保留される答え
「それで?お主が神だからなんだというのだ。」
………うぅ。
前と同じヘスペリエスの建物内で、僕はクルタルフさんと向かい合わせで座っていた。
「つまり、僕こそが神であって、しかしいつか力が暴走する時が訪れます。かつてはとある人物によって力を抑えられましたが、次はそう上手くはいきません。」
「それはもう聞いた。それによってこちらの国に被害が出るかもしれないということもな。
しかし、それらは全て、我々が神を滅さなくていい理由にはならぬ。
いっそのこと、ここで戦ってもよいのだぞ?」
どうやっても聞く耳を持ってくれない頑固ジジイを前に、僕は手段を失っていた。デメリットが国の滅亡レベルだとしても、そのデメリットのために諦めようという姿勢を見せてくれないのだ。
「いいんですか?本気でこの国が滅びるかもしれないんですよ?」
「では、お主と何らかの契約を結んだ東の国は滅びるのか?
この国の情報量をあまり舐めないでもらいたいものだな。」
そう言って、クルタルフさんは深く椅子に座り直す。
「お主には、国が内側から崩壊していくことの恐ろしさがわからないのであろう。
民に混乱が生じ、それを抑えるだけでもどれほどの心労を要するか。そこに神などという正体不明な存在の話をしてみろ。
民が分断され国が崩壊するのであれば、神と対峙した方がマシだと言っているのだ。」
この国では、いったいどれだけの悪として神が描かれてきたのか。
いや、過去の神がどれほど暴虐の限りを尽くしていたのかとも言える。
ここまで人間に忌み嫌われるほどのことをしていたとなると、神が戦争を起こしたと言われても納得してしまいそうだ。
しかし、今は今であるということも伝えなければならない。
………そのためには、こちらも本音で話すしかないだろう。
それでなお受け入れられないのであれば、いよいよ戦争を止める手立てはなくなるかもしれない。
小さく息を吐き、僕は顔を上げてクルタルフさんの顔を真っ直ぐに見る。
「僕は、この時代よりも遠い未来。3000年と少し後の世界から来ました。
と言っても、生まれたのは今から6500年以上前で、生まれた時に魔法を誤発動して10000年後に行ってしまったんです。
その時代から、2人の神様と一緒に過去に戻る旅を続けてきました。2人はもういなくなってしまいましたけど、2人の願いは、僕が生まれた時代に戻って両親と会うことでした。
この時代に立ち寄っているのも、旅の道中にすぎません。
でも、未来で幾度も繰り返し、長く続いている戦争をこの時代ではやってほしくない。
大切な人がいなくなっても、明日があるかもわからなくても、人が泣いても怒っても、消えた命も壊れた心も戻ってきません。
きっと、国が分断されても人は生きていけます。
けど命は、なくなったらそれで終わりなんです。」
勇んで声を荒げれば、前に座る人は僕の本気さを理解してくれるのだろうか。
そんな考えが何度も頭をよぎってはいるものの、そうする気にはならない。しかし、その理由を探している暇もない。
今の目の前の状況を解決するために、できることをするのみ。
静かにクルタルフさんの目を見つめる僕を、柔らかさと鋭さを交えた瞳が見つめ返してくる。
「…例えば、だ。
今この時代にいるお主が過去へ行き、歴史を変えたとなれば、今この瞬間はどうなる。
もっと言えば、過去の戦争でお主が南の国に味方した場合どうなる。
戦争が起き、人が逃げ、死んで、初めて生まれた運命というものもあっただろう。それはどうなる?
戦争によって故郷を追われ、出会ったもの同士から生まれたこの時代の子供が、戦争が起きなかった世界でも生まれるという断言はできるのか?」
僅かに目を細めて、クルタルフさんは静かに言う。
「元から存在しないはずの命だと、過去を塗り替えて言われてしまえばそれまでだろう。
お主がヘスペリエス近辺に住む人ごと皆殺しにすれば、私はこの時代に存在しないことになり、お主に文句をつけることもできなくなる。
……私は時代を超えたことがないのでわからぬが、お主の行動で未来が変わる場合、命が失われたらどうすると言うのだ。」
「………」
言葉を選ぼうにも、選ぶ言葉がない。
誰かを護るために、何かを犠牲にする。
過去に一度、僕は大きな罪を犯した。
大切な人を護るためだったと言えば聞こえはいいが、護るための手段をそれしか持ち合わせていなかっただけだ。
━━━それでも、もしあの時に未来で戦争が起きる可能性があるなんてことを考えなくてよかったら……僕は罪を犯すことなく、彼女を幸せな運命へと導いてあげれたかもしれない。
言い訳だとしても、結局いつも、そう思ってしまう。
そして、僕が未来を変えてしまえば、罪を犯してまで護ろうとした人も、彼女が生きる未来も失くなってしまうかもしれない。
どう変わるかはわからないが、どこかには絶対、綻びが出る。
だが、今ある未来を考えてばかりいては、過去は変わらない。
救えるものも救えない。
どれだけ大きな責任だとしても、背負い切って見せる。
1度瞳を閉じ、深く呼吸する。
そして、再び目を開く。
「失われるかもしれない命も、失われたかもしれない命も、全部抱えて生きていきます。」
「お主がどうにかできる問題なのか?」
「僕にとって大切な人たちのために、やらないといけません。」
「………ふっ━━━━面白い。
確かに、お主が過去を変えて私たちの存在が消えるということは、未来の世界にいるお主の知人たちが消えると言うことにも繋がっていく。
つまり、お主は本当に全てを抱えなければいけないということだ。」
不気味な笑みを浮かべ、その人は僕を見て言い放つ。
「いいだろう。
我々がここで神を滅そうとも、過去でお主が捻じ曲げてくる可能性があるとするのであれば、骨折り損のくたびれ儲けだ。
未来が確定した時に、再びここに来い。
その時、この時代の、この国に生きる人々で答えを出そうではないか。」と。




