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とりあえず報告にいきます

 

「はあ…はあ…はあ…ねえ、アンタ…あれは一体何さ?」

「ゼェゼェ…ゼェ…は?俺が知る訳なんだろ?オバサン…アンタの差し金じゃないのか?」

「はあ…はあ…ああん?!私が知らないから聞いてるんじゃないか!」



 俺と尚葉は突然現れた謎の化け物から逃げる為にひたすら走り続けた結果、とある倉庫の一角で漸く立ち止まった。息を切らせながらも化け物が追ってこないかだけを確認する。幸い後ろから追ってくる様子はない。


 しかしあの白い化け物は何だったのだ?突然気配なく現れて尚子をあっさりと飲み込んでしまった。まるで映画の世界だ。本当にこれは現実なのか?と思っていたら横からビンタが飛んできた。



「痛て!!」

「フゥー、これで痛いってことは現実ってことね」

「いきなり何するんだ!」

「夢かどうか確かめただけよ」

「自分を叩けばいいだろうが!」

「嫌よ、痛いもの」

「こ、このババア…」



 俺は尚葉に抗議しながらビンタされた頬を擦る。やはり現実だったのか。信じられないが、認めるしかない。だが、これからどうする?



「私はひとまず帰るよ。態勢を立て直さないといけないし、色々と調べることもあるしね」

「えっ?まず警察に連絡を…」

「はあ〜。あのね、こんなこと警察に言って信じると思う?イタズラに思われるのがオチでしょう?」

「まあ…そうだけど。でもアンタのお嬢さんはよく分からん化け物に食われちまったんだぞ!?よくもまあ、そんな冷静に…」



 変わり身の早い尚葉に対して怒りが湧いてくる。確かに警察に言ったところでどうしようもないのは分かるが、ちょっと薄情すぎやしないか?



「尚子のこと?フン、どうでもいいわ。アイツのことは前から勘当してるし、そもそも血の繋がりもないし」

「へ?!」

「養子よ。身寄りのないあの子を後継者にする為に引き取ったの。手塩に掛けて育てたつもりだけど、とんだ食わせ者だったわ。運命の人と思った男に騙されたから助けてと縋りつかれて仕方なく今回協力してね。とんだ目に遭ったわ。ま、厄介払いができて万々歳だわ」

「とんだ毒親だな…」



 ほんの少しだけ俺は尚子に同情した。こんな奴に育てられたら性格も容姿も歪む訳だ。まあ、災難ではあったが成仏してくれ。



「アンタはどうするんだい?」

「俺は………あっ!?デートの相手を置き去りにしたままだった!」

「アンタ、中々のクズだね」

「誰のせいだと思ってやがる!」

「フン、まあいいわ。ところでボディガードの件、考えておいてね。私はまだ諦めてないから」



 そういうと尚葉はスマホを取り出し、何処かへと連絡している。たぶん迎えを呼んでいるのだろう。正直もうこのババアと関わるのはゴメンだ。


 と俺はスマホを慌てて取り出した。もしかしたらミカンさんから連絡が来ているかもしれない。着信履歴を確認してみたが、残念ながらミカンさんの名はなかった。俺の方からミカンさんへ連絡したが、どうやっても繋がらない。


 仕方なく俺はもう一度周囲をよく見回した。やはり見覚えのある場所だ。スマホの地図を確認するとビンゴ。此処から少し歩けばデスマリッジ結婚相談所がある。そこで根黒に事情を説明するとしよう。信じるかは分からんが…。



「じゃあな、婆さん。もう会うことはないが、お達者で」

「誰が婆さんだぁ!?覚えてなよアンタ!!今度会うまでにスカウトの返事を考えておきな!」

「もう忘れた」



 尚葉に悪態を付くよう別れると、俺はスマホの地図を頼りにデスマリッジ結婚相談所へと向かった。ものの数分足らずで相談所の入り口に着くと、早速ドアのベルを鳴らす。が、中から返事がない。頼む、出てくれと祈っていると、ドアがガチャリと開いた。



「はい、どちら様でしょうか?」

「えっ!?……えっと、……デスマリッジ結婚相談所、ですよね?」



 中から現れたのは根黒…ではなく、スタイル抜群の長い黒髪の肌艶の良い美人だった。パッチリとした黒目に高くスラッとした鼻、薄めの可愛らしい唇。誰もが見惚れるくらいの顔立ちをしている。はて?こんな人ミカンさんの他に見たことないぞ?根黒がいつの間にか雇ったのか?それとも婚活相談者か?



