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彼女を家に招きます

 どうしてこうなった…。今日はミカンさんとの初デートかと思いきや拉致騒動、それに加えて謎の化け物の襲来と濃すぎる一日だった。その最後はまさかの彼女を自宅へ入れるという急転直下な展開である。

 言い訳ではないが、ミカンさんからのお願いで仕方なくである。断じて無理やり誘ったのではない。俺は何度も自分に言い聞かせてデスマリッジ結婚相談所から自宅へミカンさんを連れて行くことになった。


 なおその前に何度かミカンさんと押し問答があった。だが業を煮やした根黒が戻ってきて「どうせ一緒になるなら先に部屋を見ておいても損はないでしょ、グフフ」と丸め込まれた形で落ち着いた。ミカンさんは外見通り清楚で大人しい人だが、妙なところで我を通すタイプのようだ。



「あの、ミカンさん?」

「はい、何でしょう」

「本当にいいんですか?もう遅いし、俺最寄り駅まで送りますよ。親御さんとかいたら心配するでしょう」

「それなら大丈夫です。私の家のことはご心配なく」

「そうなんですか?」



 何となく他愛もない会話をしながら俺たちは家路へと歩く。しかしミカンさんと話はしているが、ミカンさんの人となりがまるで分からない。何を聞いても「大丈夫」「そう思っていいです」しか返ってこないのだ。まるでロボットかAIと話しているような無機質で不気味な印象だ。いや、まだロボットの方がマシかもしれない。その内話すことも無くなり、しばしの沈黙の後に目的地である俺の家の前に着いた。



「此処の二階です」

「まあ、素敵なお宅」



 ミカンさんは褒めてくれているが、見てくれは只のボロアパートなので皮肉にも聞こえる。ミカンさん、いや女性を招くのも恥ずかしい代物だ。俺は内心溜め息を付きつつも、ミカンさんを部屋へと案内する。



「あれ?半田さんじゃないですか?」



 後ろから男の声が聞こえたので振り返ると、いつぞやのアパートの隣の部屋に住む新婚の夫婦がいた。何でこのタイミングで会うんだ。仕方なく俺は顔を引きつらせながら軽く会釈する。夫婦は人当たりの良さそうな見てくれだが、相変わらず何処か人を馬鹿にしたような笑みを奥に浮かべている。



「おや?珍しいですね、女性連れなんて」

「えっ…ええ、まあ…」

「半田さん、お知り合いの方ですか?」

「あっ…隣の方です」



 厄介な所を見られてしまった。コイツらに会ったらまた変な噂を立てられるに決まってる。

 俺は当たり障りのない返事をすると、急いでミカンさんを部屋へと入れようとする。夫婦は俺たちの様子に怪訝な表情を浮かべると、また小声でヒソヒソと会話しているようだった。正直どうでも良いが、放っといてほしいもんだ。俺はドアの鍵を閉めると、ミカンさんに頭を下げた。



「すみません、実は隣の夫婦とはあんまり仲良くないんです」

「そうなんですか?とても仲の良い素敵なご夫婦に見えましたが」

「まあ、見てくれはいい人たちなんですけどね。あっ、立ち話も何ですのでどうぞ」



 俺はミカンさんを部屋へと上げる。婚活を始めるに当たって大掃除を決行しておいて正解だった。まさかこんなにも早く女性を部屋に入れる機会が来ようとは思わなかった。とは言え、男の部屋である以上はどんなにキレイしたとしても限界はある。此処で生理的に受け付けられなければ、元も子もない。


 当のミカンさんは俺の部屋に置かれているものを興味深そうに眺めている。別にやましいものはないのだが、それでも緊張するもんだ。俺は気を取り直してミカンさんへ座布団を用意してお茶を入れることにした。



「インスタントで申し訳ないですが、どうぞ」

「まあ、ご丁寧にありがとうございます」



 ミカンさんの笑顔が眩しい。本当にこれは現実なんだろうか?タヌキかキツネに化かされてないだろうな。先の化け物が出てきた以上、現実であることを疑いたくなる。



「半田さん」

「は、はい!!」



 ミカンさんから不意に呼ばれて年甲斐もなく変な声が出る。これまで生きてて家族以外の女性と二人きりで長時間過ごすことがあっただろうか。変に意識してしまう。



「今日、泊まっていってもいいでしょうか?」

「えっ!?……ええと」



 ミカンさんの発言に言葉が詰まる。これは…いいのか?一瞬良からぬ考えが脳裏に浮かぶ。幾らお互いいい大人とは言え、デート初日にお泊りはどうかと思う。しかしながら外は真っ暗になってるし、これから女性一人を帰らすのも危ない。俺は少し考えてから頷いた。



「ありがとうございます!」



 泊まりの了承が得られたことでミカンさんの表情がパァと明るくなった。何か此処まで良い笑顔で来られると罪悪感が出てくる。



「あの、本当に大丈夫ですか?ご家族とか心配されているのでは?」

「先にも言いましたが、私の家のことはご心配なく」



 さっきと打って変わってミカンさんの表情が暗くなった。家に帰りたくない理由でもあるのか?それとも家族と仲が悪いのか?どうやら今のミカンさんに家族の話題はNGみたいだ。これ以上聞いても返事はないだろうし、ミカンさんの気分が悪くなるだけだ。俺は話題を変えることにした。



「あの、ミカンさん。ご飯はこれからですよね?何か食べに行きませんか?」

「そうですか?私は大丈夫ですが」

「でも此処にいても何もないですよ?正直キレイ…とは言い難いですが、美味い店を知ってるんでいかがですか?」

「……私は半田さんさえいれば何も良いのですが、そこまで仰るなら行きましょう」



 ミカンさんはニコッと笑い立ち上がる。俺も無理やりながらミカンさんへ笑って返す。別にこんな遅い時間に出掛けなくて良いのだが、自宅なのに全く落ち着かない空気がどうにもダメだった。



「半田さん、こんな時間に何処へ行かれるのですか?」



 部屋の鍵を閉めて出発しようとしたとき、またしても男の声に呼び止められた。だが、今度は隣の夫婦ではなかった。ツルツルの頭に角眼鏡を掛けた不機嫌そうなジイさんがパジャマ姿で仁王立ちしている。しばらく俺とミカンさんを興味深そうにジロジロ見ていたが、フンと鼻息を荒くすると此方へと迫ってきた。



「こ、こんばんは…大家さん」

「半田さん、困りますな。家賃を滞納しているのに女遊びだなんて」

「女遊びだなんてそんな」

「半田さん、分かってますか?皆アンタに迷惑してるし、怖がっているだよ?」



 ジイさんこと大家が厭味ったらしく俺に絡んできた。何でこんな時に…。俺は心の中で舌打ちした。

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