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苦しみに変わる愛

ログレン王たちの死体をどうするかという話で、街は慌ただしくなっていた。

雨と人々の声が混じる中を、僕は1人で歩いていく。

いつまでも甘えていられないとか考えていたくせに、結局僕は甘えていたのだろうか。

確かに、僕は両親に会いたいと思っていたはずなのに、ルーベルナさんとセルフィスさんの方が大切だという思いが抜けきらない。

それはきっと、僕があの2人のことを家族だと思っているから。

いつも笑って、たまに怒られて。そんな当たり前の生活を失くすのが怖いから。

でも、2人の願いが僕が両親に会うことだと言うのなら、僕はそれを叶えたい。

自分のためではなく、僕を育ててくれた2人のために。

しかし、そう簡単に2人のことを諦められるわけもない。

だから、先にできることをしようと、僕は王都の方角を聞いて飛んでいく。

場合によってはヒントさえ得られるかもしれない。

いつもは僕が1人でどこかへ行きたいと言うと止めるルーベルナさんが、今日は何も言わなかった。

僕がどこで何をしようとしているのか、気づいたのだろう。

とにかく急ごう。

飛ぶ速度を速めながら、長い道を王都に向けて突っ切っていくのだった。





あれか………

長時間飛び続け、僕はついに王城を見つける。

その周りは円形に巨大な街になっていて、家のようなものや店のようなものが連なっている。

普通は城門から入っていくのが当たり前だろうが、そんな手順を踏んでいる時間はない。

窓が開いている部屋を見つけ、そこから入っていく。

「いくら子供と言え、勝手に入ってきてはいけませんよ。」

少しびっくりしたが、僕の横には椅子に座った白い髪のおじいさんがいた。

おじいさんと言っても、綺麗な身だしなみで黒い服を着ている。

かっこいい雰囲気が滲み出ている人だ。

「勝手に入ったのはごめんなさい。

でも、急用なんです。」

僕のことをじっくりと見て、その人は立ち上がってついてくるように言う。

その後ろをついていくと、長い廊下の途中にあった部屋に入れられる。

「どうぞ、座ってください。」

自分も座りつつ言ったその人に従って、僕も席に着く。

ふかふかなソファーに少し興奮しつつも、僕はここにきた要件を話す。





「そうですか……ログレン王がお亡くなりになったと。」

涙を流すこともなく、その人は呟いた。

「色々なお話をしてもらったお礼と言ってはあれですが、彼の過去についてお話をしましょうか。」

そう言って、その人は語り始める。

「彼は、先代の王、ログレウス王の第一子として生まれました。第一子と言うのは、最初に生まれた子供ということです。

生まれてすぐ、この国にいる有名な魔法を扱える者をかき集め、ログレウス王はログレン王の呪いがなんであるかを調べさせました。

その結果、彼が持つ呪いは“愛を与えられた時、自分が愛して欲しい者が死ぬ”というものだと分かったのです。

呪いには人それぞれの大きさがあることはご存知だと思います。

もちろん、もっと苦しい呪いを持って生きている人も無数にいるでしょう。

ですが、なぜ自分の子があんなにも重い呪いを持たなければならなかったのか、自分たちが自分たちの子を愛してはいけないのかという想いから、ログレン王の母は自ら命を絶ち、いくつもの災難が重なった彼の父であるログレウス王は姿を消しました。

今となっては余生短い老体ですが、ログレウス王がまだ幼少であった頃から彼の育て役として城に勤めていた私に全てを託して彼はいなくなりました。


私は、ログレン王を愛することができませんでした。

そして彼もまた、私を本心から愛することはなかったのです。

『私は人を愛するのをやめる。

だから、お前も私を愛すのをやめてくれ。』

ログレン王が大きくなったある日、雨の降る庭の中で雨粒に打たれながら、彼は私に言いました。

両親を失い、たった数歳で王の立場に就いた彼を、私は支えていました。

それから先、ログレン王の心は誰がどう頑張っても開かない鋼鉄の扉となり、私も彼に心を閉ざしました。

もちろん、とっくの昔から私はログレン王を愛さないよう自分に言い聞かせていました。

そして、彼は修羅の道を歩み始めたのです。

自分が愛する者を護るために、誰からも愛されないために、いくつもの大きなものを切り捨ててきました。

非道と言われようと、悪魔と言われようと、彼は己が信じた道を突き進み続けました。

ですが………最後の最期に、失敗してしまったのですね……………」

遠くを見るように、その人は窓の外へと視線を移す。

「あの方は、最後に私に本心を話した時言いました。

『自分に何かあったら、自分が成せなかったことをしてくれ』と。

1週間ほどかかってしまいますが、私があなたのいる街へ行きます。その時に、またお会いしましょう。」

その言葉を最後に、その人は口を閉じてしまった。

結局、その人の考えは聞くこともできないまま、僕は元来た道を引き返していく。

呪いというものがもたらすものの大きさを、自分が持っていた浅はかな覚悟と重ねながら。




客人が去った後、たった1人でその人間は呟いた。

「お前は、よく頑張った。

私が不死の呪いにかかっているということを教えていれば、お前からの愛を受けることができたかもしれない。

しかし、それすらも一方通行な愛に過ぎない………

だが、今ならば、誰にも迷惑をかけることなく心からこの想いを伝えることができる。



愛しい我が子よ、そなたの呪われた運命に、できる限りの労いを。

そして、すぐにそなたの元に追いついてみせよう。

不死を乗り越え、闇に囚われたお前を抱きしめるために。」

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