新たな歩み
「なぁ。俺、魔法学科を辞めることにした。」
セルジュを失った悲しみで泣き続けていたクレムは、セルジュとの再会によって泣き疲れ、そんな彼女を心配して起きていた全員に寝るように言って、僕は彼と共に寮の屋上のベンチに座っていた。
太陽がのぼり始め、世界の縁を優しくなぞっている。
その光の眩しさに目を細めながら、セルジュはそう言った。
わかっていたことだった。
あの魔法を発動させた時点で、制約も同時に効力を発動するのだと知っていたからだ。
命を生き返らせるほどの魔法の代価として支払われたのは、セルジュが魔法を使えなくなるというもの。
セルジュ自身が使う魔力がなくなるだけではなく、他人から魔力をもらったとしても、セルジュはもう魔法を使えない。
技術と魔力があっても、もう2度と。
「僕が護れなかったから………絶対護るって言ったのに…………」
自分の不甲斐なさから、涙がこぼれ落ちる。
「いや、護ってもらったさ。」
そう言ったセルジュの横顔に、目を向ける。
「前に生きていく上で大切なことが何か聞いただろ?
一度転んでももう一度立ち上がることだってお前は言った。
だから、俺はこの魔法を作り出した。
でも、 メルぺディアがいなかったらあの魔法は使えなかっただろ?
全然うまくいかなくてさ、正直もう無理だって思ってた。
自分でもがむしゃらに作ったからよくわかんなくなって。
だけどさ、心のどっかで思ってたんだ。
お前ならなんとかしてくれるんじゃないかって。
助けてくれるんじゃないかってな。」
ニッと口角をあげ、セルジュは僕を見る。
そして、そういえばというように少し視線をあげる。
「………………でも、なんか違うんだよな。
あの魔法、俺が作った実感が湧かないんだ。
誰かが支えてくれたっていうか、助けてくれたっていうか…………」
少し恥ずかしそうにしながら、セルジュは笑う。
「まぁ、よくわかんねぇ。
でもよ、魔法が使えなくなるのは寂しいけど、俺は大丈夫だ。
クレムたちのこと頼んだぜ。」
勢いよく立ち上がったセルジュに何か言おうと口を開きかけると、あの時の声が聞こえてくる。
『お前が魔法を使えなくなった理由の一端には、俺の存在がある。
お前のその熱い思いに応え、力を貸してやろう。』
声が響くと同時に、炎の渦が巻き上がって一人の男の人が姿を現す。
「あなたが詠唱を教えてくれた人ですか?」
その問いかけに、
「人というと語弊があるがな。
こう見えて、俺は神なのだ。」
ニヤッと笑ったその神を前に、セルジュは呆然と立ち尽くしている。
「さて、どうする。
お前が望むなら、俺の力を貸してやる。」
「いやでも………俺に力を与えられても魔法は使えないぞ?
そ、それとも俺の制約を打ち消せるってことか!?」
「制約は世界との契約。いくら神と言っても私ごときがそれを打ち消すことなどできない。
そして、魔法が使えないという話だが、俺に魔法がどうこうなんて話は関係ない。」
その言葉で、この神の言わんとすることに大体の想像はつく。
がしかし………
「おそらく魔法の代わりに神術を教えるというのはわかりました。
でも、魔力と神力は同時に存在できないんですよ?
たとえあなたの持つ神力がすごくとも、この魔力に満ちた世界でそう簡単に神術の効力を発するほどの力が出せるとはとても………」
「ふむ、やはりしっかり者だな。
その通り、そんじょそこらの神は天界以外で神力を使うことはほぼない。
だが、それはあくまでも神によって異なる。
ごく一部だが、俺のように魔力に満ちている世界の中で神術を扱える技術を持つ神もいるのだ。
もっとも、威力は全く同じとはいかないが、この世界で戦うことを条件にしても、俺の神力でお前の上級魔法程度なら相殺まで持っていける。」
な、なんかサラッとすごいこと言ってないか?
そんなことを思いつつも、この場の決定権を持っているのは僕じゃない。
セルジュの方を見て、その答えを待つ。
「本当に、俺でいいのか?」
「この先お前が誰かのための炎を灯し続けると言うのなら、力を貸そう。」
差し出された手を、セルジュはしっかりと握る。
「契約成立だ。」
「こ、これは……!?」
僕が直接見ることはできないが、セルジュは何かに驚いている。
「神程術式。
俺を呼びたくなったらそれを使えばいい。
誰かに継承したくなったら言ってくれ。」
それだけ残して、その神は炎の渦の中に姿を消していった。
「……………なんか眠いな。」
次の言葉それ!?とも思ったが、確かにセルジュの顔は眠そうだ。
「まぁ、もう朝だし。」
「俺たちも戻ろうぜ。眠すぎてたまんねぇよ。」
大きなあくびをするセルジュと共に、僕は寮の中に戻っていくのだった。




