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現実は甘くありません

 さて一般的な異性の出会いのタイミングと言えば何を想像するだろうか。俺のイメージは次のようなものである。


 幼馴染、学校のクラスメイト、部活動の先輩後輩、塾や習い事の仲間、サークル仲間、バイト先の仲間、会社の同僚あるいは先輩後輩、もしくはこれまで知り合った男友達のツテ、更にはお見合い…等など。


 思いつく限りざっと並べてみたが、悲しいかな俺はいずれにも出会いのタイミングにも当てはまることはなかった。つまりこれまで生きてきて異性と自然に出会う機会など一切なかったのである。

 まず俺には異性の幼馴染はいない。学校も小学校はイジメを受けたことによる不登校で卒業まで友達なし。中高は男子校でぼっち、卒業後はプラプラしてオッサンたちに混じって日雇いのアルバイトの日々。そしてやっと見つけた天職がバウンティハンターだが、職業柄周りに女っ気は一切なし。だが、気づけば俺以外のハンター仲間は次々と結婚していき、ついには相棒までも婚約してしまった。一体皆どうやって異性と出会っているのだろう?


 そうなると残るは男友達のツテとなるのだが、そもそも俺には友達といえるようなくだけた関係の人間がいない。相棒もハンター仲間もビジネスライクでお互いプライベートには干渉しないでいる。お見合いに至っては家族および親戚筋から絶縁されているのでその手の話が来ることはまずない。完全に詰みである。


 で、改めて出会いの場を模索しているのだが、世の中というものは実に便利になった。探せば幾らでも手段はある。………探せばな。ただどういった手段が自分に合っているのかはまるで分からない。とりあえず悩んでいても仕方ないので手当たり次第にやってみることにする。



「確実なのは結果相談所かな…幾つかあるみたいだが、大手っぽい所を探して………!!なんじゃこりゃー!!!」



 俺は結婚相談所のサイトを調べていて絶句した。会費が高い、高すぎる。ま、まあ入会費だけならそこそこの値段のところもあるが、しかしながらトータルで見るとかなりの金額が必要になる。やはり世の中金なのか…。

 仕方なく結婚相談所は最後の手段で取るとして、まずは簡単なマッチングアプリから始めることにした。俺のプロフィールやら希望やらをチョチョっと入れて、アカウント登録を完了する。なんて簡単なんだ。もっと早く始めれば良かった。



「さ、後は良さげな人に「いいね」を送って…マッチングするのを待つばかりっと。いやー、楽しみだなー」



 気づけば俺はドアや窓を閉めるのも、そしてゴミを捨てるのも忘れてアプリ登録に没頭していた。ゴミ溜めの中でオッサンが一喜一憂する姿は端から見たら完全にヤバい人である。下手したら近所から通報されてもおかしくない。しかし世間の目など露知らず、アプリに登録しただけで俺はマッチングできると浮かれてしまっていた。


 ………………………………………



 一週間、そして二週間と経過したが、一向にマッチング成立しましたという連絡は来ない。それどころか俺が「いいね」を送った人からも何にも返事がない。完全に無視されている。

 見てないだけかなと思って何度か通知を入れたところ、「もう連絡するな」「キモい」「しつこい、ストーカーか」「冗談は顔だけにしろ」「お呼びじゃない、失せろオッサン」などの罵詈雑言が来ること来ること。さすがに幾多の死線をくぐって来た俺もこれには心が折れた。



「……此処まで心が抉られたのはいつ以来だ?俺の何がいけないんだ?俺が何をしたというのだ?俺は生きていたらダメなのか?」



 雑然とした部屋の中、パソコンの前で全否定された俺は呆然としていた。バウンティハンターの仕事もセーブして婚活重視の生活をしていたのだが、心も金もドンドン擦り減る一方だ。婚活にうつつを抜かして家賃が払えないのはさすがにまずい。

 そろそろ社会復帰するかぁと思った矢先、アプリから通知が届いた。どうせお断りだろと投げやりにメールを開くと、信じられない文面が目に飛び込んできた。



「マッチングが成立しました」



 神はいた!このとき俺は本気で神を信じた。もはや相手が誰なのかはどうでもよい。とにかくこの縁に縋るしかない。俺は大急ぎで相手にお見合いの件で通知を送った。するとすぐに会いたいと返信が来る。これは運命だ…。これこそ運命なのだ。俺は相手に来週会う約束を取り付けると、美容院を至急予約していかにもな小洒落た服を売っている店へ向かった。心なしか足取りは軽く、踊りながらスキップしたい気分だった。

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