最恐と魔物
「なぁ、お前はあいつらと一緒で楽しいか?」
問いかけた私に、ロックは楽しげに「キャウン!」と応える。
「それは何よりだ!」
青々とした草原を、ロックの上に乗って風のように進んでいく。
たまには3人の時間も取ってやろうということで、私はちょうど走りたそうだったロックと共に外に来ていた。
この魔物は、当初メルぺディアたちを襲ってきたらしい。
その理由は分かりきっていて、少し前に私が消し飛ばした魔族のせいだ。
そいつは魔種という物質を作り出し、それを食べた魔物や動物を凶暴にするという力を持つ。面倒なのが、魔族本体を殺しても魔種が消えたり効力がなくなったりしないということだ。
魔種を飲み込んだ魔物のは世界中にいて、それをなんらかの理由でロックは吐き出したということだろう。
それに加え、メルペディアが歩んできた時代の中で魔族や魔物との戦いがなかったということは、それまでの歴史で何かが起きたのだろう。
まぁ、なんにせよ魔族がいなくなったのなら喜ぶべきことだ。
ちょっとした喜びを頭の隅に置き、ロックの上で左手を広げ、少し透けているのを認識する。
………やっぱり、治らないか。
つまり、こうなった理由はおそらく………
そう思った途端、ロックが急ブレーキをかけ私は振り落とされる。
「いたたたたた………どうした?」
強く打ちつけた腰をさすりながら、私は顔を上げる。
この近くから魔法の力を感じたとかはない。
だとしたら、何か天敵になる動物か?
そんなことを考えて周りを見回しても、何も見当たらない。
そして、ロックは私のことをまっすぐに見つめている。
「どうかしたか?」
問いかけても何も答えず、ただ距離を詰めてくると小さくなった。
…………………
何がしたいのかと疑問に思いつつ、私は再度周囲を見渡す。
違う………ロックから強い魔力も感じない。
何が起きている?
魔法で鏡を作り出し、その中から家の方を覗いてみる。
その先には笑い合っている3人の姿。
こっちも問題なさそうだが………
その時、私は足に妙な違和感を覚える。
そこを見ると、いつの間にか履いていた靴と靴下が脱がされている。
「へ?」
意味がわからない展開に、私の口からは素っ頓狂な声が出る。
なんだ?考えろ。考えろ。思考を巡らせろ。
ロックは何か危険を訴えている?誰が?どこで?なんの?どんな?
高速で回っていく思考は、今まで感じなかった感覚でかき消される。
「ひゃあっ!?」
身体中に走る、電気のような痺れる感覚。
「ちょ、何をしてるんだ!」
その発信源である足元を見ると、ロックが私の足の裏を舐めている。
本気で何が何だかわからなくなってきた。
だが、決定的にわかることがある。
とにかく、めちゃくちゃくすぐったい。
「ちょ、やめっ、ははっ!ま、まって!」
弟子の家族を蹴り飛ばしたら確実に人間失格だと思い、私は動けない。
それ以上に、私の口から出ている甘い声に、私自身動揺が隠せないのもあるだろう。
「お、おい!ちょ、それはっ……流石にっ!」
スカートの中まで顔を突っ込んできたその魔物に、私は声を荒げる。
ただの変態かこいつは!
脚に毛が擦れて、身体が震える。
人から恐れられ、周りに人が寄り付いてすらこない私が感じている、初めての感覚。
くすぐったさと恥ずかしさでどんどん体温が上がり、声も上ずっていく。
「あぁっ!ほんとにっ………力が抜けて………!」
荒い息で小刻みに身体を震わせる私をよそに、その魔物は私の身体に触れ続ける。
いっそのこと殺して…………いや、それは流石に……………
でも………こんなのありか?
家に帰ったらメルペディアに躾をするように訴えてやる………!
