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激震する天界

「ふむ……やはり其方ほどの魔力を持っていればここへ来るなど容易いか。」

「特に隠れるつもりもなかったみたいだし、あとは魔力で無理矢理ここへ来るだけ。それくらいできなきゃ話にならないわ。」

「……場所を変えるとしよう。」

「ここで暴れたらこの世界の時間が粉々になりそうだものね。」

「わかっているなら話は早い。」

目の前に立つ相手が指を弾くと同時、空間が切り替わる。

虹のベールに包まれたような空間が広がり、その中に自分と彼女の姿がある。

天界は、特別な議場や上位神が作った空間以外の多くがこの何もないだだっ広い場所だ。

息を吐き、私は一度瞬きをする。

手を宙にかざす。

私が使う最後の魔法。

その事実を噛み締めながら、一気に魔力を爆発させる。


劫穢玄廻級(ごうえげんかいきゅう)極厳魔法……廻絶喰尽闇禍冥底(ヴォルグ)!」


色だけが流れ、重さも、音も、温度もない。ただ、七色が帯のようにたゆたい続ける無限。

その中心で、黒が滲む。

そこに“暗黒”が生まれる。

押し潰された破壊的な魔力は、色を失ってただ深淵に染まる。境界が飲み込まれる、形すら定義できない闇。近づいた虹色が、触れた瞬間に消える。

砕けるわけではなく、燃えるわけでもない。存在ごと世界から否定されるように消える。

赤が消え、橙が消え、黄が消える。無限の距離を持つ天界。その中心を作り出し、無限を否定するように闇が荒れ狂う。

天界が悲鳴をあげているのがわかる。

これを地上で使えば、世界なんてすぐにぐちゃぐちゃに押し潰されるだろう。

そんなことを思いつつ、私は魔法の威力を抑える。

理由はただ一つ。目の前に立ってそれを静観する神……時空神と対話するため。

「あなたなら、この魔法を止め切ることができるんでしょう?早くやらないと天界が消え去るわよ?」

「確かに、天界に破滅をもたらすのは確かだろう。上位神含めほぼ全ての神が滅ぶこともありうる。

だが、私はここで己の力を使うことはできぬ。」

その言葉に、私は目を細めて彼女を見る。それでも、感じたことを口にすることはない。

「そんな悠長なことを言っていられるのかしら?」

再び、魔力を込める。

闇が広がり、より多くの空間を飲み込み始める。

「はぁ……仕方がない。一度だけだ。」

時空神が手を宙に掲げて握りしめる。

天界を押し潰して広がっていく闇が、逆に外側から迫り来る光に押し潰される。

魔力と神力がぶつかり合えばどちらか片方が消滅するはずだ。だがしかし、消滅しない。

つまり相手が使っている力は神力ではなく、純粋な魔力と魔力の押し合い。

思わず、笑みが零れる。

「全く…あんたたちもなかなかにとち狂ってるわね……」

暗黒が、光を飲み込もうとする。光が、暗黒を焼き払おうとする。

闇が光を削り、光が闇を削る。

暗黒に触れた光は、消える。だが消える寸前、爆発的に増幅する。増幅した光は闇を押し返す。押し返された闇は、より深い無へと沈み込み、密度を増す。

均衡。

二つの力がぶつかり合い、天界が軋む。

虹の世界に現れた白と黒の力が、銀河のように世界を巻き上げていく。



“無窮神による時空神急襲”。その一大事が天界に知れ渡ったのは無窮神の力が解放されるとほぼ同時だった。

そして、天界破滅の危機を防ぐために上位神たちが集結する。



「毎度毎度そっちは数が多いわね。」

終わらせるべきことを全て終わらせ、私は笑みを浮かべる。

時は満ちた、ね。

「さぁ、終わらせましょう!」

一気に力を解放し、全魔力を放出する。

黒の渦がさらに大きくなり、天界を喰らい尽くそうとする。

「ありったけの神力を叩き込め!これ以上時空神に力を使わせるな!」

しわがれた声が張り上げられ、私の魔法をゆっくり押し潰すように神力が巡り始める。

手を下ろし、私は歩き出す。

時空神の前まできて、その瞳をしっかりと見る。

「其方は、なぜその命を懸けてまで私に立ち向かおうとした?あの少年と共に残りの年月を過ごせばよかったであろう。」

「私の目的は、あんたをここで仕留め切ることだった。」

「なぜ?」

「あんたがメルペディアの行動を制限しなければ、あの子が苦しむことはなかった。サレナちゃんが苦しむことも、ルーベルナが死ぬことも。何度だってやり直せた。

それくらいわかってるでしょ?」

「………………」

答えない。いや、答えられないのだろう。今私がやっているこの問答は、目の前に立つ相手にとって一切無意味であるということはもうわかっている。

「まぁいいわ。もう私の力は残っていない。今出した魔力が尽きたら、私は死ぬ。

でも、どれだけ約束を破っても、私が使い物にならなくなっても、メルペディアが生きていければそれでいい。

あの子が両親に会えるのなら、それでいい。」

私の目をまっすぐに見つめるその瞳には、何が映っているのか。そんなことを思いながら、私は限られた時間の中でできる限りのことを話す。

「…………あんたが時間を管理しているのなら、あんたが好きなようにするのは仕方ないことかもしれない。その役を放棄したのは私とルーベルナなんだから。

……だからこれだけは言っておくわ。あなたは間違ってない。」

相変わらず言葉足らずかもしれないけど、大丈夫なはず。


そんなやりとりをしている間についに魔力が尽き、天界が元の色を取り戻していく。

「へぇ…これだけ早く私の魔法が消えるってことは、“あれ“が手を出してきたってことね。」

姿を見ることはできないが、その力だけは感じることができる。

「其方の死は決まった。天界に対する叛逆の罪で処刑する。」

「そんなこと初めて聞いたわ。ま、好きにしなさい。」

言い終わると同時に、胸元を鋭い痛みが襲う。

あぁ、死ぬのか。

……ルーベルナも、同じ痛みを味わったのだろう。

視界が暗くなっていくのと対照に、私の口元には笑みが残る。

2人とも…メルペディアのこと、よろしくね。

そんな言葉を残して、私の命の灯火は消えていった。

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