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運命の人に出会います

 

 デスマリッジ結婚相談所から次に連絡がきたのは、訪問からちょうど一週間後のことだった。どうやら俺に合う人が現れたらしいのでぜひ来てほしいらしい。そんなにあっさりマッチングすることってあるの?



「当相談所のモットーは『早い、安い、うまい』ですから」

「こないだ聞いたのと違うようですが…」

「まあ、いいじゃないですか。細かいことは」



 電話口で根黒からマッチングした相手について色々と聞かされた。心なしか根黒の声がウキウキしているようだ。よほど理想の相手が見つかったことが嬉しいのだろうか。



「半田さん、此方でセッティングするのでぜひお相手の方とお会いしてみてください。絶対にお気に召すと思います!」

「は、はあ。随分と押しが強いですね」

「そりゃあもう。半田さんの為に一肌もニ肌も脱ぎましたから」

「はあ、そりゃあどうも…」

「半田さん、早いもの勝ちですよ。これ程の優良物件を私は知りません。さあハリアップ、ハリアップ!」



 異常に興奮する根黒に引きつつも、俺は次の日雇い仕事の休みの日にデスマリッジ結婚相談所へ行く約束をした。根黒は太鼓判を押すと言っているが、何とも胡散臭い。とはいえ根黒が怪しいのは最初から承知していたので、今更な感じではあるが。


 さて当日指定された時間にデスマリッジ結婚相談所に着いたのだが、相も変わらず人気がない。本当に理想の相手とやらが来ているのだろうか。とりあえず前回来た時と同じようにドアのベルを押してみる。少しすると、ドアが勢いよく開いた。俺が驚いて後ろへ下がると、根黒が興奮気味に入り口に立っている。明らかにこないだ会ったときよりもテンションが高い。



「よくぞ来てくださいました。ささっ、どうぞお入りください」

「は、はあ…どうも」

「既にお相手の方はお待ちかねですぞ」

「えっ、もう?!」



 グフフと下品な笑いを浮かべながら根黒が部屋の中へ俺を案内した。部屋の中は相変わらず埃まみれで汚い。結婚を夢見る年頃の女性が来るような所は到底思えないが、仕方なく根黒の後についていく。すると部屋の奥にある椅子の一脚に誰かが座っているのが見えた。


 薄暗くて分かりにくかったが、座っているのは長い黒髪が特徴の色白の女性だった。目はパッチリと大きく、顔や肌にはシワがない。鼻筋はスラリとして唇はやや薄いピンク色だ。少し幸薄げにも見えるが、部屋の暗さのせいだろう。



「お待たせいたしました、ご紹介しましょう。半田さん、今回マッチングさせていただきました『()()()』さんです」

「へ?み、みかんさん??」

「はい、ミカンさんです」



 根黒から『ミカン』さんと呼ばれた女性は椅子から立ち上がるとニッコリ笑って「初めまして」と会釈した。まるで小鳥のさえずりのような心地よい可愛らしい声だ。

 なお彼女の背丈はそこまで高くないみたいだ。だが、それでも小男の根黒よりは高い。それと座っている姿では分からなかったが、かなりスタイルがいい。若くて張りのある体…ついつい(よこしま)な目で見てしまう。


 しかし彼女に魅力を感じたのは顔立ちやスタイルの良さだけではない。どこか物憂げな表情や清楚な佇まい、そのどれもが俺が根黒に挙げていた理想の女性像そのものだったからだ。一体この短時間でどうやって根黒はこんな女性を見つけてきたのだ?



「どぉーですか、半田さん!素晴らしいでしょう?」



 根黒が俺の顔を覗きながらニヤニヤしていた。俺は無意識の内に鼻の下を伸ばしていたらしく、慌てて我に返る。しかし根黒は意に返さず、俺の肩を思い切り叩いた。



「いやはや、お気に召したようで何よりです」

「は、はあ…しかし信じられません」

「何がです?ご不満でも?」

「いや、まさかここまで完璧な理想の女性に出会えるなんて…夢を見てるようです」



 俺は率直に根黒に感想を漏らす。すると根黒はドヤ顔をしながら、もう一度俺の肩を叩いた。



「いやいや、恩着せがましいことは言いたくありませんが、本当に苦労しました。しかし此処まで喜んでもらえて作った…ゲフンゲフン、いや見つけてきた甲斐がありました」



 むせる根黒に違和感を覚えつつ、とりあえず俺はミカンさんの前の椅子に座って自己紹介した。その間ミカンさんは俺のことをじっと見つめ、飽きる素振りもなく興味深そうに俺の話を聞いてくれている。これまで出会ったことのない優しさに俺は思わず泣きそうになる。ああ…俺は寂しかったんだな。すると俺の話を遮るように根黒が横から声を掛けてきた。



「さて半田さん、いかがでしょうか?早速真剣交際と行きますか?」

「えっ?もう!?早すぎませんか?」

「いえいえ。どうやらお二人とも随分仲良く見えますし、良いではないですか」

「はあ??だって俺自分の話しかしてませんよ?そもそもミカンさんのことだって何にも知らないし。まだ出会って数分ですよ?」

「いやいや半田さん、鉄は熱いうちに打てと言うではありませんか」

「それとこれとは話が違う…」

「ミカンさんはどうですか?半田さんと真剣交際を進めてもいいですか?」



 根黒がミカンさんに意見を聞くとミカンさんは無言で頷く。ミカンさんの意向を確認すると、根黒は満足そうに微笑む。俺は何となく嫌な予感しかしない。しかしミカンさんの笑顔に絆されたのか、結局は翌日からミカンさんとの真剣交際を始めることにした。



「半田さん、ご成婚の際には此方をお忘れなく」



 根黒が念を押すように右手の親指と人差し指で円マークを作る。若干やらしい笑顔が気になる。今後の不安と期待がない混ぜになりつつも、俺はミカンさんと連絡先を交換するとその日は家路に着くことにした。

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