6日目 魔女
鼻にツーンと突き刺さるような強烈な匂いに目が覚める。
「いけね! 薬草を煎じている途中だったわ」
一人暮らしのこの小屋には誰もいないが、私がぶつぶつ独り言を絶え間なく言うせいで、近くを通ったものはおそらく一人暮らしだなととは思うまい。
「まあ、こんな森の中誰も通らんけどね」
そう言いながら、急いで釜のもとに駆けつける。
私は魔女と名乗っているが、魔法なぞ使えない。
「でもね、この薬草には魔法と同じ効果があるんだよ」
きっと野垂れ死んでいるであろう昨日の小僧も、この薬さえあれば生き延びられただろうに。しかしながら、生も死も人がどうにかできることはない、というのが本物の魔法使いてあった師匠の口癖である。
「不思議なこともあるもんさね。人の人生を生きてみるだなんて。まあ、一日ポッチじゃなんもわからんがね」
焦げ付いて明らかに失敗している薬草の煮込みに、救済措置として適当に薬草やら酒やらを注ぎ込みながら、その蒸気にむせるてしまう。
「最初は異世界転生とやらかと思ったが、毎日変わるのは果たして転生というのかね。日替わり乗っ取りという方が正しい気もするが」
そう言いながらも、薬草煮込みを混ぜる手は止めない。ここで止めたらきっと消し炭のようになる。それは苦労して集めた薬草がもったいない。
「不思議は不思議、摩訶不思議。魔女をやってりゃそういうこともあるさ」
節に乗せながら、手はしっかりと混ぜ混ぜ。貧乏性が出たことと、生臭な性がでたことで、ここは懸命にこの薬草を何らかの役に立てるように努力せねばとひたすらまぜる。適当にいろいろなものを入れすぎたせいで配合ももうわからない、
「どうせろくなもんしか出来んだろう。おや、この酒は確か甘みが強くてうまかった気が」
自分で飲むのだ。せめて味は整えたいと思い、うまかった記憶のあるピンクの酒を入れたところ、手元が狂ってすべて注ぎ込んてしまった。
煎じた草はドドメ色に紫とピンクを混ぜたような色をしている。
「はー。すさまじいものができたな。まあ、町中であんな苦労して過ごすより、ここでこうして薬作りをしてる方が気楽でいいさね。さて、飲むか」
煮込みすぎた薬は、片手に収まるピンク色の酒の瓶に入り切る程に少なくなった。
久々に見かけた町の風景を思い出しながら、椅子に腰を掛け便を目の前にかざす。
「やつら、学もないから文字も読めない。自分の家もわからんからドアに色を塗って見分ける始末だ。私の師匠の叡智など微塵もわからんだろうよ。そしてその弟子である私が作った素晴らしい薬。これを味わう機会もない」
私をはじきものにした者たちへ八つ当たりするように、ヒヒッと嘲笑がこぼれる。
「こういうのは思いっきりだ」
他人を思いやらない私の心根が祟ったのたろうか。薬を一気にあおった瞬間気づく。
(あ、これ死ぬやつだ)