繋がる時代
1週間後、王城で会った人は単身で現れた。
「ログレン王の代理として、心よりお詫び申し上げます。」
丁寧に頭を下げた彼………ヨークスさんに、街の人たちは不安げな顔をしている。
しかし、ケントさんやネーバスさん、レベルさんの協力もあって、その日の終わりの間にはその不安も薄れていった。
教会の中で、これからは協力していくことやその証として王都をこの街に移すことなどが定められ、街の人たち全員と握手を交わし、次の日の早朝に彼は去っていった。
それからさらに1週間の間に、街は元の姿を取り戻したと言って盛り上がっていた。
それと時を同じくして、僕たち3人はその街を離れることになった。
「こんな生活を送るのも久しぶりですね。」
街から数日歩いたくらいの森の中で、僕たちは小さな家を作っていた。
「まぁ、前は魔法が使えなかったせいで手作業で家建てたからね。
それに比べたらだいぶ楽になったものよ。」
半日もかけずに家が建ったので、僕たちは以前のような生活をできるようになっていた。
ただ、畑を作ったりといった作業はあるため、しばらくは街で買ってきた食料で凌ぐ必要がある。
成長を加速させる魔法をルーベルナさんが知っているため、畑を耕してしまえばそれで終わりだ。
そうして、3人きりのゆったりした時間は過ぎ去っていった。
「じゃあ、ちょっと出かけてくるから。」
あの出来事から約1年、そう言ってセルフィスさんは扉を開けて出て行った。
「僕たちが次の時間に行くのは明日なのに、戻って来れるんですか?」
コーヒーを淹れているルーベルナさんに聞くと、
「夜までには帰ってくると言っていましたよ。」という答えが返ってくる。
砂糖でだいぶ甘くなったコーヒーをもらい、僕が口をつけたところでルーベルナさんが思い出したように口を開く。
「だいぶ前にもらったこの本、覚えていますか?」
机の上に置かれたそれを見て、僕は一瞬悩む。
どこかで見た覚えはあるのだが、一つの答えとして出てこない。
「これは前に、ラルトール神父から頂いた物です。」
その名前で、僕は完全に思い出す。
「別れ際に渡してもらったやつですか!」
「そう、それです。」と言いつつ、ルーベルナさんはそれをこちらに渡してくる。
「これはあの街の歴史を書いてあるみたいな本でしたよね?
あと町を最初に作ったラルトールさんのおじいさんの話みたいな………」
「私もそう聞いていて、確かにそういうことも書いてあるんですけど………
あ、あまり話しすぎるとよくないですね。」
とにかく読んでみてくださいと言われ、僕は本を読み始める。
ただの森だった場所を切り開き、1人で始めた場所に何人もの人々が集まってきてくれたこと。
元いた街で共に暮らしていた人との再会、町が大きくなるにつれて考えの違いで何度も人々と対立したこと、それを乗り越えた先にあったいくつもの幸せそうな顔。
息子が神はいないんだと言って反抗してきたこと。
この人が見てきた町の発展と歴史、人との繋がりを記し、誰々はこういう人でこういういいところがあるなんていう話が積み重なっていく。
そして、最後の1ページに辿り着く。
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『自分の過去から逃げ続け、彷徨いの果てに自分を見つけた。
何年もの人生よりも、その1秒の死にたくないという思いが、強く心に響いていた。
遅すぎた想いに、神はチャンスを与えてくれたのだ。
神を信じることがなくなっていた自分を、救い出してくれた。
確かに、神に祈れば願いが叶うなんていうものはただの妄想かもしれない。
今後、この教会が続いていく限り、神を信じない者が何度も現れるだろう。
この教会の母体が聖英大教会である限り、神は地上に降りてくることはないということを教えていくことになる。
ただ、それはそれでいい。
この世に生きとし生きる全ての命を、神が救ってくれるわけではない。
それでも、神が救ってくれた者が、自分以外の誰かを救えるような、そんな世界を。
人が人を救っていけるような、そんな世界を、私は望む。』
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「本当に、いくのね。」
「あぁ、俺は俺のするべきことをしたい。
あんたに、教えてもらったからな。」
「しっかりやんなさいよ。
でも、たまには休むことも大切なんだからね。」
「今までの人生、十分すぎるほどに休ませてもらった。
こっからは思いっきり進んでいくさ。」
「………………何、泣きそうじゃない。」
「っせぇよ。
……………それじゃあな。」
「……………行ってらっしゃい!」
「…………………行ってきます!」
『いつか、あの人たちがここを訪れた時に、“居心地がいい”と言ってくれるような、そんな場所になることを願っている。
2人の神と、1人の少年が来たら、聞いて欲しい。
この教会はどうか、と。』
「あなたの人生に、神の加護がありますように。」
『そして、伝えて欲しい。
俺は、できる限りのことをした。
命を救ってもらった対価としては小さいかもしれないが、精一杯生きることができた。
別れの瞬間も意地を張って泣けなかった俺の言葉に似合うかはわからないが………
ありがとう。神様。』
その本の、最後の1ページ。
そこには、この本を記した人の思いが、綴られていた。
━━━━━ある時代のとある教会の中、神の隣で1人の神父が手を合わせる。
「先代、あなたの願いは叶いましたよ。」
その声は時を超えることなく、空へと響いて行った。
250年の時を経て、過去と未来がつながっていく。
そして、少年は新たな世界へと一歩を踏み出す。
こんばんは。羽鳥雪です。
今回の話で、第1章が終わりを迎えました。これからも現在と同じくらいのペースで投稿を続けていきますので、引き続き応援の程よろしくお願いします!




