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俺には貴女しかいません

 

「半田さん…貴方と一緒に…しないでいただきたい!私には現実のペキコさんがいる!もう先程の相談所の爆発でミカンさんのスペアは全て吹き飛んだ…。よってもうミカンさんはいない!貴方は一人ぼっちだ!半田さん、幻に惹かれていたのは貴方だけだ!」



 根黒は脇腹を押さえながら俺に向かって一方的にまくし立てた。さっき言っていたことと真逆のことを言っているではないか。その無様で必死な姿にもはや怒りを通り越して憐れみの感情しか湧いてこない。未だに呆然としているペキコ以外のその場にいる全員が俺と同じ感情だろう。尚葉に至ってはどうでもいいのか明後日の方向を向いて煙管(キセル)を吹かしている。



「………ハッキリいって俺には全く理解できない。何故そこまで理想の女性とやらに執着する?」

「貴方にはモテない男の気持ちなど理解できないでしょう。生まれてこの方容姿や人望に恵まれず、一度もモテ期も訪れず、中身を磨こうと大学院まで出たのに就いた仕事は腐ったババアの下らない趣味に付き合わされただけ。結局何一つとして報われていない。そんな私ができることは唯一つ!女性にモテないなら自分で理想の女性を作ればいい!ペキコさん、私には貴女さえいればいい!!例えこの為に赤の他人を犠牲にしようが、知ったことじゃない!」



 根黒は興奮して更に冗舌になる。だが根黒の弁を聞いているペキコの表情は明らかに暗い。まるで何かに幻滅したような様子だ。そんな根黒の主張を尚葉が一笑に付した。



「フン、下らない!随分私のことをボロクソに言ってたけど、アンタのやってることも十分に下らないじゃないか!所詮はモテない男の(ひが)みだろう?」

「グフフ、御前。貴女に言われる筋合いはありませんな」



 根黒が脇腹を押さえながら何とか立ち上がろうとしたとき、俺は再び根黒の胸倉を掴んだ。だが相談所の時とは違い、俺は根黒を哀れな男として何処か同情しながら見ていた。それでも根黒はまだ余裕のある笑みを浮かべる。



「…まだやる気ですか?半田さん」

「矢場井、いや根黒。アンタには感謝してるよ」

「??何を突然…!?」

「ほんの僅かな時間だったが、俺はミカンさんに出会えて幸せだった。それに嘘偽りはない。俺はデスマリッジ結婚相談所を利用して良かったと思っている」

「ぐっ………どういう風の吹き回しです?」

「だが、俺はこれでミカンさんへの未練を吹っ切るつもりだ。俺はこれから仕事に生きる。だから今すぐアンタを仁沢賀瀬家に引き渡す」

「………フッ……グフフ」



 根黒が観念したように笑う。これで終わりかと思っていたら後頭部に何やら硬いものを当てられた。ハッと振り返ろうとすると、尚葉と残っていた取り巻きがいつの間にか昏倒している。



「動かないで」

「おおっ!!さすがです、ペキコさん☆」



 しまった、ペキコの存在を忘れていた。俺の注意が根黒に向いていた隙に尚葉と取り巻きを倒して拳銃を奪っていたようだ。ペキコは根黒を放すよう俺の後頭部に銃口を押し付ける。これでは先の展開の二の舞ではないか。



「グフフ、半田さん。形勢逆転ですな。悪く思わないでくださいね。さあペキコさん、一思いにやっちゃってください!」

「……はい、アナタ。うっ!?ううう………」



 根黒がペキコに俺の始末を命じようとした時、ペキコが突然もがき出した。何事かと俺が改めて振り返ると何者かがペキコの後ろに回り込み、羽交い締めにしているのが分かった。ペキコは必死に振り解こうとするが、後ろにいる人物は決してペキコを放そうとしない。

 俺も根黒も唖然としていたが、ペキコの隙間から見えた背後の人物の姿に俺は更に驚愕した。長い黒髪が特徴の色白の女性…幻かと思ったが、これは見間違いようがない。



「ミカンさん!!」



 俺はペキコの背後の女性に向かって叫んだ。ミカンさんと呼ばれた女性はペキコを押さえつつも俺にニコッと微笑む。ミカンさんが何故此処にいる?しかし今はそんなことを考えている場合ではない。



「放せ!粗悪品!!」



 ペキコがもがきながらミカンさんに向かって暴言を吐いた。だが、ミカンさんは決して怯まない。ペキコは更に暴れると銃口をミカンさんへ向けようとする。



「やめろ!!俺の運命の人(ミカンさん)に手を出すな!!」



 俺は恥も外聞も捨てて叫ぶと、がら空きになったペキコの腹に向かってボディブローを思い切り入れた。ペキコは声にならない呻き声を出しながら嘔吐し、その場へ崩れ落ちる。ペキコが動かなくなったのを確認すると、俺はハァハァと息を荒くしているミカンさんを強く抱き締めた。



「半田さん…」

「ミカンさん…もう会えないかと思いました」

「良かった…本当に無事で」



 ミカンさんは俺の胸に顔を埋めて優しく呟いた。が、一方で根黒は呆然としていたものの、突然我に返ると俺とミカンさんに向かってきた。俺は咄嗟にミカンさんを守ろうと根黒の前に立ちはだかる。



「ミカンさん!何故此処にいるのです?貴女は閉じ込めておいたはず。あの爆発でスペアたちと一緒に吹っ飛んだはずなのに…何故!?」

「所長…全ては貴方のお陰です。あの日、半田さんと別れた後で私を相談所へ呼び寄せたでしょう?そして私を半田さんに会わせまいとシェルター仕様の牢屋に閉じ込めたでしょう?そのお陰で先の爆発から身を守ることができました。私は他のスペアたちと違って暴走しなかったから、ペキコをより完璧にするためのサンプルが必要で私を閉じ込めたのでしょう?」

「な、一体何のこと…」

「しかも私とスペアとすり替えて、あわよくばスペアを暴走させることで邪魔な半田さんを消させようとした。違いますか?」



 ミカンさんは俺の後ろから淡々と根黒を問い詰めた。ミカンさんから詰問された根黒はあたふたしながらバツ悪そうに唇を噛む。どうやら図星のようだ。何とも胸糞悪いこれまでの経緯と根黒の真意を聞いて俺はフゥ~と息を吐いた。そして俺は根黒の元へ近づくと根黒の肩をポンと叩く。



「は、半田さん!ち、違うんです!これには深い訳が…」

「『()()』訳ですか?」

「いや、その…話せば分かる…」



 しどろもどろになる根黒の鼻っ柱に向かって俺は思い切り拳を入れた。俺からの一撃を受けた根黒は数メートル吹っ飛ぶと、大の字になって鼻血を出したまま気を失った。



「……これでチャラにしてやるよ」



 俺は一部始終を心配そうに見ているミカンさんの方に向くと、ニッコリと微笑んだ。

次回完結です

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