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やな奴と再会します

 

「まさか…!あのば、ババア??」



 外からの拡声器の声とほぼ同時に部屋の窓ガラスが粉々に飛び散った。外からの風圧で部屋のカーテンは激しく揺れ、只でさえ眩しい光がダイレクトに部屋の中に入ってくる。俺は手で光を遮りながら外の様子を伺うと、ゴツい姿をした人影が4、5人くらいだろうか窓から侵入してきた。人影たちは何やら武器のようなものを手に持ち、未だのたうち回る化け物を取り囲む。


 光が一瞬遮られたことで人影たちはヘルメットにガスマスク、全身は鎧のような真っ黒な装甲、手には自動小銃と完全武装していることが分かった。人影たちは一斉に自動小銃の銃口を化け物へと向ける。…ちょっと待て。まさかとは思うが、室内で発砲するのではなかろうな。



「全員構え!!………撃て!」



 やりやがった。俺は耳と目を塞ぐと慌ててドアの方へと身を屈めながら走った。手の間から銃声の激しい爆音が耳へと響く。目にはマズルフラッシュの点滅が飛び込んできた。目を閉じねば失明しかねない。



「撃ち方やめ!!」



 号令と共に銃声が止んだ。火薬の嫌な臭いが鼻を突く。俺は恐る恐る目を開けてみた。部屋の中に無数の銃弾を受けてぐったりしている長い黒髪の化け物とそれを取り囲む黒尽くめの武装集団が見える。化け物から一滴も血は出てないが、ダメージは受けているらしい。あまりにも現実離れした光景に俺は呆然とした。これは何かの映画か、はたまた悪夢か。



「な、何なんだこれは…」



 俺は何とか言葉を絞り出すが、語彙力が追いつかない。更によく観察すると外で鳴り響いていた轟音の正体がヘリコプターのローター音であることが分かってきた。そしてヘリコプターに拡声器を持って此方を睨み付けている女が乗っていることも。いや女というよりも婆さんか?



「奴を仕留めたんだろうね!?」

「サー、イエス、サー!」

「よし、今から降りてソチラに向かう」

「サー、イエス、サー!」



 ヘリコプターから拡声器の声が再び響く。もはや近所迷惑の領域を完全に越えている。通報ものではないのか、これは。と思ったら遥か遠くからサイレンの音が聞こえてきた。そりゃ誰かしら警察や救急に通報するわな。

 俺はしばし呆然としていたが、はっと我に返ると部屋のドアの方を向いた。すると玄関のドアが一気に開け放たれ、ド派手な出で立ちの婆さんが煙管(キセル)を燻らせながら悠然と入ってくる。ボディーガードなのか婆さんを囲むように屈強な男らも一緒に部屋へ入ってきた。婆さんを見た武装集団は一斉に婆さんへ向けて敬礼する。



「ご苦労。どうやら間違いないようだね」

「サー、情報の通りです、サー!」

「ふむ…やはり奴の仕業か。ん?………誰だっけアンタ………ああ、ボディーガードを頼んだヤツか」



 婆さんはようやく部屋の中で固まっている俺に気づいたらしく声を掛けてきた。やはりというか、何というか予想通り婆さんの正体はあの倉庫で会った仁沢賀瀬尚葉ひとさわがせなおばだった。二度と会いたくないと思っていたらあっさりと再会するとは。何の因果なんだ。尚葉は俺の姿を確認すると面倒臭そうに煙管から煙を吹かした。



「でアンタが此処にいるんだい?」

「此処は俺が住んでるアパートなんだが…」

「は?このボロが?あたしゃ倉庫かと思ってたよ」



 馬鹿にしたように尚葉が笑う。全く持って鼻持ちならない婆さんだ。俺が溜め息を付いていると、今度は防護服を着た集団が部屋の中へと入ってくる。只でさえ狭い部屋なのに大人が何人も入ってくるから一気にぎゅうぎゅうになった。



「話は後々(あとあと)、さあ出た出た」

「お、おい!話はまだ…」

「悪いね、大事な用があるんだよ」



 よく分からん内に俺は防護服を着た集団から部屋の外へと追い出される。いつの間にか蚊帳の外に置かれたみたいだ。気がつくとアパートの周りには規制線が張られ、何十台ものパトカーやら救急車が到着している。他にもよく見たらマスコミの一団やユーチューバーらしき連中もいるようだ。ほんの数十分の間にとんでもない事態になっているらしい。



「ちょっとこっちへ!すぐにそこから出て!!」



 部屋の外で見張っていた警察官に促される形で俺は規制線の外へと出された。そしてそのまま警察と救急隊に囲まれる形で無理やり救急車へと押し込められる。



「え、俺はケガとかないですよ?!」

「念のため病院へ向かいます。事情聴取はソチラで行います」

「なっ…何が起きたというのだ…?」



 こうして事態が飲み込めないまま、俺は激動の一日を何故か病院で終えることになったのである。そして、それはある意味長い地獄の始まりでもあった。

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