表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

4日目 権力者の息子

権力者の息子は女よりもきれいな顔をしている。そういう評判だった。


なるほど、その通りと思うような整った顔立ちが鏡の中にあった。王子様のような美少年。部屋を見回すと、一つ一つの家具が最高級品だということがわかる。明らかにナターシャの部屋よりもはるかに豪華な部屋。


「なるほど。これが人生の勝者と言うやつか」


日替わりで別の人物になることにも慣れてきたが、寝起きは前日の人格を引きずってしまうようだった。


体を起こすとすぐに気配を察知して侍女が部屋に入ってくる。そして顔を洗うための水を用意して、楚々と控える。


連日の意味の分からない転生。いや、これはそもそも転生というのか? それすらもわからないが、別の人々の人生が、まるで悪夢を見たあとの朝のように頭の中に浮かんでは消えていき、脳みそをかき回す。


「アンナ。今日の予定は?」


頭を振って余分な記憶を追い払い、無意識にルーティンをこなす。確か今日はやることが山ほどあったはずだ。


来週に控える自分の十二歳の誕生日に、父が『権限を譲渡する』という名目で仕事を押しつけてくることになっていた。


「本日の予定は朝食前に剣のお稽古と乗馬のお稽古。朝食時に市民の陳情書を聞き、執事のロブスから町の有力者のリストが読み上げられますので誰と繋がるかの裁定。朝食後には家庭教師による授業が五科目ほど入った後に昼食、その後ーー」


「いや、もういい。とりあえずあとでまた聞く」


詰め込み過ぎだろう。しかし毎日のことであるので何とかこなせることも分かる。


洗顔の後でメイドたちに着替えを手伝わせ、稽古の服を着ると、いっそう顔が映える。


俺の顔がいいことは親父の自慢らしい。権力によって街一番の美女を妻に迎えて、生まれたのが母親似の俺だった。


俺の顔は票集めに向いているから凄くいいのだと、そう言う。


親父に似なくて良かったと、俺もそう思う。なぜならあいつは危険ドラッグを町に流したり、非合法なことをしてカネを稼いでいるクズだから。なぜ捕まらないのかというと、親父自身がその捕まえるやつ側のトップ、駐屯軍の長を動かす権限を持つ区長だから。



豪華な食事を食べ、質のいい服を着て、豪邸に住む。従業員は皆傅き、これぞ上流階級という一日を過ごす。


しかし、町を移動するとき、豪華絢爛な馬車に揺られながら町を見る。豊かそうに見える表通りからチラチラと見える裏通り。それは暗く、荒れていた。酒を飲んでいる大人。死んだように動かない子ども。


親父が流した危険ドラッグのせいで治安が悪化し、食い詰める人も増えてきたようだ。


そんな町の人間を横目で見ながら、俺は自分の恵まれた環境を思う。自分の生活が何から成り立っているのかを知ってしまった今となっては、何を食べても何の味もせず、目に入る高級品もすべてごみに見え、自分は何のために生かされているのか問い続ける日々。


でもそんな日々も今日で終わりだ。なぜなら、親父を打ち取ろうとする義賊が町の中に生まれたから。そして、そいつらに我が家の警備が明日薄くなることを伝えたから。




そしてあくる朝。僕は目を覚ました。でも、体を起こすことはできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
だんだんと、転生の「共通項」が見えてきて、ちょっとずつ「街」の様子がわかってきたような……? でもこれ、寝起きの一時しか「転生前の自分」が存在しない状態なので、物事を俯瞰して観察・考察する、って、本人…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