なんとか歯を食いしばって声を出さないようにしようとするも、私の口からは止まることなく甘い声が漏れ出る。
そんなことに意識を割いていると、ビリッ!と音が出て、スカートが破れる。
「や、やめっ!こんなところ見られたら人生が終わる!」
私が叫んでいる間にも、こいつはスカートの中から出て首や耳まで舐めてくる。
無理やり振り解こうとすると、服に爪が当たって服まで破れていく。
鉄の檻を噛んでいたという話を聞いた時は笑ったが、これは笑ってられん!
「まて!わかった!なんでもする!何か欲しいものがあったらあげるから!もう止まってくれ!」
ビリビリになっていく服に焦りを隠せなくなり、ロックを強引に離そうとするも一切離れてはくれない。意味がわからないほどの力だ。
魔種の力の一部が同調しているからか…………いや、そんなこと冷静に考えてる場合か!?
こんな辺境の地で人が通りかかることはないが、1番これを見られたらやばいのは━━━━━━
「な、何してるんですか?」
その声を聞いて、私の体は硬直する。
固まった顔を上げると、そこには変質者を見るかのようなメルペディアと、少し距離をとってこちらをみている2人の神の姿。
お、終わった。
草原で、裸足で、スカートも服も破れて、魔物の唾液と自分の汗でところどころ濡れた、乱れに乱れた師匠の姿を見られた。
あぁ、終わった。こんなのが師匠だと言われたら私も幻滅する。
そもそも、どこの世界に下着が見えるほど服が破れて草原で叫び続ける史上最恐の魔法使いがいると言うのだ。
……………ここにいた。
━━━━━いや、いやいや、いやいやいや!
これは私は何も悪くない!
言い訳しか出てこないが、まずロックに襲われたというのは正当な弁解になる。
だからこそ、私はすぐに言い返す。
「ご、誤解だメルペディア!私は何もよからぬことなんてしていない!
そこにいるロックがだな………」
そう言って今までロックがいた場所に目をやると、そこにそいつの姿はない。
現在進行形で、メルペディアに飛びついて抱き上げられている。
お、お前ぇ!逃げるなぁッ!
だが、どれだけ逃げられようと私の言い分は変わらない。
弁解を続けようとした時、メルペディアが口を開く。
「なるほど………リュシアさんが何か思い悩んでいたから助けようとしたんだ。
偉いねぇ。」
そう言って、ロックの頭を撫でる。
ロックはロックで満更でもなさそうに可愛い声を上げる。
………………な、なんだ。
私を襲おうとしたんじゃなく、私が落ち込んでいると思って……………
蹴り飛ばさなくてよかったと心底思いつつ、私は気づく。
いや、普通落ち込んでいたらくすぐるとか考えるか?
それこそ頭を撫でるとか、そういうことをするものじゃないのか?
わざわざ弱いところを刺激するなんt━━━━━
もしや……………
「おい、後ろの神たち?」
顔を真っ赤にして視線を逸らしているやつと、わざとらしく口笛を吹いて空を見上げているやつに向けて声をかける。
そいつらは少しずつ後退していく。
「お前たちが原因か……………!1発くらっとくか!?」
声を荒げて立ち上がると、ロックが元気に吠える。
その顔は笑顔に満ちていて、私が立ち直ったのを喜んでいるようだった。
「ロックも喜んでるみたいですよ。リュシアさんが元気になったって。」
わざわざ説明を挟んでくれるメルペディアを見て、私は息を整える。
「とりあえず、後ろの2人は後でお仕置きとして、なんでここにきたんだ?」
そういえばと思ったことを聞くと、
「せっかくだから外で食べようと思って、お弁当を作ってきたんです。」とメルぺディアが袋を出す。
……………はぁ〜〜〜
大きなため息をついて、私はまぁいいかと思い直る。
「そうだな、昼食にしよう。」
笑顔を浮かべてその袋を受け取った時、
「それにしても、リュシアさんもあんなに大きな………なんていうか………
あんな声出すんですね。」と言ったメルぺディアにチョップをかまし、後ろで笑っている2人にもドロップキックをお見舞いすることになった。




