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琥珀の瞳に映るものは

「私が見えるのは、いつだって笑顔の先にある絶望ばかり。ある時、夢で母が病気で倒れる夢を見た。

まだ0歳の妹の大きさから、そこまで時間は経っていないのだと分かった。

そして、その夢を見始めるようになって3ヶ月、毎日のように続くその夢に私は怖くなって母に話そうとした。

でも、昨日みたいに胸に激痛が走って何も言えないまま1ヶ月が経ち、突如として母は倒れ、息を引き取った。

お医者さんは、もっと早く……1ヶ月前に気づくことができれば治せていたかもしれないと言った。

母が死んでから時間が経つこともなく、私は新たな夢を見た。

父が兵役として連れて行かれ、その途中で事故に遭って死亡。遺体が届くという夢だった。

隣で号泣していた妹は少し大きくなっていてきっと2歳くらいだった。

それから一年、いろんな方法で父に兵役に行かないでほしいと伝え続けた。

「戦争も終わったし、こんな片田舎の人間が呼ばれることはないよ」と父は笑っていた。

夢で見たことをいろんな方法で伝えようと試してみた。

しかし、紙に書こうとすると手が震え、口で言おうとするとやはり言わせてくれなかった。

そして、父は兵役に呼ばれ、

「たった1ヶ月の訓練だ。妹を頼むぞ。」と言って出ていった。

1ヶ月後、父は骨だけに家に戻ってきた。


私たちは、生活ができなくなった。

5歳の私と2歳の妹。2人だけではどうしようもなかった。

近くの教会では私たちを優しく迎え入れてくれたけど、その教会だってお金を持っているわけじゃない。

お金は戦争の時にほとんどを国に持っていかれ、村の人々も困っていた。

そんな中で、両親を失った私たちを支援しようという人が現れた。

村で最もお金を持っているが、父はその人だけは信用できないと言っていた人だった。

藁にも縋るような思いで、私たちはその家に引き取られた。


それから一年後の豪雨の日の夜、家の主人と尋ねてきた客が話をしているところを目撃した。

『そろそろ頃合いじゃないか。』

『出荷前に一度くらい手をつけておいてもいいか。』

そんな話を、楽しそうに長々としていた。

私は、妹を連れてその場を逃げた。

なぜ今まで見ていた悪夢を今回は見なかったのか。その理由を理解したのは、その時だった。

私たちは逃げきれた。

本当の意味で不幸にならないとその夢をみることはないのだと思った。

逃げ切れた喜びを噛み締めていた時、また夢を見てしまった。

今度は、妹だけが連れ去られていく夢だった。

いや、私だけが見逃されたと言った方が正しいかもしれない。

追っ手が来て、私たちは捕まった。

それなのに、その男たちは妹の方が後々価値が出るだのなんだのと言って私をおいていなくなった。

確かに、家の主人はまだ小さい妹の方はずいぶん可愛がっていた。

『姉よりも妹の方が価値ができそうだ。』

あの日の夜も、そんなことを言っていた。

だったら私も連れていって売るなりすればいいのに、わざわざ私を残していった。

森に取り残された私は、しばらくして拾われ、巡り巡ってここに辿り着いた。」



もう、涙も枯れ果てたと思っていたのに、私の目からはなぜかいくつもの涙が落ちている。

せっかくもらった服が、涙で沁みていく。

それが嫌になって手で目を隠そうとすると、温かい感触が手に触れる。

視線の先で、優しく微笑んでいる顔が映る。

この人が歩んできた道を、私は聞いた。

多分、私がこんな話をしたらこの人は私のことを放っておかない。

そんなことわかっていたのに、なぜ話してしまったんだろうか。

「ごめん……ごめんなさい…………」

蹲る私を、彼はそっとその胸で抱き止める。

込み上げてくる嗚咽が、止めどなく溢れる。

その時、空に1発の花火が上がる。

音の残響が、消えることなく耳の奥底に響き続けた。




最後の音を奏でる聖楽隊の前に、僕たちは歩いていく。

音楽とは、ここまで胸に語りかけてくるものなのだろうか。

そんなことを思っていると、みんなの姿が見えてくる。

振り返ったクレムさんが、僕たちを見つけて目を見開く。

「ごめんなさい、ちょっと先に戻ります。」

「ちょ、ちょっと待ってよ!何があったわけ!?」

そうなるのも無理ないか。

「泣き疲れちゃったみたいで。部屋に戻って休ませておきます。」

背中におぶっているサレナさんの髪がくすぐったい上に慣れないこの体だが、落とさないように意識を続ける。

「泣き疲れたって………」

「えーっと…詳しいことはまた明日サレナさんから聞いてください。」

それだけ言って、僕は寮に向かって歩いていく。

そっか……鍵がないと開かないのか。

流石に部屋の方は鍵をかけているため、開くことはできない。

魔法で強引に開けることもできるけどそれはそれでよくないか………

仕方ないので自分の部屋の扉を開けて下駄を脱ぎ、サレナさんの足からもそれを外してベッドの上にサレナさんを寝かせる。

これでいいかな。

お風呂は、明日入って貰えばいいだろう。

さて、僕はお風呂に………

離れようとした僕の腕が掴まれ、ベッドに腰を下ろす。

「お母さん………」

そう言葉を溢しながらうっすらと涙を流している彼女を見て、小さく息を吐く。

なぜ、世界はこんなにも残酷なのだろうか。

これ以上、この人から何を奪えば気が済むのか。

そんな思いが、頭の中を交差する。


「いつか、絶望への夢ではなく、希望への夢を見られるように。

絶対に助けるから。

人と心から笑い合える毎日が続くよう、未来なんて変えて見せる。

だから、信じて待っていてほしい。

何十年後まで夢を見ても、その全てが明るい未来であるように。

僕が、あなたの未来を護るから。」

そんな言葉を残し、僕は彼女の細い指を手で包み込んだ。

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