どうしようもない奴
「あれが、かの有名なマエル・ドルティーさんか。」
街の人々が、その姿を見て口々に名を呼ぶ。
しかし、余裕に溢れたドルティーさんの表情からは、何か他者を見下すような視線を感じる。
たった15年。それでも、自分が思うに濃い人生だった。
他人の思いを見抜くことには自信がある。
「おい、この街に魔法を使える奴はいないのか?」
ドルティーさんが近くにいた男性に尋ね、その人は学校に魔法学科というものがあると言いながら私たちを見つける。
「ちょうどあそこにいる人たちですよ!」
有名な相手と話せて興奮しているのか、大きな声でその人はこちらを指差す。
「魔法学科………ここにもそんなものがあるのか。くだらんな。」
教えてもらったことに感謝も見せず、ドルティーさんは吐き捨てる。
「いくら高名な方だからといって、くだらないとは心外ですね。うちの生徒たちは皆日々努力をして生活しています。
あなたには到底及ばないかもしれないが、いつかその成果が実を結ぶと我々も信じています。」
私たちの前にフロウさんが立ち、言ってくれる。
「お前、魔法は使えるのか?」
そう聞き返され、苦笑しながらもフロウさんは答える。
「残念なことに、私は使えません。だからこそ、この子たちには頑張ってもらいたいと━━━━━」
「魔法を使うことすらできないやつと魔法について話すつもりはない。黙れ。」
フロウさんを一蹴し、
「それで?お前たちは魔法を使えるのだろう?そこのお前、試しに魔法を撃ってみろ。」
そう言って、ドルティーさんはクレムを指差す。
「わ、私!?」
驚きながらも、クレムは一歩前へ出て魔法を発動させる。
緊張からか多少荒っぽさは見えるが、彼女の水魔法は強力だ。
純粋な威力だけで見るなら私たちの中で最も強い彼女の、全力の魔法。
正直言って、私もどれくらい通用するのかを見てみたい。
しかし━━━━━━
「やはりくだらん。所詮子供の水遊びだ。」
薄っぺらい一枚の防御魔法で今の攻撃を防ぎきり、ドルティーさんは呆れる。
「まぁ、ちょうど観客も多いことだ。俺の力を知らしめるためにも、魔法というものがなんなのかを見せてやる。」
その言葉を聞いた瞬間、背筋が震える。
見せてやるという言葉の意味がどうとかではない。男の目が、普通の人間の目じゃない。
なんと言えばいいのか、そんなことを考える前に、その男はこちらに手を向ける。
そこで初めて、“見せてやる“という言葉の意味も理解する。
「自分の弱さを知るがいい。」
次の瞬間、爆炎の魔法が放たれる。
数秒の時間すらない間、モイトン先生が割って入り防御魔法を展開するが、0.1秒持つかどうかで消えていく。
動け、動け、動け!
今更頭の中によぎった危険に、私の体は反応しない。
そして、その魔法が私たちに直撃する。
「そんなものが直撃したらここにいる人たちが死ぬことぐらい、わかってますよね?」
固く目を瞑ってどれくらい経っただろうか。
その声を聞いて、私は目を開く。
そこには、私たちの前に立って氷魔法を展開している1人の少年の姿がある。
「ほう、力を抑えたとはいえ今のを防ぐか。」
「今のを防ぐかとか言ってる時点で、なんも考えてないでしょ。」
ぼそっと少年は呟き、自分の魔法と共に男の魔法を掻き消す。
「なんのために今の魔法を?」
「なんのため?手本を見せてやろうと思ってな。
努力なんかじゃあ俺は超えられないってことを思い知る必要があんだよ。」
ヘラヘラと笑いながら言うその人に、
「手本にしては雑な魔法でしたけどね。」と少年は言い返す。
「はっ!その程度のものを防いだくらいでいい気になるのは早すぎるんじゃねぇか?」
再び魔法陣を作り上げた男に、少年…………メルぺディアくんは尋ねる。
「あなたの名前はなんですか?」
その言葉に、男は苛立ちを隠さずに
「俺の名前を知らないなんざとんだ世間知らずだな!」と言い放つ。
「俺の名前はマエル・ドルティー!史上最恐の魔法使いの弟子にして現在最強の魔法使いよぉ!」
男がそう言った瞬間、メルぺディアくんは反応する。
「史上最恐の魔法使い………それはリュシアさんのことですか?」
リュシア・エルフェルデ。私でも知っている、史上最恐の魔法使いと言われる人物。
数百年の時を生き、今はどこかでひっそりと暮らしているという。しかし戦いが起きれば現れ、城だろうと国だろうとたった1人で滅ぼしてしまう強大な力の持ち主。
各国の疲弊によって戦争が止まっているためか最近は目撃されないようだが、その存在は生ける伝説として今日も語り継がれている。
ドルティーという男がそんな彼女の弟子だということに驚きを隠せない私と同じなのか、メルぺディアくんもその名前に意識を向けている。
「史上最恐と言われる魔法使いはそいつ以外いないだろう。ただ、今は俺の方が強いがな。」
不気味に笑うその男に、メルぺディアくんは小さく言葉を放つ。
「あなたが、僕が殺すべき相手みたいですね。」
パチン!と音が響き、少年と男の2人は黒い壁の内側に閉じ込められた。
「な、なんだ?これは………」
「僕とあなただけを閉じ込めました。」
魔法によって作られた漆黒の壁の中、僕はその相手と対峙する。
リュシアさんに弟子入りした時に言っていた、どうしようもないやつという人物。その名前もマエル・ドルティーだった。
「はっ。クソガキ風情が調子に乗るな。」
魔法の杖を取り出し、その人は構える。
「調子に乗ったことを後悔させてやるよッ!」
杖の先端についている石が光り、魔法陣が描かれる。
おそらく、リュシアさんに修行をつけてもらったというのは本当だろう。
魔法陣の構築速度と密度、魔力。確かに熟練の相手だ。
でも………
「魔法陣解体。」
次の瞬間、その人が作り出した魔法陣は消滅する。
「な、なんだ!?貴様ッ!何をした!」
「あなたの魔法陣を壊した。それだけです。」
「ま、魔法陣を壊すだと………?ふざけるなよ………!」
「今の、リュシアさんが使っていた魔法でしょう?もちろん、下位互換にも程があるほどの欠陥ですけど。」
僕の言葉に、その人は声を荒げる。
「黙れ黙れ!
