表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/101

休暇でない休暇

あの出来事から少しの時がすぎ、僕は教師役にも慣れてきた。

いつの間にかみんなとの距離も縮まり、最初の方は嫌われていたようなセルジュも今ではみんなと同じように修行に参加してくれている。

毎日、魔法。魔法。魔法。精度と威力、魔力の込め方。

できることからとにかく詰め込んでいく毎日。

「ねぇ。」

昼食の時間、クレムが僕の横に座って声をかけてくる。

「なんで私たちのためにそこまでするの?

あなたが生きていく時代は、私たちが生きていくしかない時代とは違うんでしょ?

わざわざ時間をかけてこんなことをする必要ってある?」

「そんな言い方は………」

止めようとしたサレナに大丈夫だと言って、僕は答える。

「遠い未来、自分を信じて誰かのために生きた男がいたんだ。

その人が作った街と教会は人の心の拠り所として250年の時を超えて生き続けた。

とある魔法使いは自分の過去を1人の弟子に託し、500年の時を超えてその願いは果たされた。

どれだけ人が願っても、それはすぐに叶う願いばかりじゃない。

大きく、強い願いであればあるほど、叶えるためには時間を要する。

出発点である過去を変えなければ、未来も変わらない。

絶望を乗り越えた先に明るい未来があると信じなければ、未来は訪れない。

僕は、その未来まで生き抜いて欲しいんだ。

0%の可能性を1%に上げられるなら、やらない手はないだろ?」

そう言うと、クレムは少し嬉しそうに笑う。

「なーんだ、ちゃんと私たちのこと考えてたんだ。

てっきりサレナとイチャイチャするためだけにやってるのかなと。」

どう見てもそんなことを本気で言っていたようには思えないが、軽い気持ちで聞いてみたという形で終わらせたいのならそれに乗ってあげればいいだろう。

「そんなことない。

クレムのことも心配してるし、エートのことも心配してる。」

自分の名前が出て、少し離れたところでパトリスさんと食事をとっていたエートがこちらを見る。

「まぁそうムキになんなくていいって。」

ひらひらと手を振りながら、クレムはサレナを連れて歩いて行ってしまう。

別にイチャイチャしているつもりはないけど、周りからはそう見えるのだろうか。

そんなことを思いながらも、午後の練習に精を出すのだった。



その日の練習帰り、僕はエートに声をかけた。

「ちょっと部屋に来ない?」

「いいんですか?」

「い、いや敬語じゃなくていいよ……訓練終わったし本当なら僕が敬語の方がいいくらいなのに。」

「じゃあ、外すよ。」

この人はいつもしっかりものだが、時々悲しそうな目をしている時がある。

その理由を探るべく、僕は今日部屋に誘った。

さくっと夕飯を作って向かいに座り、僕たちはご飯を食べ始める。

「美味しい……僕のとは大違いだ。」

「ルーベルナさんに昔から教えられてたから。」

そんな他愛もない話をしながら、僕たちは食事を続ける。

食費は学校が負担してくれるため、いつもは行きすぎた買い物はしないようにしているが、今日の夕飯はボリュームが多い。

少しでも時間を長引かせようという算段だ。

「それで、今日僕を呼んだ理由は?一緒にご飯を食べたかったとかの理由じゃないんでしょ?」

流石に誤魔化せないか……もっと上手い誘い方も考えないとダメかなぁなんて思いつつも、僕は本題に入る。

「この1ヶ月間見てて、時々悲しそうな顔をすることがあるのに気づいて、もしかしたら“呪い”が絡んでるんじゃないかと思ってさ。」

細い目を見ながらまっすぐ聞いた僕の顔を見て、その人は珍しく声をあげて笑い出す。

「ごめんごめん。そんな心配かけちゃってたんだ。

確かに僕も呪いを持ってる。ていうか、魔力を扱える人って呪いを持ってるのが運命だもんね。

でも、僕の呪いはそこまで大したもんでもなくてさ。

生まれつき目が細いことらしいんだよね。」

笑いが収まって真顔でそう言った彼を見て、僕は目を丸くする。

そんな呪いってあるの…………マジですか。

「悲しそうな目っていうのは多分だけど、セルジュとクレムを見ている時にってことでしょ?」

確かに、悲しそうな目をしている時は毎回その2人が近くにいるかもしれない。しれないというか、2人がいる時ばっかりだ。

「ということは……あの2人が関係してるっていうこと?」

「そういうことだね。」

な、なるほど……呪いで悲しんでいるわけじゃないのか………

「ここだけの話、実はさ。

セルジュってクレムのことが好きらしいんだよね。」

「確かにそんな感じはするかも。」とは答えたものの、正直言ってしまうと“好き“という感情はよくわからない。

ルーベルナさんが読んでくれたり自分で読んだりする本の中にも時々“好き“とか“恋“なんていう話が出てきたりするけど、それはきっとルーベルナさんやセルフィスさんに僕がむけている思いとはまた違ったものなのだろう。

「でもさ、わかると思うけどセルジュは自分の気持ちを伝えるのが下手なんだよ。

ってことをセルジュに相談されてずっと応援してるんだけど………いつもあんな感じで言い合ってるからさ。」

な、なるほど……俗に言う恋ってやつか………

じゃあ僕にできること何もないんじゃないか?

