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彼女は此処にはいません

「ペキコさん、急いで荷物をまとめてください!此処にいては危険です!」



 根黒はペキコに逃げるように慌てて指示を出した。ペキコは無言で頷くと部屋の奥へと引っ込んでいく。

 相談所のドアの方からはドアノブをガチャガチャ動かす音と「開けろ」という叫び声が聞こえてきた。もう少ししたら突入してきそうな勢いだ。その間も俺はずっと根黒の胸倉を掴み、じっと睨み付けていた。



「は、半田さん。いつまで掴んでいるおつもりですか?私は忙しいので離していただけますか?そろそろお(いとま)したいのですが」

「まだだ。俺がアンタをこのまま逃がすと思うか?」

「ミカンさんのことはもう良いではありませんか。部屋の奥にミカンさんのスペアは山程居ますから好きなの持っていってくださいよ。仁沢賀瀬家に捕まったら今度こそ私はおしまいなんですよ」



 根黒は泣きそうな声で懇願するが、俺は聞く耳を持たない。そうこうしている内に相談所の入り口のドアを蹴破ろうとする激しい音が響いてきた。根黒は俺の手を離そうと必死に抵抗するが、俺は全く動じない。



「悪く思うなよ。俺は仁沢賀瀬尚葉からアンタを捕まえるように依頼されたんだ。本来であれば見逃してやってもよかったが、ミカンさんのことで完全に気が変わった。今すぐアンタを奴等に引き渡す」

「なっ!?う、裏切者!!仁沢賀瀬家に私を売ったのか!!貴方のことを信じていたのに!」

「人を騙しといて白々しい。そもそも俺はアンタの仲間じゃない。一緒にしないでくれ!」

「ぐ、ぐぅうう…グフフ」

「??」



 追い詰められたはずの根黒が不意に笑った。観念して諦めの笑みを見せたのか?と思っていたら急に首の辺りに痛みが走り、息苦しくなってきた。

 何者かが俺の背後に回り込み、すごい力で首に腕を回して絞め上げているようだ。気配なく背後を取られた不覚に驚く間もなく、余りの息苦しさに俺は思わず根黒を掴んだ手を離してしまう。



「さすがです、ペキコさん。助かりました」

()()()()()()を助けるためならこのくらいは造作ないわ」

「グフフ、悪く思わないでくださいね、半田さん。私たちはこれからハネムーンと言う名の逃避行に出るのですから。それではごきげんよう」



 俺の首を背後から絞めていたのは何とペキコだった。いつの間に部屋の奥から此方へ回り込んだのか。根黒が部屋の奥へと逃げおおせたのを確認すると、悶える俺を離してペキコも根黒の後を追った。



「ま、……ゲホッ……待ちやがれ…ゲホッ」

「そうそう、半田さん。先程申し上げた通りミカンさんのスペアは差し上げます。お代は入りませんので礼には及びませんよ、グフフ」



 根黒の捨て台詞が部屋の奥から聞こえてきた。俺は首を絞められた苦しさからその場にしゃがみ込み、何度も咳き込む。ペキコの身体能力や力…とても並の女性のものとは思えない。どうやら根黒の作り上げた人造人間は俺の予想を超えるほどの危険性があるようだ。このままあんなのを野放しにする訳にはいかないだろう。



「ゲホッ…チクショウ。逃がすものか……」



 俺が立ち上がろうとしたとき、ドアの方から轟音と共に完全武装した集団が相談所の中へなだれ込んできた。装備を見るに俺のアパートで化け物が現れた時にやって来た連中と同じようだ。武装集団は俺の他に誰もいないことを確認すると、大急ぎで他の部屋へと向かっていく。

 余りの手際の良さに俺が呆然としていると、武装集団から遅れて数人の黒服の取り巻きを引き連れた尚葉が悠然と相談所の中へと入ってきた。尚葉は相談所内の汚さに顔をしかめているようで、ハンカチで口元を押さえている。



「アンタ、矢場井は何処だい?」

「ゲホッ…奴ならあの部屋の奥へ逃げた…」

「はあ?まさかまんまと逃げられたのかい?……カアーッ、肝心な時に役に立たないねぇ!」

「ゲホッ…悪かったな!矢場井だけなら問題なかった。それより…奴と一緒にいる女の方がヤバい」

「女?」

「女に不意打ちされた…ソイツは、矢場井が作った人造人間だ。ソイツはとても俺の手に負える相手じゃない」

「……はぁ~、呆れた。何の為にアンタを雇ったと思ってるんだい」

「うるせぇ!!良いから舐めてかかったら痛い目に遭うぞ。とにかく周囲を固めて増員した方がいい」



 俺は尚葉に忠告するが、全く本気にしていないようだ。心底ムカつくババアだ。

 とその時、相談所の外から複数人の叫び声と銃声らしき破裂音が聞こえてきた。俺と尚葉は同時に相談所のドアの方を見る。



「外へ逃げたか!お前たち、急いで矢場井を確保しな!」

「ハッ!!」



 尚葉が命令すると、取り巻きたちは一斉に相談所の外へ向かった。尚葉は俺を一瞥すると、軽く舌打ちをして取り巻きたちの後を追う。どうやら見限られたか。



「チッ…とりあえず根黒のことは一旦あのババアに任せるか」



 俺は尚葉たちの向かった方とは反対に部屋の奥を見た。あの先に根黒曰くミカンさんのスペアがある…。俺は全てを知るべく根黒がひた隠しにしてきた部屋へと足を踏み入れた。おもむろにドアを開けてみると…



「……一体何だ、これは?」



 奥の部屋には無数のベッドとそこに静かに横たわる妙齢の女性たちの姿があった。彼女たちは生きているのか、はたまたマネキンなのか。何とも言えない不気味な空間だけが広がっている。

 根黒は此処で実験をしていたと言っていた。きっと客である俺好みの女性を作るために、ひいては自分のための女性を作るための実験台として彼女たちを利用していたのだろう。薄気味悪い事実に背筋が寒くなってきた。

 だが、これは違う。彼女たちはミカンさんではない。ミカンさんのようで似ても似つかない。所詮はミカンさんのなり損ない、スペアに過ぎない。俺の求めるミカンさんは此処にはいない。



「俺は……俺は彼女の何に惹かれていたんだ?俺が惚れていたのは最初からありもしない幻だったのか?」



 ベッドに無言で横たわる彼女たちを改めて見て俺はポツリと呟いた。

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