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湯中の戦い

「ここかな……」

僕がドアノブに手をかけると、ビリっと体中に嫌な感覚が流れる。

「イデデデデッデデ!」

な、なに?

ドアノブを見ると、そこには魔法陣が仕掛けられているのがわかる。どうやら、電気の魔法陣らしい。

誰かの嫌がらせ?うーん。

少しそれを見つめ、僕は魔法陣解体(レジスト)を発動させる。

うん、これくらいの魔法陣なら簡単だ。

早く浴場というものを見てみたい!

そう思って、僕は勢いよく扉を開けた。

僕の目に映っているのは、いくつもロッカーがある荷物置き場?みたいなところだった。

まぁ、扉を開けた瞬間にお風呂場がドーンなんてのはまだだろう。

もう一つ扉を越える必要がありそうだ。

その奥にあるガラス扉の向こうが湯気で見えなくなっている。

ということで服を脱ぎ、タオルを腰に回してそのガラス扉をスライドさせる。

いざ!


「え?」

「へ?」

僕の視線の先、映っているのはお風呂じゃなかった。

いや、正確にはお風呂もあるのだが、それ以上にはっきりと見えているのが、今お風呂から出てきたサレナさんだ。

……………ど、どうすればいい?

ルーベルナさんとかセルフィスさんは一緒にお風呂入ったりすることもあるけど、これはまずいんじゃ………?

「きっ━━━━━」

「へ!?」

「━━━━━━━━━っ!?」

間一髪、僕はサレナさんが叫ぶ口を止めることに成功した。

なんでこんなことをしているのかはわからないけど、とにかくやらないといけない気がした。

風魔法で突っ込んだ勢いそのまま、僕たちは倒れ込んでお風呂にドボンしそうになる。


このお風呂、床が石で作られてる……………

頭にしても腰にしても、どこで着地しても痛そうだ。頭に関しては最悪死んじゃうんじゃ?

脳内時間で数秒、現実時間でおよそ1秒も経たない間に、僕はそんなことを考えた。

このままだとサレナさんが危ない!

咄嗟に小さな風魔法の魔法陣を組み立て、魔法を発動させる。

それによってサレナさんは少しだけ浮き上がり、地面との衝突を回避、軟着陸する。

あ、危ない危ない。

ほっと胸を撫で下ろすと、僕は顔になにやら柔らかい感触がすることに気づく。

「あ、あの…………」

目を開いてよく見ると、とんでもない状況になっている。

立っていた人に突撃し、そのまま2人で倒れたのだから当然かもしれないが、視線を少し上げると真っ赤な顔で目を逸らしているサレナさんの姿。

「ご、ごめんなしゃい!」

声がひっくり返ったがとにかく謝って距離をとり、僕は自分の手で目を隠す。

初めて家族以外の裸を見た上にその人の胸の中に埋まっていたなんていう事実をよそに、なんと言えばいいのかただ混乱し続ける。

言い訳のようにこの浴場に入ってきた経緯を述べ、そして謝る。

その繰り返しをしているうちに、

「も、もう大丈夫だから。」と言われる。

あれ?声が後ろから聞こえたような………

しかし目を開くわけにもいかないため、僕はどうすればいいのかわからなくなる。

「目も、開けていいですよ………」

そう言われて恐る恐る目を開くと、やはり前にはサレナさんの姿はない。

ゆっくり振り返ると、タオルで身体を隠している姿が目に映る。

記憶を思い出すと、身体を洗うところに一枚タオルが置いてあったような………

サレナさんの身体を見ているわけにはいかないため、目のやり場に困っていると、ガチャン!と音が響く。

「サレナー?

魔法が消えてるってことは今日は早めに入ったのかしら?」


………その声の主は、確実にクレムさんだ。

それを理解してか、サレナさんもあたふたと周りを見回している。

僕たちが思案している間、刻一刻と時は過ぎていく。

鼻歌が聞こえてきて、ついにガラスの向こうに人影が映る。

お風呂に入れてもらっていたなんて言い訳が通じるのは3歳とか4歳までだろう。

隠れるところを探すも、見つからない。

どうする?どうする?