史上最恐の魔法使いがなんだってんだ!俺があいつを超えて本物の最強になってやる!」
「あなたがリュシアさんを超えることはできないと思います。
僕が知っている限りでは、あなたはリュシアさんに殺される。
今から数100年鍛え上げても、あなたはあの人に勝てません。」
「うるせぇ!世の中勝ったやつが全てなんだよ!
金持ちの家系に生まれ、富も名声も全て生まれ持ったやつ!そんなやつですら、魔法の前には紙屑も同然だ!
魔法も俺が力をもつための道具にすぎねぇ!リュシアの存在もそうだ!あいつに教えを乞えば俺は史上最恐の魔法使いの弟子になることができるッ!」
声を上げて高笑いするその人に、僕は冷たい視線を向ける。
リュシアさんがどうしようもないやつだったと言えるもの、わかる気がする。
こんな人と出会ったせいで、あの人は自分の存在がわからなくなり、結果としてこの男を自分の手で葬った。
しかし、そんな彼女はもういない。
だとしたら、僕がやらなければならない。
「おら次だ!もう手は抜かねぇぞ!」
次の瞬間、僕の足元に巨大な魔法陣が描かれる。
氷と雷の混合魔法………しかも先ほどのものと違って高度だ。
簡単には崩せない。
「凍雷槍刃!」
そう声が飛んだ瞬間、僕も魔法を発動させる。
範囲は、僕と相手を含んだこの壁の中全て。
「上級魔法、黒淵殲滅奏宴。」
氷雷の魔法陣もろとも飲み込み、魔法が爆発する。
「あなたは、美しい魔法ってなんだと思いますか?」
漆黒の炎の中で、僕は問いかける。
黒い炎に飲まれていきつつも、その人は声を荒げる。
「美しい魔法なんていらねぇんだよ!
さっさとこれを解きやがれ!」
そんな言葉を聞いて、僕は理解する。
「これを拘束魔法か何かだと思ってますか?
高温すぎて感覚が麻痺してるのは、あなたにとってよかったことかもしれませんね。」
「お前は何を言ってんだ!」
淡々と告げた僕に向け、鋭い声が飛ぶ。
「それは炎の魔法です。
今あなたの体が崩れていっているのは幻想でもなんでもなく、炎に溶かされているからです。話を聞く限り、実感すら持てていないみたいですけど。」
理解できたのかできていないのかはわからないが、その人の唇が震え始める。
「な、なんだ?りゅ、リュシア!?」
急に放たれたその言葉に、眉をひそめる。
「うっ………なんだ………?クソッ!どうなってる!?」
炎を掻き分けるように荒ぶるその人を見つつ、僕は言う。
「あなたが魔法を知ったのは間違いだったのかもしれませんね。」
━━━━━━━━━
「お前が魔法を知ったのは間違いだったかもしれないな。」
二つの声が重なり、存在しないはずのもう一つの未来がその男の目に映る。
「ふざ……ふざけるなよ………!ただの下民が俺を殺すだと!そんなことできると思っているのか!」
「もういいさ。」
幻影が、ゆっくりと口を動かす。
「私がもっとお前を導けていたら。私が美しい魔法だけを追い求めていたら。自分の人生の道を一つに絞っていたら。
お前の人生は、もっといいものになったかもしれない。」
そっと、幻影はその男の頭に手を乗せる。
「すまなかった。」
自分が恐れられていた時、人々から避けられていた時。そして、史上最恐の魔法使いによって拾われた時のことを思い出し、その男は涙を流す。
「道を踏み外したのは………俺の方……………?」
男の口から溢れた言葉に、幻影は笑う。
「自分の悪さを見つめられるのは、大きな成長だな。」と。
こんばんは。羽鳥雪です。
本来夕方に投稿するはずだったものが予約投稿のミスで出来ておらず申し訳ありません。
もう1話投稿する方は時間通り20時前後に投稿いたしますのでぜひご覧ください!




