決戦:最恐VS星葬主
「わざわざ私の前に現れる魔法使い………本当に久しぶり、と言った感じだな。」
たった1人、僕は森の中に足を踏み入れていた。
「この辺りを拠点に生活しているんですか?」
「まぁ、そうだな。それで、ここに来た理由は?」
「頼まれごとをしたんです。あなたを殺してほしいと。」
「そうか、なかなかな物好きもいるものだ。」
呟きながら、彼女は魔法陣を描く。
僕も、魔法陣を描いていく。
セルフィスさんから分けてもらった魔力があるため、魔力は全回復している。
「それじゃあ、始めるとするか。」
音もなく黒の壁が生まれ、森の端から端までを覆う。
次の瞬間、空気が裂けた。
一瞬前まで対峙していたはずの二人の姿が、音よりも速くその場から消える。
残滓のように空間を歪める閃光と音だけが、そこにあった事実を刻み付けていく。
史上最恐の魔法使いと、穹燈の星葬主。二人の魔法使いが、互いの魔法をぶつけ合う。夜空のような暗黒が渦巻き、星屑のような閃光が弾ける。その交錯は、人間の目では到底認識できない速度にまで達している。空間が悲鳴を上げ、虚空に縦横無尽に走る裂け目。
闇に覆われている中で、さらなる黒が姿を現す。
穹燈の星葬主が作り出した新たなる炎系魔法、黒淵殲滅奏宴によって漆黒の炎が巻き上がる。
だが、相手もまた化け物だった。深淵重力禍殃殿。その身を中心に重力が渦巻き、空間ごと叩き落とす。
黒の壁に、亀裂が入る。
「さすがですね━━━━」次の瞬間、数百メートル先に転移していた穹燈の星葬主は、それを追った史上最恐の魔法使いに頭上から重力を浴びせられる。大地が抉れ、衝撃波が森を薙ぎ払った。
しかし、そこにいたのは幻影。本体はすでに背後から迫っていた。
星羅の光が無数の矢と化し、敵を包囲する。
「究極神弦天蓋蒼穹・烈!」星の如く光り輝く矢が一斉に撃ち放たれた。暗黒に閉ざされた世界が明るくなり、星雨の奔流が敵を飲み込む。
だが、黒の魔法陣が展開される。「深淵は、すべてを墜とす。」途端、無数の星光は軌道を歪められ、引き裂かれ、重力の淵へと呑み込まれていく。
風も炎も1発で灰燼に帰す光の矢を飲み込んで、重力はそれでもなお勢いを止めない。しかし、光輝くその矢が爆ぜ、重力の渦の中に風穴を開ける。
爆音を超えた、世界を切り裂くかのような轟音。天地が逆転するような衝撃。空と大地が混じり合い、目に映る景色すら理解できぬほどの速度と魔力がぶつかり合う。
閃光が、漆黒が、森を切り裂いた。大地に穿たれた深い裂け目から、蒼白の光が奔流のように噴き上がり、樹々を一瞬で灰に変える。その直後、黒い重力の奔流が押し寄せ、倒木も岩盤も空へと吸い上げられ、粉砕されていく。
視界が揺らぐ。次に姿を捉えたとき、穹燈の星葬主はわずかに残っている木々の間を縫うように疾走していた。残光が尾を引き、幾百もの流星が暗黒の宙を輝かせる。
枝を蹴り、幹を踏み、空を裂くように飛び回る。残像が森の四方八方に散り、まるで無数の分身が戦場を駆け巡っているかのようだった。
━━━━だが。
「無駄だ。」低い声が、平面になりつつある森に響く。
周囲に展開された黒い魔法陣が、一瞬で数千メートルの重力を変質させた。空気そのものが沈み、木々の枝が軋み、暗黒の世界に囚われていた鳥たちが翼を広げる間もなく地面に叩きつけられる。
「重力で……この森ごと押し潰す気ですか………!?」
体に未だかつてない重圧を感じながらも、穹燈の星葬主は怯まない。わかっているのだ。一瞬でも気を抜いたら死ぬということを。光の粒子を散布し、森全体に星々の如く網を張り巡らせる。絡みつくように配置された光の糸が、その重力場を撹乱し、針の穴に紐を通すかの如く繊細に、重力を崩していく。
崩れ落ちる木々すら幻燈のごとく煌めいていく。
散っていく木の葉一枚一枚が光を帯び、流星の欠片となって飛翔する。
「鬱陶しいほどの光………」
森全体が光の雨に包まれる。木が矢となり、葉が矢となり、枝葉が輝く刃となって敵へと殺到した。まるで星の雨が森を通って流れ落ちてくるかのようだった。
