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小手調べ

「行きます……!」

魔力量は十分。

僕は中級魔法の魔法陣を描き、攻撃を開始する。

流水矢(アクアリッジ)!」

音速を追い抜く程の速度で放たれた矢を、リュシアさんは最も簡単に薙落としてくる。

今の一瞬、風が揺らいだのが見えた。しかも、たった数センチあるかないかくらいの薄い風。

その風が、音速の水を打ち落としたのだ。しかも、リュシアさんは動いてすらいないし魔法陣を描いてもいない。

相手の魔法をよく見て、少しでもアドバンテージを作る。そんなことを考えてはいたが、魔法陣すら見えないのでは話にならない。

ならば、もっと威力を上げて魔法を放つのみ!

「中級魔法、火焔(インフェルノ・)(スティル)天地牙突(テラ・エッジ)!」

深淵(テネブリス・)潮流(アビシオン)。」

僕が放った二つの魔法は、またも一瞬にして掻き消される。

今のは水にも見えたが、僕の使う水魔法とは圧倒的なまでに密度が違う。

しかし、今の魔法には魔法陣があった。

今くらいの威力の魔法は流石に魔法陣を描かないと防げないということだろうか。

「なかなかいい技だ、少年。

年齢的に実戦経験が豊富なようには思えないが、こちらの魔法を見て弱点を探ろうとするその姿勢も素晴らしい。」

余裕の笑みを浮かべながら、その人は手をこちらに向ける。描かれていた魔法陣が少し回り、次の瞬間には僕の周りを水が囲みこんでいる。

見上げるほど大きな水の壁に、僕は最善の一手を考えて放つ。

「上級魔法、超殲(ラグナロク・)爆烈破(オブリタレイション)!」

爆音が響き、今まであったはずの建物が吹き飛ぶ。

周りの景色が、石一色から森の中へと変わる。

「確かに、周りを囲まれたら広範囲を吹き飛ばすというのは正解だ。

だが、対人戦であればフィールドを利用した戦いも大切だぞ?」

彼女が指差した先、いつの間にか、天には巨大な光。

それは、一直線に落ちてくる。

彗光(アストラル・)断章(ディンセント)

これは……どう見ても上級魔法と同格の威力………!いや、なんなら超級魔法レベル…………?

それを無詠唱で扱えるということは、魔法術式の技術は僕のお父さんと同等レベルの可能性すらある。

目の前に立つ人の力の一部を思い知らされつつ、僕は手を宙に翳して魔法陣を描く。

「荒れ狂う世界の怒りよ、万物を飲み込み力の鱗片を示せ!虹燐(オールレイン・)世龍(ドラノコア)!」

虹色の龍が浮かび上がり、落ちてくる光を正面から打ち砕いていく。

「なるほど。

多種多様な属性を詰め込むだけという簡単な魔法に見えて、それぞれがそれぞれの力を邪魔しないように最大限の配慮がされていると。いい魔法だ。」

なんとか魔法を相殺し、僕はリュシアさんに向き直る。

「メルぺディアと言ったか。いつまでこの世界にいるつもりだ?」

特に顔色を変えることもなく、彼女は聞いてくる。

「僕がこの世界の人間じゃないとわかるんですか………?」

「お前がここにくる瞬間、世界の流れが変化した。いや、世界に亀裂が入った感覚がしたと言った方がいいか。

それは、私がいつしか感じた時間系魔法と同じものだったからな。

元々この世界の住人にしても、やっと帰ってきたという嬉しさもなさそうだ。」

冷静な分析を聞き、改めてこの人の凄さを実感した上で質問に答える。

「その通りです。

この世界にいるのは1年くらいになると思います。」

ただ、ここにいればもっと早く魔力が回復しそうだ。

「そうか。なら、ここに住まわせてやるから1年間私の弟子になれ。」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

その声と共に視界の横から飛んできたのは、セルフィスさんだった。

「なんだ?特におかしなことを言ったつもりはないが。

私にその子が襲われる心配も無用だぞ?そんな趣味はない。」

「そんなこと聞いてないわよ!大体……その……わ、私はメルペディアがそんなことされたって………」

「あなたはなんの話をしているんですか………」

ロックを抱えていつの間にか近くに来ていたルーベルナさんが呆れ顔で僕の左に立つ。

「私たちも彼を支える責任があります。そして、今は彼の親代わりを務めている身でもあり、預かっている以上そこにも責任があるんです。

図々しいかもしれませんが、彼がここで過ごしたいと言うのなら、私たちもご一緒させていただけませんか?」

「ん、いいぞ。部屋を増築しておこう。」

「………ゑ?いいの?」

素っ頓狂な声を上げたセルフィスさんに、リュシアさんは特に考える様子もなく頷く。

「こちらが弟子にならないかと声をかけたのだからそれくらい当然だろう。

長らく対人関係を持ったこともなかったしな。たまには話をするのも大切なことだ。」

そう言いながらリュシアさんが魔法を発動させると、扉が現れる。

「ここから入れば私の家に行ける。そうと決まれば早速行くぞ………と言いたいところだが、まだ肝心な答えが聞けていない。」

扉の方に体を向けていたリュシアさんが、こちらを振り返って口を開く。

「お前は私の弟子になるということでいいか?」

その質問に、僕は迷うことなく「はい」と答える。

リュシアさんの魔法があれほど強大な理由、彼女が持つ魔法の技術、そしてもしかすると、呪いの解き方に何かアイデアを得られるかもしれない。

満足そうに視線を戻したリュシアさんについて、僕たちはその扉の先へと歩いて行ったのだった。

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