「だから困っていると言えば困ってるんだけど、僕自身に何かあるかと言われるとないんだよ。

心配かけてごめんね。」

苦笑しながら、エートは謝る。

「いや、僕も早とちりでごめん。」

「全然いいんだ。僕のためにって行動してくれたことだし。

それよりも、メルぺディアとサレナはどうなの?」

「というと?」

「クレムがずっと2人のこと気にかけてるから………もしかしてメルぺディアのことが好きなのかな………あ、いやごめん。

完全な憶測でこんなこと言うのは良くないね。」

ははっと小さく笑い、彼はお茶を飲む。

とはいえ、僕は恋とか恋愛というものがあまりわかっていない。

もちろんサレナもクレムもいい人だと思うし好きだけど、それ以上の特別な思いと言われると難しい。

ルーベルナさんとセルフィスさんも家族だし好きだけど、恋愛とは関係ないような気がする。

そもそも恋愛とは一体なんなのだろうか。

そんなことを考えるも、答えが見えてこない。

前に読んだ物語も恋愛に答えはないものだみたいなことを書いていたような気がする。

……………ダメだこりゃ。全然わからない。

そう思って顔を上げると、エートがこっちを見て笑っている。

「まだ6歳だったね。こんな話はちょっと早いか。」

そう言われて、最近元の姿に戻ってない気がすると唐突に思い出す。

恋とか好きとかがわからなくて悔しいのを誤魔化したい気持ちもある。

ということで………えい!

うん、完璧。

「そ、そんな簡単に戻れるんだ………」

呆気に取られているエートさんにVサインを出し、やっぱりこの姿だと視界から何から違うなぁと感じるのであった。



「ということで………今日は丸一日おやすみです!うまく利用してゆっくりしてください!」

教室の前に立って、僕はそう宣言する。

モイトン先生にも言われたが、この1ヶ月間ほとんど毎日魔法の練習ばかりで休憩がなかったのでたまにはということだ。

「それじゃあ僕はちょっと。モイトン先生、あとはお願いします。」

そう言って1人教室を出て、いつもの森へと飛んでいく。

少し前に思いついた戦術。それを試すためだ。

ただ魔法を作ったりするだけでは、実戦の経験の差で勝てない相手が現れるかもしれない。

美しい魔法とは離れているかもしれないが、そんなことを言っていてはリュシアさんたちも救うことはできない。

それは人生をかけてゆっくり追い求めていけばいい。


僕は両手を前に出し、掌の間に魔力を集中させる。風が止まり、音が遠のく。周囲の粒子が微細に揺れながら、淡い蒼光の輪を描き始める。

減速結界(ディレイ・フィールド)。」

魔法陣が静かに地面に刻まれ、直径五メートルほどの円が形成される。その内部の空気が、わずかに歪んだ。結界内に漂う木の葉が、まるで水の中に沈んだように緩慢に動いている。

「……成功、だな。」

僕はこの街で売っていた短剣を取り出して地面に投げる。刃は結界の外を滑るように飛び、結界に触れた瞬間、速度を奪われる。まるで空中で誰かに掴まれたかのように、動きが鈍化し、ゆっくりと地面に落ちた。

「時間停止と違うのは……対象が動けること。そして、僕も動けること。」

僕は結界に足を踏み入れる。世界が、重たくなった。空気の密度が何倍にも増したようで、指先を動かすだけでも抵抗を感じる。だが………動ける。

時間停止ではあり得ない、動的な制圧。「止める」ではなく「遅らせる」ため、僕の魔法も干渉を受けない。相手を鈍らせ、自分の魔力を通常通り動かせる。

そして、僕は魔法術式を書き加える。

一歩を踏み出すと、外と同じように歩くことができる。

自分をこの範囲内の効果の対象から外すという方法。

「これなら、遅延された世界の中で僕だけが戦える。」

声が静寂に吸い込まれる。足元の魔法陣が微かに震え、霧が引き裂かれたように消えていった。

試運転は成功だったが、まだ完全じゃない。結界の境界が不安定で、長時間展開すれば崩壊する可能性がある。

あとは、制御の精度を上げるだけ。

結界の余波で白く光る空気を見つめながら、僕は静かに息を吐いた。「やっぱ難しいわぁ。結界魔法。」

「上手く条件の変更ができてるじゃないか。練習してたみたいだな。」

ビクゥッ!と体が跳ね、声のした方を見る。

そこにはいつの間にかすぐ近くまで来ていたパトリスさんが立っている。

「今日1日は休憩だと言ったんだからお前も休むべきじゃないのか?」

少し呆れ顔な彼に、

「きっと、僕はいつかあの神と戦う必要があります。

その時がいつ訪れるのかすらわからない今、ただひたすらできることをやるだけです。」と答える。

「まぁ、あまり無理はするな。ここ最近もずっと体調不良気味だろう?」

「それはそうですけど……」

「魔法で病気を治すのはなかなか手間がかかる。特に自分自身を治そうとすると尚更だ。

休むべきだと思うぞ。」

それだけ言って、パトリスさんは歩いていく。

焦っていても上手くいかない……でも量をこなさないと上手くできる可能性があるものも上手くいかない………


どっちの方がいいんだ………?

そんなことを思いつつ、僕は帰路についた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