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5日目 子ども
定まらぬ視界の先は、人々の足、足、足。
たまに巻き上がる砂埃は顔の前まで来てむせそうになる。でも息をするのでやっとな僕には咳き込むことすらできない。
裏路地の端に横たわり、ぼんやりとただ行き交う人々を見る。人通りはそれなりにあるはずなのに、誰も僕のことを気にかけない。七歳の子どもが倒れていても異常とみなされないほどに、この地域は荒れていた。
僕のことを心配してくれていたおにいちゃんも、「ちょっと待っててね」と言ったっきり戻ってこない。人を簡単に信じない程度の警戒心を持っている僕は、お兄ちゃんが戻ってこないことも、「そういうもの」として受け入れた。
昨日降った雨はボロボロの服を濡らし、わずかに残っていた体力を奪っていた。権力者の息子のときには「明日までの命だ」と思っていたが、僕はおそらく今日まで。
これまでの記憶なども、もうどうでもいい。
わずかな覚醒のあと、引きずられるように意識が沈んでいく。
「お腹すいた……」
そのつぶやきも、声になっていなかった。