根掘り葉掘り聞くことになります
「本当によく分からないんですって。それ以上は知らないんですよ」
「……うーん、そうですか。困りましたねぇ…我々としてもどう対処して良いのやら」
俺は無理やり入院させられた病室のベッドの上で担当刑事から今回の件についてあれこれ事情聴取されていた。はっきりいって全く体のどこも悪くないのだが、マスコミ対策なのか何なのか朝から軟禁状態である。事情聴取には素直に応じているものの答えようがないというのが正直な所だ。
バウンティハンターの職業柄、普段から懇意にしている刑事が担当だったのは幸いかもしれない。とは言え彼も今回の件についてはどうして良いのか頭を抱えている。そりゃそうだろう。当事者である俺ですら分かってないんだから。
「俺よりも聞かなきゃいけない人がいるんじゃないですか?仁沢賀瀬の連中とか…」
「ひっ!!」
「??どうしたんですか?」
「は、半田さん…それはダメなんです…。仁沢賀瀬家と関わるのは。我々、警察として仁沢賀瀬の存在はタブー。触れてはいけない領域なのです」
「はぁ…それは大変ですね」
刑事の余りの取り乱し様に俺は呆れたように返事した。そんなにあの婆さん、ヤバい奴だったのか。確かに只者ではないが、関わったらまずいという直感は正しかったか。
とは言うもののこのままでは堂々巡りである。どうしたものかと考えていると、突然病室のドアが開いた。ノックもせずに誰だ、ドアの方を睨み付けると思わぬ人物たちがそこに立っていた。一人は警察の制服をキッチリ着こなしたヒゲの立派な年配男性。そして一人は………あのババア、尚葉だった。噂をすれば何とやらか?
「御前、此方にございます」
「署長、ご苦労」
「はっ!君、もう事情聴取はいいから出たまえ」
「は、はい!半田さん、すいません。また来ます」
会話の様子からどうやらヒゲの男性は警察署長らしい。担当刑事は署長にペコペコ頭を下げると、今度は俺にペコペコ頭を下げてそそくさと病室から出ていった。刑事と入れ替わるように尚葉が病室へと入ってくる。どうでもいいが、香水の臭いがきつい。俺はむせるのを必死に堪える。
「署長、二人きりで話がしたいの。貴方も外してちょうだい」
「は!御前、失礼します」
署長は尚葉に最敬礼すると病室のドアを閉めて去っていった。しかしこの婆さん、一体何者なんだ?警察すら触れたくないって余程の大物なのか?
俺が怪訝な表情を浮かべていると、尚葉は刑事が座っていた椅子に腰を下ろした。そして長い煙管を取り出すとゆっくり火を付ける。
「此処禁煙ですよ」
「分かってるわよ、そんなこと。一々細かい男ね」
「アンタが無神経なんだろ、自己中な婆さんだ」
「フン、口の減らない男ね。…まあ、いいわ。とりあえずアンタに聞いておかなきゃいけないことがあってね」
「奇遇だな、俺もアンタに聞かないといけないことがあるんだ」
俺は煙をプカプカ吹かす尚葉に対して挑発する。一方で尚葉は俺の挑発に乗ることなく、煙を吹きながらマイペースを崩さない。しばしの沈黙の後に尚葉の方から口を開いた。
「まずアンタも見たあの化け物。アイツのことを言わないといけないね。あの化け物に尚子が食われた後だ。屋敷に帰ってから色々調べていたんだけど、あることが分かった。アタシの中で何処か引っ掛かるところがあったからね」
「はあ…しかしあのブス、じゃなかった。娘さんのことは残念だったな」
「ま、尚子のことは置いといて」
「置いとくのかよ」
「あの化け物はかつて仁沢賀瀬家が雇ったある科学者が誕生に関わっている」
「はい?」
尚葉の言葉に素っ頓狂な返事した。何だって?あの化け物が仁沢賀瀬家と関わっている?どういうことなんだ?
「どうやら頭の中がクエスチョンマークだらけだろうね」
「いや…それは当たり前なんだが…何でそういうことになる?それにそもそも仁沢賀瀬家って何なんだ?」
「はい?アンタ、もしや仁沢賀瀬家が何なのかも知らないのかい?」
「全く知らん」
「はあ〜〜……やれやれ、この国で仁沢賀瀬家のことも知らないニワカがいたなんて…ま、しょうがないか我々のような上級国民のことは警察の中でもタブーだろうし。アンタみたいな底辺のチンピラ崩れが知らないのは当然か」
「チンピラ崩れで悪かったな!」
一々癪に障るババアだ。こうなったらトコトン聞かなければ俺の気が済まない。俺が睨み付けていると尚葉が面倒臭そうに説明する。
どうやら仁沢賀瀬家とはこの国のフィクサー的な存在らしく、警察や司法、マスコミにも顔が利く大物らしい。仁沢賀瀬家が関わった件については治外法権になるとのことで一般市民らがその存在を知ることはまずないらしい。バウンティハンターとして割りと警察にも顔が利く俺ですら仁沢賀瀬家のことは知らなかった。
どうも聞けば様々な事業…というか完全にアウトなものにも手を出しているとのことで、今回の化け物についても尚葉が美容や不老の研究の為に雇った科学者が偶発的に誕生させてしまったものらしいのだ。
「………ってことは全ての元凶はアンタじゃねえかよ!!」
「フン、だから何?まさかこんな所で奴と繋がるとは思っても見なかったけどね」
「自分のせいというのは認めるのかよ…」
「正直面倒ではあるけど、色々とマスコミや警察が騒いで来てるからね。そろそろ仁沢賀瀬家にも影響が及ぶ恐れがあるから手を打つつもりだよ」
「だったらそうしてくれよ…」
相も変わらずマイペースに煙を吹かす尚葉に俺は頭を抱える。頼むから俺を巻き込まないでほしい。しかし俺の想いとは裏腹に尚葉は話を続ける。
「ま、アタシが言いたいのはだ。アンタの腕を見込んで捕まえてほしいヤツがいるのさ」
「俺の腕?」
「バウンティハンターとかよく分からないことをほざいていたじゃないか。底辺のチンピラ崩れだけど、腕前はこの目で見たから確かなのは知ってるし」
全く一言多いババアだ。褒められてるのか貶されているのか分からん。
「捕まえてほしいヤツがいるって…警察に頼めばいいだろう」
「警察は当てにならないよ。どんな罪でしょっ引けばいいかアタフタするだろうしね。それよかアンタは何のしがらみもないし、金さえ積めば乗ってくれるだろ?」
「うっ……痛い所を突く」
確かに金が欲しいのは図星だが、色々と整理すべき事も多々ある。家のこともミカンさんのことも。本来であればこんなことしてる場合ではないのだが…。
「捕まえてほしいヤツの顔と情報だよ。このデータが欲しけりゃ後でQRコードを読み込みな」
尚葉は俺の都合など我関せず、自前のスマホの画面を俺に見せつける。俺は面倒臭そうに自身のスマホをベッド横の棚から取り出そうとした……が。尚葉のスマホの画面に映ったターゲットの顔を見た瞬間、動きが止まった。
「おい…婆さん。本当にコイツを捕まえてほしいのか?」
「ああん!?誰が婆さんだって?」
「いや、俺はコイツを知っている…というかつい先日会っている」
「は?アンタが知ってる?」
「………根黒………」
思わぬ所で点と線が繋がろうとしていた。