「はい、此方はデスマリッジ結婚相談所です。所長に御用でしょうか?」

「え??!は、はい!」

「ではどうぞ、お入り下さい」



 何となくミカンさんを彷彿させる美人に促され、俺はデスマリッジ結婚相談所に入った。中はあいも変わらず小汚いが、尚更何故こんな美人が居るのか疑問符が浮かぶ。



「どうぞ、おかけ下さい」

「はあ、どうも…」



 俺がいつぞやの椅子に座ろうとした時、部屋の奥の方から根黒が慌てふためくように現れた。何か凄く焦っているように見える。どうも俺のことが眼中に入っていないようだ。



「いけませんよ、『ペキコ』さん。まだ人前に出るときではありません」

「ごめんなさい、所長。お客様が見えたのでつい」

「だとしても出る前に必ず私に知らせてください。ペキコさんは私にとって特別な存在なのですから。グフフ」

「はい…ごめんなさい、所長」

「今回は許しますが、奥の方へ戻ってくださいね」



 根黒は『ペキコ』と呼ばれた美人を自分がやって来た部屋の奥へ行くように促した。根黒の言う通り『ペキコ』は奥の方へ去っていく。『ペキコ』が居なくなったのを確認すると漸く根黒は俺の方に顔を向けた。



「お待たせしました、どういった方をご所望で…って半田さんじゃありませんか」

「漸く気づきましたか」

「あれ?今日は確かミカンさんとデートの日では?どうして半田さん一人で此方に?」

「どうしたもこうしたもないですよ。まあ、聞いてくださいよ」



 色々と言いたいことはあるが、まずは今日俺の身に起きたことを根黒に報告する。もはや半分以上愚痴になるが、喋り出したら止まらない。根黒は俺の話に時折相づちを打ちながら、ウンウンと頷いている。



「…とまあ、それでデートが台無しになってしまった訳です」

「なるほどなるほど。それは災難でしたね」

「でも、そんなことはどうでもいいくらいの目に遭いましたけどね」

「と申されますと?」

「信じられないかもしれませんが、化け物に襲われました。黒い髪の長い色白の巨大な怪物です。まるで映画の世界から出てきたみたいな…まさにそんな奴です」

「なるほどなるほど。…で、警察にはそのことを話されたのですか?」

「まさか!話したところで信じる訳ありませんよ」



 俺は自嘲気味に笑う。対して根黒は真剣に俺の話を聞いていた。寧ろ俺の先の愚痴よりも興味を持っているようにも感じる。



「ふむふむ…そうですか。ところで半田さん、その化け物とやらを他に見たのは?」

「仁沢賀瀬尚葉とかいう婆さんだけです。どうも仁沢賀瀬グループの総帥とか言って、警察は頼りにならないから独自に調べるとか抜かしてましたが」

「……それは…厄介ですね」

「ん?」

「あっ、いやいや!?半田さんがご無事で何よりです」



 根黒はごまかすように笑った。俺は根黒の態度に疑問を持ちつつも、ミカンさんについてどうすべきかを考える。連絡は取れないが、何としても謝りたい。でも謝って許してもらえるだろうか。



「半田さん、ミカンさんのことを考えてますね?」

「えっ…!?」

「グフフ、ご心配なく。ミカンさんは此方にやって来ますよ」

「は?一体どういう…」

「先程ミカンさんから私に連絡が来ましたので。ん?噂をすれば来たみたいですよ」



 ピンポーンとドアのベルが鳴った。部屋の奥から『ペキコ』が出てこようとしたが、根黒が視線を送って留める。根黒が代わりに入り口のドアを開けると、そこには根黒の言う通りミカンさんが立っていた。



「み、ミカンさん…?」

「半田さん…ご無事ですか!?」



 ミカンさんは駆け出すように中に入ると、一目散に椅子に座る俺に抱きついてきた。

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