銀髪の少女
「それじゃあ、とりあえず後の1時間は魔法陣の組み立て方です。
どの属性でもいいため、作り出してみてください。」
先生に言われ、各々が魔法陣を組み上げていく。
この時代の魔法は、僕が知っているものとほぼ同じようだ。
セルジュさんは炎、クレムさんは水。さっき話しかけてきた紺色の髪の人は土の魔法陣を組み上げている。
しかし、最も完成度が高いのはその誰でもなく、銀色の髪に琥珀色の瞳の女の人だ。
全員が一属性の魔法を作っている中で、1人だけ氷と風の二属性を一つの魔法に組み込んでいる。
この教室で使うわけはないだろうから威力はだいぶ抑えめのようだが、それでもすごく精密な魔法陣だ。
それを眺めていると、その銀髪の人は視線に気づいてこちらを見る。
ドキッとした僕は慌てて目を逸らし、魔法陣を作っていく。
こういう時、自分が出せる精一杯でやるのがいいのか、それともみんなのレベルに合わせればいいのかわからない。
あ、でも━━━━━
リュシアさんと出会ってすぐの時、魔法を見せてほしいと頼んだら
『魔法は魔法を扱う者に見せびらかすものではない。
いくら自分が強いからといって見せびらかすようなことは私は嫌いだ。』とか言っていたっけ………
じゃあ、僕は一属性で魔法を作ろうかな。
できた━━━━━
周りを見ると、銀髪の人を除いた全員が目を丸くしてこちらを見ている。
「サレナでもこんなに大きな魔法陣は作れないのに……」とクレムさんが言葉を漏らす。
「あの、サレナさんって言う人は?」
そう聞いた僕に、あの銀髪の人を指してクレムさんがあの人がサレナだと教えてくれる。
一言も発さないその人を見て、僕は急に気づく。
サレナさんが作っている魔法陣、確かにそれはさほど大きくない。
しかし、その緻密さは僕と同じくらいだ。
大きい魔法陣はその分だけ魔力が必要になったり広範囲に広がったりすることが多いが、彼女の魔法陣は違う。
ただただ緻密に、丁寧に作られている。
言い換えるなら、僕の魔法陣は水たまりそのもの。サレナさんの魔法陣は水たまりと同じだけの水量を持ちながら、それをもっと小さく指先に乗せる程度に圧縮している感じ。
普通では起こり得ないことであっても、魔法を用いれば1リットルまで入る容器の中に2リットル分の水を入れることもできる。
しかし、そんな技術は簡単なものじゃない。
ルーベルナさんが昔言っていたように、魔法というものにはイメージというものが大きく関係してくる。
つまり、あの魔法陣を作るためには、1リットルの容器の中に2リットルの水を入れるイメージをする必要があるということであり、さらサレナさんは氷と風の二属性で魔法陣を作っていながら、炎や風単体の魔法陣よりも小さいものを作っている。
本来なら倍になるものを倍にせず、かつさらに小さくしているこの状況。
みんなは大きい魔法陣の方がすごいと思っているみたいだが、必要な技術的には差が大きすぎる。
ただ、僕だって負けてられない。
水を加えて二属性魔法に魔法を変え、炎と水の両方の魔法陣を小さくして合計値を減らすようにする。
それによって、魔法陣の大きさはサレナさんと同じくらいになる。
すると、サレナさんは横目で見ていたのか、さらに魔法陣を小さくしていく。
「えぇ!?そんな小さくできる!?」
思わず、心の声が爆発する。
「ど、どうした?」
口から飛び出した大声に、先ほどまで敵対心マックスだったセルジュさんも驚き、心配してくれる。
「ご、ごめんなさい。」
慌てて頭を下げると、小さい笑いが聞こえてくる。
声の方を見ると、サレナさんが立ち上がり、彼女は僕の席の前まで来て、
「私の名前はサレナ。よろしく。」とだけ言って再び席に戻る。
「あ、あのサレナが出会って1日も経たない相手に挨拶するなんて………」
横から聞こえてくるクレムさんの声を聞きながら、僕は新たな時代での新生活の幕開けを感じるのだった。
「えっと………本当にいいんですか?」
「はい、もちろん。」
1日目の授業が終わった後、僕はモイトン先生に連れられ、とある建物に来ていた。
どうやら、この学校には先生が住むための寮というものがあり、そこの1階と2階は遠方から来た生徒用に準備されているのだとか。
場所は学校に隣接されているためそこまで遠いわけじゃないし、計5階まであるらしいので、3階から5階は先生たちが使うらしい。
生徒からしても先生たちからしてもちょうどいい場所だ。
「ここがメルぺディアくんの部屋です。校長が完璧に準備をしておいてくださったらしいので、今日から住むことができます。」
扉が開かれた先に、僕は目を見張る。
いつしか泊まった宿のように綺麗な部屋、ほのかに香る花の匂い。
こぢんまりとした一室だけど、すごく整えられている。
まるで、ルーベルナさんが掃除をした後みたいだ。
「喜んでもらえたかな?」
声が聞こえ、後ろからフロウさんが現れる。
「こんな綺麗なお部屋を借りてもいいんですか?」と聞くと、
「別に君だから特別というわけでもない。はるばるこの学校に来てくれる生徒もいるものでね。しかも我が校は国立だ。
まぁ、寮に関してはこっちが勝手にやっていることではあるが………そこまでお金の心配はいらんさ。」なんて返事が返ってくる。
国立ということは、国が運営しているということになるが、その母体の”国“とはどれくらいの大きさなのだろうか。
それを聞く前に、
「1日目で疲れただろう。明日からもあるのだから早く寝た方がいい。」と言われ、僕は頷いて部屋の中に入る。
入り口の小さな下駄箱に靴を入れ、明日の朝は8時半に教室に来てくださいと言われてお辞儀をし、扉を閉める。
あれ?お風呂どうしよう。
そう思った途端、トントンとノックが聞こえて僕は再び扉を開ける。
「言い忘れていましたが、お風呂はこの廊下の突き当たりにあります。小さいですが、浴場になっていますので10数人くらいは同時に入れるかと。実際はそんな大人数で使うことはありませんけどね。」
そうモイトン先生に教えてもらい、僕は浴場に行ってみることにした。