これしかない………!

もう完全に諦めて覚悟を決めているサレナさんの方に近づいて魔法を使い、風魔法で湯気で強引に姿を隠す方法を取る。

瞬間的に炎と水をぶつけ、水蒸気を発生。

今まで浴場にあった湯気と水蒸気を操り、身を包み込む。

「うわっ!煙たっ!」

浴場に足を踏み入れたクレムさんの第一声を聞きながら、僕たちは息を潜める。

だが、大丈夫だ。

常に水蒸気を補給させ続けていることで煙がすごいことになっているが、関係ない。

そう、関係ないのだ。この場を逃げきれれば全てよし!

このまま浴場内を煙で埋め、その間に脱出する!

場内の8割が水蒸気で満たされ、僕はサレナさんにここから出ましょうと耳打ちする。

その時だった。

「さーて!今日もやりますか!」とクレムさんの声が響く。

ん?なにをするって?

目を凝らすと、クレムさんの上に大きめの魔法陣が浮かび上がる。

み、水魔法?

え………その大きさはまずい!

僕が考える通りだと、そこから放たれた水によって空気の流れが強引に変えられる。

風を強めたら水が吹き飛ばされるから違和感しかない。

いや、魔法陣解体によってあの魔法を消してしまえば………いやいやそんなことしたら秒速でアウトだ。

ど、どうすr━━━━━━

「せぇーのっ!」

考える間もなく、クレムさんは水魔法をぶっ放す。

雑に放たれた水の力に勝てるわけもなく、僕たちを覆っていた水蒸気は水の流れとともにどこへやら。

「はぁ〜すっきりしたぁ」

髪をかき上げて、一息ついたクレムさんが振り返り、目が合う。

「へ?」

「あ、はははは……………」

「きゃ━━━━━んぐぅ!?」

うん、仕方ない。仕方ないんだよ。

ということで、先ほどと同じようなことをもう一度繰り返したのだった。




「それで、あんたたちは2人でなにをしていたの?俗に言う不純異性交遊ってやつ?オッケー速攻で訴えておくわ。」

「ち、違うって!」

隣で、サレナさんがそれを否定する。

そのなんたら交遊というのはなんだろうか、なんて考えている場合じゃないか。

「まず、先にここにいたのはどっち?」

その言葉に、サレナさんが控えめに手を挙げる。

「わかった。じゃあ、メルぺディアが侵入してサレナにあんなことやこんなことをしていたと。」

「し、してないです!まずあんなことやこんなことってなんですか!」

「とにかく、メルぺディアが変態でスケベでえっちってことはわかった。」

な、なんて?ヘンタイ?スケベ?エッチ?

知らない単語の羅列に、僕は困惑する。しかしそんなことを考えている時間もなく、100パーセントの疑いの目を向けてくるクレムさんに僕は悩む。どうすれば信じてくれるのか。

それだけを考えていると、

「まぁ、特に怪しいこともなさそうだしいいわ。」とクレムさんが言う。

「え?いいんですか?」

考える前に口から出たその言葉に、彼女は頷く。

「サレナが問題ないって言うならそれでいいわ。

でも、ちゃんと言われたことは守らなきゃダメよ?」

「い、言われたことって………?」

聞き返した僕にクレムさんは呆れたような顔で首を傾げる。

「もしかして…………聞いてない?」




同時刻━━━━━モイトンの部屋にて。

「あ、メルぺディアくんに浴場の使い方を説明し忘れてました………

1階は魔法学科の生徒しか使わず、扉に魔法がかけられている時は誰かが使っている証だと言ってないですね………

まぁ、魔法を解除して入るとか扉を吹き飛ばすなんていうことはしないでしょうし、問題ないですね。

とにかく、明日に備えて今日は寝ましょう。」

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