史上最恐の魔法使い
「なんというか……あっという間でしたね。」
「そうですね。」
ルーベルナさんは当たり前のように答えるが、僕にとってこの一年はとんでもない早さだった。
呪いについて毎日考え、それを無くすことができる可能性を持つものが、律界魔法ではないかという考えにも至った。
毎日魔法の訓練を行い、2人から神術の内容を教えてもらい、天界についても教えてもらった。
ただ、本来いるべき時間と違うということで、セルフィスさんもルーベルナさんも天界に入れてもらえなかったらしい。
「さっさと準備しましょ。
街がなかったらまた家も建て直しなんだから。」
世界そのものを過去に戻す魔法であるため、人工的な建造物は元の木などに戻ってしまう。
自分以外の人を対象にして時戻しの影響を受けなくすることはできるが、対象の建造物の時間を戻らなくするのはもう少し時間がかかりそうだ。
「あとこの子も連れていく?行くよね?」
軽い圧を僕にかけながら、セルフィスさんはそれ………ロックと名付けられた魔物を抱き上げる。
今じゃセルフィスさんの良きパートナーといった感じだが、僕やルーベルナさんとも問題なく一緒にいられる。
ただ、空腹になるのが異常に早いという特徴があり、そうなると暴走するというのが難点だ。
だからと言って半年も一緒に過ごした仲間をここに置いていくなんてできない。
「もちろん大丈夫です。一緒に連れて行きますよ。」
満足げな表情を浮かべるセルフィスさんと、彼女に抱かれるロックをみてから、僕は魔法を発動させる。
時が、ゆっくりと戻り始めていく。
100、200、300、400年前に入った時に、違和感に気づく。
少しずつだが、魔力が回復していく。
そして500年を遡って魔法を止めたところでその感覚は最大となり、僕はその源を探知し始める。
「魔力の流れが異様ね。」
「えぇ、今メルぺディアくんが出所を探してくれています。」
そして、魔力の出所を突き止めた僕は2人と共に歩いていく。
わずか数分歩いた先に、石でできた小さな建物のようなものを見つける。
「これは……祠ですね。」
興味深そうにそれを見ながら、ルーベルナさんが言う。
「すごい汚れてませんか?」
慎重になりつつも上についた苔を取ろうと触れると、祠が光り輝く。
あまりの眩しさに目を瞑り、再び目を開いた時、僕は森の中から石造りのよくわからない場所に飛ばされていた。
石の柱が天井を支え、木や蔦が絡まっている、神秘的な感じを醸し出している広い空間だ。
「ほう、こんなところに人が来るなんて珍しいこともあるものだ。」
その声が聞こえると同時に、
「大丈夫ですか!?」と声が重なる。
振り返るとルーベルナさんとセルフィスさんの姿があり、右の奥の方から1人の女性が姿を見せていた。
「久方ぶりの客人だ。
挨拶からさせていただこう。」
一本の杖を出し、続ける。
「リュシア・エルフェルデ。
『史上最恐の魔法使い』と言われたりすることもあるが………どうぞよろしく。」
その綺麗な銀髪の女性は僕たちを見て言う。
深い蒼の瞳を輝かせ、リュシアと名乗ったその人は不敵な笑みを浮かべるのだった。
「それで、君たちはどうしてここに?
1人の人間と2人の神、それに一体の魔物なんて見ない組み合わせだが。」
黒と紺色を基調としたローブに、裾には銀糸と金糸で星座のようなものが描かれている服を着ているその人の姿を見ていると、
「なんだ?私の服に何かついているか?」
今の一瞬。厳密に言えば目を離してすらいなかったのに、移動する動きを見ることもできずにリュシアさんは僕の顔を覗き込んでいた。
「え!?い、いやなんでもありません!」
驚いて何歩か退がった僕に、その人は続ける。
「そういう反応する時は、基本的に何かある時だろう?」
「いやその……綺麗な服だなって思って………」
隠す理由もないかと気づいて、思ったままのことを言う。
「ははっ。この服は手織りでね。なかなか嬉しいことを言ってくれるじゃないか。」
少しだけ口角を上げて、その人は返してくる。
「それはそれとして、先ほどの答えを聞こうか。なぜここにきた?」
「たまたま近くを通りかかった時に強い魔力が溢れ出ている場所を見つけ、祠を見つけたんです。
汚れを取ろうとしたところ、ここに飛ばされてしまったというのが事の経緯です。」
横から一歩進み出たルーベルナさんの話を聞き、リュシアさんは理解したように頷いた。
「なるほど。それは申し訳ないことをしたな。
この辺りは人の行き来もないから大丈夫だろうと思っていたのだが、まさか迷い込んでくる者がいるとは。」
そう言った上で、
「しかしこれは中々興味深い。
少年よ、私と一戦交えてみないか?」
その言葉が放たれた瞬間、彼女の体から魔力のエネルギーを感じ取る。
どこまでも底が見えないような魔力が、たった今解放された。
ルーベルナさんとセルフィスさんが静かに警戒していたであろう、圧倒的な魔力量。
僕も感じ取ってはいたが、その力はこの場所に溢れている魔力とは比較にならないほど微弱だった。
今の状況になって初めて、この人が『史上最恐の魔法使い』と呼ばれているという言葉の意味を理解させられる。
「一戦交えるって………あなたの実力がどれほどかはわからないけど、メルぺディアが本気で魔法を使ったらこの建物は吹き飛ぶわよ?」
ロックを地面に下ろしながらセルフィスさんが言う。
実際、この空間のせいかどうかはわからないが魔力はほぼ全回復している。ついさっき時空逆流を使ったとは思えないほどだ。
「この建物が吹き飛んだところで被害はない。それに、私が魔法を試しに使っただけで吹き飛ぶこともある。
そのための研究場所でもあるからな。」
淡々と話をする彼女の言葉に、僕は一歩前へ出る。
理由は単純にこの人の魔力量がすごいからだ。
対人戦の経験はほとんどないけど、きっとこの人から学ぶことができることもある。
僕やセルフィスさんよりも多い魔力量に気圧させることなく、
「お願いします。」と声を発す。
「それでは、少年以外は危険の無いところで待っていてくれ。」
パチン、と彼女が指を鳴らすと、ルーベルナさんとセルフィスさん、ロックの姿が消える。
ただ、遠くではあるが魔力を感じるため、本当に安全な場所に飛ばされただけのようだ。
それにしても、この石造りの建物の外はどうなっているのだろうか。
そんなことを思っていると、
「さて、始めようか。」とリュシアさんが開始の合図をする。
そして、史上最恐の魔法使いとの戦いが幕を開けた。




