茨の城 2
切れ目の都合ですごく短くなっちゃったので、今日は2話投稿です
「まさか、茨の迷宮を自分で体験できる日が来るとはねえ……」
「ウキウキしとる場合か」
「ホーソーン卿にこんな一面がおありだとは存じませんでしたわ……」
一方こちらは、魔女の庭の迷宮に取り残された、不運な客人三人衆である。
彼らは茨の蔓の隙間をなんとか移動しながら、時折動く茨の蔓を避けつつ、懸命に出口を探していた。
「こいつは古代・中世の魔術オタクなんだ。特に、おとぎ話に出てくる魔術の真偽の研究が専門でな。出張がやけに多いんだが、それも、倉庫を片付けたら古文書が見つかっただとか、家を建て変えようとしたら遺跡が出ただとか、伝説に現れる精霊が出現したとか、そう言う話を聞くとすぐに飛び出していくからだ。人当たりが良く見た目がきちんとしているのも、インタビューを取りやすいようにらしい」
「見た目で聞き取り相手を逃すのは損じゃないか。怪しい人に声を掛けられたら、皆そそくさと逃げていくだろう? でも、綺麗な身なりをした人間が相手なら、そうそう無碍にはできないものさ」
「さすがは研究局の職員ですわね……」
王立魔術研究局は、魔術研究を志す者にとって、ひとつの頂点とも言える組織である。どれほど人当たりの良い美形に見えようとも、彼もまた、セージに負けず劣らずの魔術オタクなのだ。
「ちなみに、茨の迷宮とはどのような魔術ですの?」
「これは魔術ではなく、魔法です。精霊の力の強い土地で起こる、魔女の防御魔法のひとつですね」
セルフィーユの問いに嬉々として、ヒースは語り始めた。
「城の中に守るべき対象がいるが救援が望めない、といった場合に、城を閉ざして眠りを降らせ、救援を待つための魔法です。おとぎ話同様に、百年眠るか、守られるべき対象を愛するものが迎えに――要するに確実に救援だと分かる者が迎えに来るまで、茨が解けることはありません。……ああそうだ、これって本当なのかな?」
話ながら、何かを思い出したらしい。ヒースは懐からおもむろにナイフを取り出すと、茨に向かって切りつけた。茨はうねって鞭のようにしなり、ヒースの頬に赤い傷を付ける。
「ほほう!」
その結果に目を輝かせたヒースは、今度はポケットからマッチを取り出した。唖然とする他二名の前でそれをすると、小さな炎を茨に押し当てる。
茨は再び鞭のようにうねり、今度はヒースの反対側の頬に、赤い筋の傷を付けた。
「ちょっと! やめてくださいまし!」
「おい、巻き込むな!」
「すごい! 伝説通りだ……」
セルフィーユとセージの抗議も何のその、ヒースは新しいおもちゃを見つけた子犬のように目を輝かせ、うねる茨の蔓を叩いてカラカラと笑った。
「茨は切れもしないし、燃やせもしない! 伝承にもそう記されてる! ホントだったんだ‼」
「いや、ホントだった、じゃないんだが……」
はしゃぐヒースを横目に、セージは暴れる蔓を蹴りつけてため息を吐いた。心なしか、迫り来る蔓が近づいて来ている気がする。
「これはひょっとして、段々と締め付けられて死ぬ、という罠なのではないか?」
「つまりわたくしたち、行けもしなければ帰れもしない、ここが人生の終着点ということかしら……?」
セージとセルフィーユは顔を見合わせ、それから天を仰いだ。蔓の隙間から見えていたはずの空が、段々と見えなくなってきているではないか。
「おい、そこのはしゃぎ男。伝説だとこの魔法はどう解けるんだ」
「そうだね、こういう呪いの解除方法は、みんなが知るおとぎ話そのものだよ。茨の城のおとぎ話は、みんな知ってるだろう?」
「姫を守る為に百年閉ざされた城の話か?」
「そう、それだよ」
ヒースは頷き、肩を竦めた。
「子どもの頃に読んだだろう? 呪いを解くには、百年の間眠り続けるか、姫の愛を真に求める男が訪れて、姫に口づけるか……」
「――それだ」
セージがぱちり、指を鳴らした。
ヒースとセルフィーユは首を傾げ、何やらひらめいたらしき男を見やる。
「それって?」
「ここに、城に閉じ込められた『姫の愛を真に求める男』がいるだろうが」
ぽかんとするふたりの前で、セージはヒースからナイフを奪うと、茨に向かって切りつけた。
茨はナイフを避けるようにうごめいたが、ヒースがなんとかナイフを打ち付けると、そこからまるでチーズのように、裂けて切れ落ちるではないか。
「お、おお……?」
「切れた……!」
「――つまり、この茨が伝承通りのものであるならば! 私なら、この茨の道を切り開けるはずだ!」




