旅の始まり
次の日から、僕たちは町を探しに早速遠出をすることになった。
理由は単純。僕が早く過去に戻りたいと言ったからだ。
なぜ過去に戻ることと町を探すことに繋がりがあるかというと、まず1万年前よりも魔法技術が進歩していれば、もっと効率的に過去に戻れる可能性があること。
次に、人との交流というものを持っておいた方がいいということらしい。
ルーベルナさんは、せっかくなら1万年の歴史の変化を見てみましょう!とノリノリだった。
最初に制限時空超越跳躍を使用してから3年の時が経過しているため、今はフルパワーで魔法を使えるわけだが……超級魔法である制限時空超越跳躍よりも上級魔法である時空逆流秘術の方が難しいという状況が起こっている。
本来は逆であるはずなのだが、お父さんが追加付与した未来へ行く方の発動がどれだけ簡単なのかわかる。
魔法術式の理解に加えて時空間、数列などの知識まで必要になってくるため、世界を過去に戻すというのは想像通り難しい。
ルーベルナさんが細かく術式の構築を説明してくれて、セルフィスさんが魔法陣に魔力を入れていく方法を教えてくれる。
魔力を使うということに慣れるため、常に術式を作ったり低級魔法を使ったりしながら、僕たちは長い長い森の中を野宿しながら歩いていく。
「これで3日歩いているけど……どう?後どれくらいで目的地につく?」
僕が魔法で作った小さな水の塊で遊んでいたセルフィスさんが聞いてくる。
「ちょっと待ってくださいね。」
目を瞑って集中する。
「風反読取図。」
この魔法は、最初から魔法術式が頭に入っていた。
風を波のように利用し、自分の任意の方向に飛ばす。そして帰ってきた風を元に地形を確認、できることはそれだけであるため、もちろん低級魔法。
魔力の流し込み方を理解した今、そんなに難しいものじゃない。
「後4分の1くらいで着きそうですよ。」
差し出された手を取りながら、魔法でわかった目的地までの必要時間を答える。
僕たちは今、1番近くにあった町を目指して歩いている。
1万年も経てば、町や村の場所も大きく変わっていても不思議じゃないと言われた。
町というものを直接見たことがないため、どんなところか期待しながら歩いている僕。
手を繋いでいない方の手で頭を撫でながら、
「低級魔法くらいなら十分に扱えるようになりましたね。
最初から魔法術式に関する才能はあったですし、この調子なら中級魔法もすぐに使えるようになりますよ。」とルーベルナさんが言ってくれる。
確かに、この2、3日間でかなり上達していると自分でも思う。
「2人が教えてくれてるからです。ありがとうございます!」
そう言った次の瞬間、左右からぎゅっと体が締め付けられる。
「く、苦しいです……」
というかセルフィスさんが頭でぐりぐりしてきてお腹が痛い……
よく抱き付かれるけど、この時は結構痛い時間だったりする。
いつも冷静なルーベルナさんもなんかいつもより危なくなるし………
でも時々怖くなるからいつもよりって言わないのかな?いつもってどれくらいなんだろう。
いつものように無駄なことを考えながら、僕たちは歩き続ける。
「今日が最後の野宿生活になりそうですね。」
ルーベルナさんがそう言って、野菜スープを木の器に入れてくれる。
スープを温めている火も、僕が魔法で起こしたものだ。
「行った先の町で泊まるところがなかったらどうするのさ。」
「その時は……どこかのお家をお借りしましょう。
それも無理なら、また野宿ですね。」
あまり苦ではなさそうに答えた彼女に、セルフィスさんも肩を落とすことなく座り直す。
「さぁ、明日は日が昇っている間につきたいですし、今晩は早く寝ましょう。」
「「はーい。」」
声を揃えて、僕たちは大きな葉を下に敷いて寝付くのだった。
「ねぇ、ルーベルナ?」
「どうしましたか?」
「あの事、メルペディアくんに言ってないけどどうするの?
一回の魔法の発動で500年は戻れるとか言っちゃって。
もちろん、それをするために必要な条件は揃ってる。
でも、それが何を意味しているのかわかってる?」
私の質問に、いつか聞かれると思っていたであろう彼女は身体を起こして座り直す。
「もちろん、言った方がいいことは確かです。
ですが………言えるんですか?」
本質を突いたような彼女の一言に、私は喉をつまらせる。
「それは………その………」
「彼は、私たちが思っているより賢くて優しい子です。優しい子ということは十分わかっているかもしれませんが……
あの話をすれば、彼は多分両親に会いにいくことをやめようとするんじゃないですか?
私は、自分のためにこの子の人生を犠牲にしようなんて思いません。
セルフィスがなんと言っても、私だけでも彼のために力を使います。」
「勝手なこと言わないで。」
私のことを何も考えていない発言に、私は待ったをかける。
ただ、それはルーベルナが力を使うことにじゃない。自分だけでも彼のために力を使うと言ったことに対してだ。
「いい?あなただけが彼のために力を使うことはだめ。
絶対に私も協力させなさい。」
キッパリと言い切って、私はルーベルナを見る。
どうしようもない姉だと言いたげに、彼女は私を見ている。
でも、その瞳はどこか嬉しそうだ。
「必ず、2人でこの子を両親の元に送り届けましょう。
約束です。」
「えぇ、もちろん。」
その約束と共に、夜は更けていった。




