルーベルナさんと、全身包帯に巻かれているけど先ほどの声的におそらくセルフィスさんらしい二人に声をかける。
「街の方でこういう掛け声をするのが恒例だと聞きまして。
それにしても、お二人とも顔が赤いのですがどうかしましたか?若干息も上がっていますし。」
一瞬で見抜いてきたルーベルナさんになんでもないですよと答え、僕は二人を部屋に入れる。
「サレナもそういう服装するんだ。そんな破廉恥な服着ないと思ってたんだけど。」
「多分クレムさんのチョイスでしょうね。」
全力で首を縦に振るサレナを見て、ルーベルナさんが微笑む。
「私たちは街の方で皆さんと仮装大会に行ってきます。
どうやらクレムさんの周りに人だかりができてましたけどお二人は………行かなさそうですね。」
小袋からお茶っ葉やお菓子などを取り出してテーブルに置きながら、ルーベルナさんは当然のように言う。
ここまで言い当てられると、もはやあなたが怖いお化けに見えてくるんですけど………
「それでは、お邪魔しました。」
そう言って部屋を後にしようとする彼女の横で、セルフィスさんはまだやることがあると言い始める。
「トリックオアトリート。お菓子かいたずらか。」
え……お菓子ないんですけど。
「今さっきルーベルナさんから貰ったやつで………」
「無理⭐︎」
えーっと………
何か持ってたりしない?と目線で訴えてみるが、サレナも持っていなさそうだ。
「じゃあ、いたずらね。」
なんという理不尽。
まぁ、セルフィスさんが考えるいたずらなんてそんな高度なものじゃないだろうからノー問題だけど。
「はい。じゃあ今日はその状況で過ごしてね。夜中の12時にはなくなるから。」
ひらひらと手を振り、踵を返してセルフィスさんは歩いていく。
う………ん?
感覚的に、どうやらロープのような感じのもので身体が縛られている。
そしてもっと大事なのが、目の前にサレナも一緒に一つのロープで縛られていることだ。
サレナのアレとロープで体が圧迫され、どうにも逃げられない。
目を逸らしたくなるも、逸らす先すら無い。
真面目にいたずらのレベルが幼稚すぎません!?
超低レベルなのに与えてくるダメージが超高威力のいたずらに、恐ろしくなってくる。
この人もはや神というか悪魔じゃ…………
「ま、まぁあのまま二人っきりにしたら一線を越えるかもしれないですし………すみませんが失礼します。」
「それじゃ、おやすみ〜」
当然のように放置して出ていく二人に、絶望する。
だが、まだ諦める時ではない。
『魔法陣解体』によってこんなもの簡単に崩してしまえばいいのだ。
トゥーイージー。
そして、視線の隅に映り込むロープを見て魔法を解読し始める。
が、ダメッ!
あの人やりやがった!
これ魔法じゃなくて神術やんけ!
お、終わった。
視線を戻すと、そこにはぶっ倒れるんじゃ無いかというほど体温が上がっているサレナがいる。
結局、僕たちは一言も話すことなくくっついたままの時間を過ごすことになってしまった。
更新が遅れてしまい大変申し訳ありません。こんばんは。羽鳥雪です。
そろそろ冬の不規則生活が終わりを告げてしまうため、投稿時間が朝もしくは夕方と夜に固定されてくると思います。
これからも1日2話投稿をしばらく続けていきますので、応援よろしくお願いいたします!




