3日目 暗がりの男
そこは埃っぽいわずかな家具と、かすかな光が差し込むだけの鉄格子がはめられた窓だけしか特徴のない部屋だった。鉄とカビのにおいが気持ちを滅入らせる。
自分の体を見やると、筋骨隆々。浅黒くしなやかな四肢を持つ男になっていた。
力は有り余っているのでナターシャほどの気だるさはないものの、クリスのようなほとばしるエネルギーも感じなかった。
窓が位置するのは地上の少しばかり上のようで、近くの小道を人が通るたびに靴が見え、靴の動きに合わせて砂ぼこりがキラキラと陽の光を浴びながら部屋に入りこんでくる。
不意にズキリと頭が痛む。
昨日はしこたまお酒を飲み、二日酔いだったことを思い出す。
「はあ。クソ上司を殴って一週間謹慎食らったんだったな」
独り言ちりながら身を起こした。古いベッドは俺の重みに耐えられないかのようにミシリと沈み込む。
無駄に体格が良く、持て余しているこの身体。全くもってこの世の役に立てているとは思えない。
吐き気を抑えるように深呼吸をしてから、とりあえず軽いストレッチをしたあとに筋トレを始める。痛む頭も無為な現実も、体を鍛えている間は忘れることができるからだ。
鉄格子を筋トレの器具代わりに使って懸垂をしていると、町の様子が嫌でも目に入る。カラフルな色のドレスを着た商売女たちが白昼堂々街中を往来し、よからぬ取引をしている連中が子供の遊ぶ通りのすぐそばにたむろしていた。
俺自身もそんなコーディアルの町で生まれ育ったわけだが、変えようともがいても何も変えられない現実に嫌気がさし、やけ酒をして上司を殴って謹慎だ。
「変えられるのは自分だけ」
そう呟きながら筋肉をいじめ、すべてに絶望しながら眠りにつく。
そして明日に希望を持てぬまま眠りにつくと、今度は今までで一番豪奢な部屋で目を覚ました。部屋の鏡に映っていたのは、この街で一番の権力者の息子の顔であった。