反生という名の呪い
雨が降り始めたことで少し暗くなった教会の外。
休憩スペースのように設けられた1つのテーブルを囲み、僕たちは椅子に座っていた。
「さっきのあれ………二人は何か知っていたんですか?」
ここにくるまでに頭を冷やし、少し冷静になった僕は尋ねる。
ルーベルナさんに言われたどうしようもないという言葉は、僕の中でこれ以上ない諦めの言葉だ。
ルーベルナさんが言うならば、本当にそうなのだと思ってしまう。
だとしたら、今できることは現実を受け止めることだけ。
険しい顔をした2人を見ながら、僕は言葉を待つ。
やがて、ルーベルナさんが口を開き、話し始める。
「この世界には、“反生“と呼ばれる呪いが存在しています。
それを持つ対象になるのは、決まって魔力を扱える者。
今までは言っていませんでしたが………メルぺディアくんも、その内の1人であることに変わりありません。あなただけでなく、ペティアさんもルミーシアさんも、反生を持っています。
ただ、その内容は完全にひとそれぞれ。
本当にちょっとしたことである人もいれば、人生そのものを変えるような呪いをもつ人もいます。
そして、自分が持つ呪いがなんであるかを知るタイミングも、人それぞれなんです。
物心ついた時からなぜか理解できている者。突如としてそれを知る者。誰かに言われて初めて自覚する者。
しかし多くの人が直感的に感じ取ることができると言われています。」
一呼吸置いて、彼女は続ける。
「ログレン王が持つ呪い。それが何かを知りたいか知らなくていいか。
それはメルぺディアくんに任せます。」
そう言って、ルーベルナさんは目を瞑る。
僕に任せる………
正直に言えば、一度ログレン王と話をした時に感じた思いに、決着がついていない。
本心から自分が全てを支配しているようだったが、なぜそこまでなければならなかったのか。なぜそんなことを考えるようになったのか。
それを知る術を、僕は持ち合わせていなかった。
だとするなら、やるべきことはたった一つ。
「僕は、ログレン王に何があったのかを知りたいです。」
その答えに、ルーベルナさんは頷く。
「それでは、王都に向かいましょう。ですが、今すぐにと言うわけにもいかないので、この混乱が落ち着いてからです。
少しの間、我慢していてください。」
そう言って話を切り上げ、立ちあがろうとした彼女を、僕は引き止める。
「なんで………僕が持っている呪いに関しては、何も話してくれないんですか?」
少し俯いたルーベルナさんと、そう簡単にこの子が逃がすわけないでしょと言いたげに彼女を見るセルフィスさん。
「…………いつか、話す必要があると思ってはいました。
ですが、なるべく無駄なことは考えずに、過去に向かうという選択肢をとってほしいと思っていたんです。」
座り直し、謝るような口調でルーベルナさんは話し始める。
「私たちとメルぺディアくんを繋げている神程術式………それを用いて、私はメルペディアくんが持っている呪いをだいぶ前に知りました。
当時、セルフィスにも相談しましたが、私たちではどうすることもできないため、黙っておくという選択を取りました。
それだけ、あなたの人生を変えかねない内容だということです。」
ルーベルナさんは顔をあげ、真っ直ぐに僕の目を見る。
「それを聞いて、後悔しませんか?」
心臓の音が大きくなっていくのがわかる。
2人の顔からも、それがどれほど大きなことなのか伝わってくる。
だとしても、僕は自分の人生を選択したい。
「教えて………くれませんか?」
一呼吸置いて、ルーベルナさんは口を開く。
「織術神ルーベルナの名において神託を下します。
エール・メルペディア、あなたは長き旅の途中で2人の神を失い、そして絶望の果てに親の元へと帰ることになるでしょう。」
……………は?
僕には、ルーベルナさんが何を言っているのか理解できなかった。
長き旅、親の元に帰るということから考えるに、10000年を遡っていくこの旅のことだろう。
そして、失われる2人の神は━━━━━━━━━
「何………言ってるんですか?
そもそも神託ってなんですか!」
反射的に、声が大きくなる。
「神が契約者の反生を伝える時、それは神託とみなされるのです。
もちろん、形式上でしかありませんので私がそれをしたからどうなるということはありません。」
淡々と、ルーベルナさんは言う。
だったら、僕が過去に戻ろうとしなければ、2人は死ぬことがないんじゃないか?
その考えに至った時、見抜いたようにルーベルナさんが言う。
「それはできませんよ。
先ほど、それを聞いて後悔しないかと聞いた時、あなたと私は『神命絶誓』によって契約を結びました。」
「『神命絶誓』………?」
「神が結ぶ、絶対的な誓約の神術です。
おそらく、ペティアさんであっても解くことはできないかと。」
お父さんでも解くことができない魔法……?
いや、考えるべきはそこじゃない。最も大切なのは、その魔法がどんな内容であるかだ。
「一体……どんな契約を結んだんですか?」
唾を飲み込んで、僕は彼女の答えを待つ。
「メルペディアくんが過去への旅をやめる時、私の命が尽きるという契約です。」
さも当然のようにキッパリという彼女に、僕は声を荒げる。
「なんのためにそんなことをしたんですか!
その契約をせずに、僕が過去に戻らなければ二人が死ぬことはないんでしょ!?
だったら、それだけでいいじゃないですか!
僕がお父さんとお母さんに会うのを諦めて、2人とずっと暮らしていけばいいだけじゃないんですか!?
…………確かに、会いたいと言い出したのは僕です。でも、2人の命よりも大事なことだと、少なくとも今は思えません!
━━━━━嫌ですよ………僕のために2人がいなくなっちゃうなんて………!」
契約魔法は、基本的に双方の合意があって存在する。
それをこちら側の同意なしで実行したということは、だいぶ無茶苦茶な魔法術式で作り上げた魔法である可能性がある。
解読して魔法陣解体で無くしてしまえば………
契約魔法は宙に描いたり体に直接埋め込んだりすることもできるらしいが、そんなことをされた覚えはない。
となると、魔法術式の継承のように魂に刻まれた可能性が高い。
刻まれている魔法を片っ端から確認していくが、“それ“を見つけることができない。
なんで、なんでだ?
「神術は、人間がどうにかできるものじゃないのよ。」
セルフィスさんがこちらを見て、そう言葉を発する。
神術…?神のみが扱える魔法のようなものだ。
いや、まだ何か方法はあるはずだ。
どうにかしてこの契約を破棄させ、過去への旅をやめる。
こうなったからには、両親に会いに行きたいなんていう自分の願いを第一にしておく時間なんてない。
パァン!という音と共に、遅れて痛みが頬に走る。
その場に倒れ、僕は地面に腰を打ちつける。
やっと意識が戻り顔をあげると、そこには今まで見たことがない険しい目をしたセルフィスさんが立っている。
叩かれたのだと、ずいぶん遅れて脳が理解する。
「いい加減にしなさい。
あなたが私たちを大切に思ってくれるのは嬉しい。けど、普通はいつまでも一緒にいられるものじゃないの。
親の死があったり、友人の死があったり。
ネーバスたちが味わってきたような人生に比べたら、あなたは恵まれていると言えるかもしれない。
でもね、その境遇にいつまでも甘えてばかりじゃダメ。」
歩き出し、僕の横を通り過ぎながら、
「両親に会いに行きたいとあなたが言った時、私は嬉しかった。」とセルフィスさんはつぶやいた。
離れていくその背中を見ることもできず、僕はその場から動けなかった。