「……………星の森、か。」その魔法使いは不敵に笑うと、宙に舞い上がった。足元から黒い渦が広がり、倒木も、光矢も、すべてを呑み込み始める。
森全体が沈んでいく。夜空に吸い上げられるかのように、光と闇がねじれる。
戦場は、もはや森ではなく暗黒に浮かぶ星海にも似た何処かになっていた。
二人は虚空を駆け抜け、空を蹴り、闇と光を斬り裂きながら、なお速度を増す。目に映るのは閃光と闇の渦。━━━人間には到底追いつけない神々の舞踏の如く、世界にその軌跡が刻まれていく。
「はぁっ、はぁっ!」
距離をとって、僕は息を整える。
今まで見たことがない魔法が、いくつも放たれてくる。
その存在は、重力。この人が使っていたのは星の魔法じゃないというのだろうか。
「私の動きを読んでいる………?いや、大まかな動きを読んだ上でその場その場で対応しているということか。」
小さな声で呟き、史上最恐の魔法使い………リュシアさんはこちらを見る。
「あなたは、なんで重力の魔法を使っているんですか?」
蒼い瞳に問いかけると、彼女は合点がいったような顔をする。
「なるほど、君はどこか違う世界から来たということ、か。
そして私のことをよく見てきたと………
その疑問の真意は、なぜ私は星彗魔法を使わないのかということのようだ。」
違うか?と言いたげなその顔に、僕は頷きを返す。
「理由は単純。
私は星に辿り着くのではなく、星を堕とすことを考えるようになった。それだけだ。」
当たり前のように言った彼女に、
「美しい魔法はもういいんですか!」と思わず声を荒げる。
「美しい魔法は、幻想でしかない。
この世における魔法は、何かを壊すものばかりだ。
私の重力も、君の炎も。破壊を生んでも救済は生まない。
現に私たちの魔法で一つの森は姿を消した。」
そう言って、リュシアさんは少しずつ浮き上がっていく。
それを追って、僕も宙に浮く。
「もう、終わりにしよう。」
魔法陣が、描かれる。見たことのない魔法陣だ。
ここで負けたら、僕は死ぬのだとはっきりわかる。
それでも、僕は打ち勝たなくてはならない。
今できることは、勝利することのみ。
「次こそは、あなたにこの魔法の評価をしてほしい。」
詠唱を始め、作り上げられていく魔法陣に魔力を込めていく。
文字通り、全魔力を込めた1撃。
『大丈夫だ。』
はい………わかってます!
僕が負けることも、あなたの命が永遠になくなることも、どちらもないんですよね………!
だとしたら、今この一瞬に未来と過去の全てを預けて、僕はあなたに打ち勝ちたい!
「天穹星羅幻燈葬!」「虚空星骸黎明譜」
二つの魔法が、ぶつかり合う。
どこまでも明るい星と、どこまでも暗い闇。
刹那の狭間で、それらは交差し続けていく。
その光は世を覆うほどの輝きとなり、ついに破裂し世界に亀裂を入れる。
まばゆい光の中で、心の中に声が響く。
「君の魔法は、やはり美しいな。
メルぺディア。」
ハッと目を開くと、そこには消えていくリュシアさんの姿が見える。
「私の言ったこと、忘れるなよ?」
突き出された拳に、僕も応える。
今この戦いの間、僕はリュシアさんのことを考えず、ただ強敵と戦っているだけだと言い聞かせていた。
リュシアさんのことを考えると、きっと迷いが生まれるとわかっていたから。
たった1人でここに来たのも、全て自分で責任を負うため。
自分の魔法で、リュシアさんの命を奪った。だからこそ、僕はやらなくてはならない。
1万年の旅を終え、リュシアさんが持っていた呪いを解き明かし、僕の呪いも解いて再び出逢う。
あの、星の降る夜の下で。
戦いの後、昼にも関わらず空には一つの星が灯っていた。
こんにちはこんばんは羽鳥雪です。
今回の話で、リュシア編が完結となります。
カクヨムの方に投稿が追いついたため、1日2話投稿に統一し、朝8時前と夜の8時ほどに投稿するよう心がけていきます。朝の方で投稿がなかった場合は夕方又は夜に2話投稿しますので、ぜひよろしければブックマーク等していただき、楽しみにお待ちください!
今後ともよろしくお願いいたします!




